北海道の釧路川に野生のラッコが姿を現したというニュースを読んだ。部分的に引用する。
北海道釧路市の中心部を流れる釧路川に11日、野生のラッコが姿を見せ、盛んに好物のツブ貝を食べている。
道内にラッコは生息しておらず、独立行政法人水産総合研究センターの服部薫研究員は「好奇心の強い若いラッコが北方4島方面から餌を求めて流れてきたのでは」。
ラッコについてはフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』日本語版の「ラッコ」にはこう記されている個所がある。写真と図版は英語版のWikipediaから。
ラッコ(猟虎、海獺、Enhydra lutris、英称:Sea otter)はネコ目(食肉目) イタチ科 カワウソ亜科に属する哺乳類の一種である。体長は55-130cm、体重も40kgを越すことがあり、イタチ科では最も大型の種である。千島列島、アラスカ、カリフォルニア州などの北太平洋沿岸に生息している。分布の北限は北極海の氷域であり、南限はカリフォルニアの「ジャイアントケルプ」の分布の南限と一致している。「ラッコ」の名はアイヌ語の "rakko" に由来する。
地図を見るとわかるように、ラッコの分布は実に興味深いことを伝えている。北部太平洋のなかの、ひとつの大きな文化圏と重なっていることに驚く。ネイティブ・ジャパニーズとネイティブ・アメリカンのある部分をつないでいるのが、この文化圏であり、そこに暮らす人々なのではないかと、ぼくは考えている。おそらく共通の信仰でつながっているはずだ。
ウィキペディアは「日本人とラッコの関係」について次のようにまとめている。
日本では平安時代には独犴の皮が陸奥国の交易雑物とされており、この独犴がラッコのことではないかと言われている。陸奥国で獲れたのか、北海道方面から得たのかは不明である。江戸時代の地誌には、気仙の海島に海獺が出るというものと、見たことがないというものとがあり、当時三陸海岸に希少ながら出没していた可能性がある。
かつて北海道の襟裳岬周辺などにはラッコが生息していたが、明治時代の乱獲によってほぼ絶滅してしまった。このため、明治時代には珍しい動物保護法「臘虎膃肭獣猟獲取締法(明治四十五年四月二十二日法律第二十一号)」が施行されている。現在でも時折、千島列島などから来遊してくるラッコが北海道東岸で目撃されることがあるが、定着するまでには至っていない。2003年頃から襟裳岬近海に一匹定着しているがウニなどを大量に食すので漁業被害が問題になっている。
「ラッコ」というのはアイヌ語なのだね。アイヌとある部分共通する文化を持つ北西太平洋沿岸部のネイティブの人たちの所には、当然ながらたくさんラッコのお話が伝えられている。たとえばアレウト(アリュート)の人たちによれば——
昔、地球がまだ若かったころ、若く美しいひとりの娘がいた。娘には献身的な弟がひとり。ふたりは海のそばの村のはずれ、海を見おろす崖のすぐちかくで暮らしていた。その崖は北の鳥のスピリットの住まうところでもあった。そしてその北の鳥のスピリットの力は強力だった。
ある日、その鳥のスピリットが娘の前に現れた。スピリットは娘を妻にするために言葉巧みに巣へと連れ帰った。娘はどこにも逃げることができず、ひとりぼっちで恐怖におびえる日を送っていたが、ある晩、夜陰に乗じて娘の弟がやってきて彼女を救い出し、家に連れて帰った。
娘が姿を消したことでスピリットは怒りに怒った。北の鳥のスピリットがとてつもない地吹雪を作り出して娘の暮らす村の家々をことごとく破壊しつくそうとしたので、村人たちは恐怖に駆られて、姉と弟のふたりを嵐の中へ追放した。
姉と弟はなんとか隠れる場所を見つけようと海岸にむかったのだが、そこへ巨大な波が押し寄せてきて、一瞬のうちにふたりを海へと引きずり込んだ。海の女神がふたりを憐れむことがなければ、姉と弟のふたりはそのままおぼれ死んでいたにちがいない。
女神はふたりを優雅な海の生きものに変えた。そして氷の海のなかでも寒くならないようにと、すべての動物のなかでも最も厚く暖かな毛皮をお与えになった。
こうしてラッコが誕生することになった。姉は東へと向かってそこでわれわれがラッコ一族として知っているクラン(氏族)を興した。弟は西へ向かいシベリアのラッコたちを率いることになった。
もしカヤックを漕いでいるときに、目の前にラッコが姿をあらわして、その愛くるしい輝く瞳で、お前の顔をのぞきこんで挨拶をしてくるようなことがあれば、それは厚い毛皮にくるまれた、海で暮らすお前の兄弟か姉妹のひとりだということを、覚えておくように。
——ということになる。言い伝えによれば、村を地吹雪から救うために人身御供とされたふたりが、ラッコになったのだ。今回、釧路川にやってきた好奇心の強い彼女か彼のラッコは、いったいなにを伝えにきたのだろうか?
釧路川に現れた愛くるしい --- というか、なにかを必死に訴えかけているような顔つきの --- ラッコの写真は、もとのニュース記事にあります。
Recent Comments