なぜあなたは、家でこの海鳥の頭蓋骨を大切にしなければいけないのか?
信仰の対象としてのアホウドリ、その起源は以下の通り:
昔々、何年も前のこと、アイヌの間に悪い病気が流行して、たくさんの人々が死んた。当時、善良で名誉あるトキランゲという名前の男がいた。さて、この男が不思議きわまりない夢を見たことがあった。夢のなかで彼は、人々が列をなして集まっている非常に大きな家を見た。列の先頭にはひとりのチーフが立っていた。彼はこう言っていた。「ある日、アイヌの国のなかを通り過ぎようとしていたら、とりたててなにか悪いことが起こるとは思ってもいなかったのだが、多くの家々の前で海の物と思われるある特別な鳥のおそろしい匂いをかいだ。その鳥は『アホウドリ』と呼ばれていた。よいか、みんな、その鳥たちの頭がある家には入ってはならない。そのような家はあなた方のはいるべき家ではないのだ」
夢から目を覚ますと、トキランゲは自分の見た夢のことをもっとよく知りたいと考えた。彼は起き上がってその夢の意味を求めて国中を聞いて廻った。彼が家々のなかの様子をうかがうと、そこの人々はみなアホウドリの首から上をお守りとして大事に家のなかにしまっており、柳の木を削って作るイナウをその前に捧げて、酒を飲んでいた。そのお守りを持っている人たちの様子をうかがうと、この人たちの間に病気はなかったのだが、アホウドリの頭をしまっていない家という家には、からずなかに身体をこわしている者がひとりはいた。これを見て男は自らもアホウドリの頭をひとつ手に入れて、それを信心し、頭蓋骨とくちばしを一部削ってくずを研ぎ出した。削りくずを容器に入れて、お湯を注ぎ、それを煎じて、病気の人々に飲ませたところ、この煎じ薬を服用したものはみなことごとく病から癒えた。
このことがあって以来、その鳥の頭蓋骨はイナウの削り屑に包まれて大事にしまわれて、病人が出るたびに取り出され、お盆のうえに安置されてみなは熱心にそれにむかって祈りをあげた。祈りがすむと、頭蓋骨の粉末は熱いお湯でで煎じられて患者に飲まされた。このように、アイヌははじまりにおいて、アホウドリの頭の価値を知らなかったものの、その男が夢のなかでその事実に気がつかされたおかげで、みんながそのことを知るに至ったのだ。男は、自分が夢のなかで見て、話す声を聞いたそのチーフこそ、病魔そのものであることを知っていたのである。
『アイヌとその民俗学』(ロンドン:宗教路協会刊行、1901)ジョン・バチェラー師著 より抜粋
The Ainu and Their Folklore, by the Rev. John Batchelor
(London: The Religious Tract Society, 1901)
ジョン・バチェラーのこと
*1854年にイギリスで生まれ1877年に横浜にやってきたたジョン・バチェラーは宣教師として北海道に渡り、アイヌの国を訪れた。いちばんの目的は布教。もうひとつは当時の日本人がアイヌの生活や言語や宗教についてまったくの無知だったので、なんとかアイヌという人たちのことを知らせるためという目的もあったようだ。彼はアイヌの人たちのなかで暮らし、アイヌのことを学び、晩年にはアイヌ語をアイヌと同じように話せるようになっていた。「アイヌの父」と呼ばれる彼が記録した民族学的な当時のアイヌの資料は、何冊かの英語の本にまとめられてイギリスで刊行されている。
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