『パワー・オブ・ストーン』という本がほしいと手を挙げてくれたみんなへお詫びを言わなくてはならない
今日、新人物往来社という出版社から宅急便で荷物が届いた。『パワー・オブ・ストーン』という3年前に刊行された自分の本だ。刊行した荒地出版という会社が新人物往来社に吸収され、200冊ある在庫を処分すると通告を受けてからもう1カ月以上がたっている。ぼくはなけなしの財布をはたくつもりで40冊を注文した。今日届いたのはわずかに7冊。確認したところ、200冊あると伝えたのは、コンピュータの管理画面上のことで、遠く離れた倉庫には実際にはほとんど残っていなかったので、あるだけ送ったとあっけない返事。在庫の管理ができていなかったのか、あるだけ売ってしまったのか、ぼくにはわからない。この本の製作にかかわつた編集者はすでに退社していた。いちども顔すらあわせたことのない電話の向こうの相手の沈黙の声を理解することはむずかしい。つまり、初版本はあらかた売り切れていたが、3年かかって売りきれるような本をここにきて増刷する余裕は中小出版社側にはもうなく、この機会にコンピュータの上の架空の200冊も全部処理されてしまったということになる。結局、『パワー・オブ・ストーン』は7冊しかない。自分で2冊キープすると、この本をほしいと言ってくれたたくさんのみんなに直接持っていって売れるだけの数が、はじめからないということになる。あやまるしかない。どうかしばらくは古本屋さんで探してください。本というものとは正しい時と場所における出会いが必要なのだ。ぼくとしては絶版になったこの本の精神が生き続け、いつかまた日のあたるところに出る機会がもたらされることを祈るしかないし、ぼくはその道を探すことは約束する(必ず次の時代の出版社があらわれると)。ぼくの作る本はどれもそうだが、数万部が羽の生えたように、パンケーキのごとく売れるものではない。大手出版社はそうした本しかありがたがらない。だから時代を超えられない本だけで書店の棚があふれてしまう。でも、独自のセレクトで時代を超える可能性のある本を売るユニークな書店さんも増えつつあって、おかげでネイティブに関する本は年を追うごとに読んでくれる人の数は増えてきてはいる。最初にぼくか作った『ネイティブ・マインド』の出版社である地湧社のように、余裕のないなかで本を大切に扱ってくれる(くれ続ける)小さな出版社があることは救いである。おかげで、絶版になることもなく、年に数千部が出続けて増刷を繰り返している本は何冊かあるけれど、ほとんどの人は本を好きなだけ購入するほどの余裕があるわけもなく、売れていく速度が余りにもスローな本は、出版不況が叫ばれてから10年以上、どこの出版社も大切な商品とは考えてくれない。それでもものを書くことと話をすることを仕事に選んだぼくは、時代を超えて次の世界が必要とすると信ずる言葉を、これからも編み続ける。
*写真はぼくがずっと好きな書店であるシティライツ・ブックストアー(サンフランシスコ)。時代を超えてきた代表的な本屋さんだ。
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Comments
僕と北山さんと初めて出会ったのはこの本が最初でした。それ以来幾つかの本と毎日欠かさず拝見させて頂いているブログを通して生き方の道標にしています。そうゆう意味で僕にとって北山さんと、ひいては地球にいきる人間としての在り方を教えてくれたこの本はかけがえのないものです。一生大切にさせて頂きます。素敵すぎる本を本当にどうもありがとうございます!
Posted by: taka | Thursday, October 29, 2009 12:22 AM