森林地帯を3人組が歩いていた。ふたりはインディアンで、もうひとりがテネシーの田舎者だった。
あるとき突然、インディアンのひとりが、小さな山の中腹にできた洞穴を見つけ、穴の前まで一気に駈けのぼり、そこで穴に向かって大声を張りあげた。
「ウウウーッ! ウウウーッ! ウウウーッ!」
男は3回そうやって叫ぶと、暗い洞窟の穴にじっと耳を傾けた。やがて洞窟の闇の中から
「ウウウーッ! ウウウーッ! ウウウーッ!」
と声が聞こえたではないか。インディアンのその男はそれを聞くなり、着ていた服をむしり取って一目散に洞窟のなかに駆け込んでいった。
一部始終を見ていたテネシーの田舎者が、さらに歩みを続けながら、いったいなにが起こったのか理解できずに、もうひとりのインディアンにわけをたずねた。
「あのインディアンは気でもふれたのかね?」
そう聞かれてもうひとりのインディアンがこたえた。
「いいや。そうではない。まぐわいの季節には、インディアンの男は洞窟を見つけると、ああやって『ウウウーッ! ウウウーッ! ウウウーッ!』と3回洞穴の入口からなかに向かって叫ぶのがならわしなんだ。なかからあのように答が返ってくれば、穴の奥で美しい女性がわれわれ男が来るのを待っているということになる」
その話を聞き終えるのを待っていたかのように、ふたりの前にまた別の洞穴が姿をあらわした。2番目のインディアンの男がすかさず洞穴の前に駆け寄ると、穴のなかに向かって
「ウウウーッ! ウウウーッ! ウウウーッ!」
と声をかけた。するとまるで待っていたかのように洞窟の奥深くから返事が返ってきた。
「ウウウーッ! ウウウーッ! ウウウーッ!」
それを聞くなり2番目のインディアンも大慌てできていた服をむしり取ると、穴のなかに姿を消した。
ひとりぼっちになったテネシーの田舎者は森のなかで考えた。と、そのとき彼は目の片隅で3番目の洞窟をとらえた。今度はかなり大きな洞窟だった。あまりにも大きな洞窟に彼は驚愕し、目を丸くした。そして田舎者はこう考えた。
「しめしめ、やったぜ! この大きな洞穴を見て見ろよ。インディアンたちが見つけたのと、穴の大きさからしてちがうじゃないか。大柄で、むちむちのいかした女性がなかにいるにちがいない」
男は洞窟の前で仁王立ちになり力の限りの声で叫んだ。
「ウウウーッ! ウウウーッ! ウウウーッ!」
それからインディアンたちのようにしばらく耳を傾けた。
するとなかから返事が聞こえたのだ。
「ウウウウウウーーーーッ!
ウウウウウウーーーーッ!
ウウウウウウーーーーッ!」
男の目が輝いた。思わず笑みがこぼれ落ちた。男は脱兎のごとく穴のなかに駆け込んだ。走りながら上着を脱ぎ、パンツまで破り捨てたほどだった。
それから数日後、地元の新聞に次のような記事が出た。
「身元不明の裸の白人男性がトンネルのなかで汽車に牽かれる」
『インディアンは笑う』北山耕平編・構成。(おそらく)世界で初めてのネイティブ・アメリカン・ジョーク・コレクションの本。笑うことで世界をひっくり返す書。笑いの百連発! 当ブログから生まれた本。マーブルトロン発行 中央公論新社発売 ブックデザイン グルーヴィジョンズ。好評発売中
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