トキたちがネイティブとして生き抜いていけるのなら
日本列島から絶滅した(絶滅させられた)トキを、もう一度野生化させられるかという実験が新潟県の佐渡島のトキ保護センターでおこなわれている。以前から日本列島のトキについては興味を持っていたので、ぼくはこの結果を毎日息をのんで見つめている。だから試験放鳥されたトキを追跡する「放鳥トキ情報」は、ぼくが毎日チェックするサイトのひとつになった。佐渡島のどこでトキが目撃され、そのヒトがなにをしていたのかが、写真と共に報告されているだけのシンプルなページだ。昨日はこう書かれている。
10月2日 放鳥トキ情報
6時前
畑野山中からNo.13が西方向へ飛翔.6時ごろ
久知川流域で,No.15が飛翔し,旋回.7時ごろ
久知川流域で,No.11が水田のあぜで20分ほど探餌,捕食.その後,北方向へ飛翔.7:30ごろ
久知川流域で,No.01が旋回し,南西方向へ飛翔.8時過ぎ
河崎山中でNo.11が飛翔.11時ごろ
市民が,田野沢近くで1羽が飛翔し,その後潟上方向へ飛翔したのを確認.12時ごろ
河崎山中で1羽が飛翔.12:30過ぎ
市民が,真野山中で1羽が刈り取り後の水田のあぜから飛び立つのを確認.
もしトキが、みんなが望むように野生化されるのなら、つまりネイティブとして生きる道を獲得できるのなら、おそらく奴隷化した人間ももう一度ネイティブとして日本列島で自由に生きていける道を見つけうるかもしれないではないか。
「日本」という国の絨毯が敷き詰められた土地のなかで、もう一度ネイティブとしての生き方を確立していく道は、おそらくとてつもなく厳しいものがあるだろう。トキたちのように環境が与えられて大切にされているわけではないのだから。
かつてローリング・サンダーというメディスンマンと話をしたなかで「白人は何世代生まれかわってもこの大陸のネイティブにはなれない」という厳しい言葉を聞いたことがある。それはぼくには衝撃だった。その土地で生まれた人はみんなネイティブという考え方を、彼は否定したのだ。
その言葉はそっくりそのままわれわれにもあてはまる。言葉を奪われ物語を消し去られて大地から根っこを切り離して「日本人」となった人々には、日本国建国以来1000年以上たっても、日本列島のネイティブにはなれないまま、ネイティブとしての生き方も哲学も世界観も歴史も回復されることはなかった。
事が簡単に進むような話ではないことはわかりきっている。一度失われたものを取り戻すのは、並大抵のことではないだろう。であるからこそ、佐渡島で保護センターという居留地から実験的に放鳥された、居留地生まれのトキのなかのヒトたちが、世代を重ねて自由なネイティブとして生き抜いていくことは、ぼくにとっては希望のひとつなのである。
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Comments
4日の「口承の世界」に参加した者です。
休憩時間に、三線の話、地鎮祭のことを話させいただきました。
すばらしい気付きをたくさんいただけました。
ほんとうにありがとうございました。
北山さんのお声が語りかけるようなこの文章を、ぜひ友達に紹介させてください。
Posted by: Rinko | Sunday, October 05, 2008 08:15 PM