ニシン、数の子、アラスカ、日本
インターネットを介しての友人のひとりにハマンダ君がいる。アメリカで学ぶ人類学者のたまごである。その彼が東南アラスカのシトカ(Sitka)という町で開催された学会に出席し、そこで北部太平洋沿岸地域における「ニシン漁」について発表したと彼のブログ「Current Hamandaology」で報告している。
ハマンダの先生がシトカにおける鰊漁の復興について研究してまして、その脇役として、というか、太平洋の反対側ではどうか、というのにリンギットの人々が興味があるということで、ハマンダがちっくり勉強して、とりあえずわかったことを発表したわけです。
ニシンは漢字で「鰊」と書く。ぼくが乳飲み子だったころはまだ北海道ではニシン漁がかろうじて続けられていた。母親が「かっちゃん数の子、ニシンの子」と歌うのを聞いた記憶がかすかにある。それほどニシンは日本人になじみのある魚だった。しかし1957年を境にニシンは日本の海岸から姿を消す。そして50年が過ぎた最近では少量ながらニシンたちも北海道に帰ってきつつあるらしい。「リンギット」とは、アラスカの太平洋岸に暮らす先住インディアンの部族の名前で、ぼくはたいてい「クリンギット」あるいは「クリンキット」と書くが、最初の「ク」はほとんど耳には聞こえないので、ハマンダ君は「リンギット」と書いている。
「アラスカの宝は日本の宝」とタイトルをつけられた昨日のブログの記事のなかで、数の子というのは、「日本人のおかげで、猟師にとってはとてもお金になる海の宝のようだ」とハマンダ君は指摘している。「日本で売られている数の子のほとんどは、輸入品です」と。そして該当記事はこう続く。
シトカでは、鰊を捕って、
腹を割いて、
卵だけとって、
残りを海に投げ捨てる、
という漁がされています。「鰊(ニシン)は我々にとってバッファローみたいなものだ」、というリンギットの人々にしてみれば、これは許されない行為。
そのような漁をしているのは、裏に企業規模の海洋漁業の展開があるようです。
数の子は、利益が高いから、それだけを狙う。日本人がそのような漁をシトカでしているわけではありません。
しかし、日本が数の子という「海の宝」の終着点です。リンギットの人々は、日本人に数の子を食べるのを辞めろ、なんていう文化否定をする気は全くない、と言っています。彼らも数の子食べますので。
しかし、シトカから日本に輸出される数の子の多くが、そのような酷いやり方でされているということを日本人は知っているのか? それによって我々リンギットや多くの地元猟師家族が苦しんでるのを日本人は知っているのか?
というのが、リンギットの人々の質問です。
知ってくれたら、次は日本は何をしてくれるか? できるか?
というのも、リンギットからの質問でした。
ここでリンギットの人が「鰊(ニシン)は我々にとってバッファローみたいなものだ」といっているが、これは、いのちをいただくかぎりそのすべてを、皮や骨に至るまで無駄にすることなくすべてをいただく」という地球に生きる人間としての基本的な生き方の伝統的伝承技術を意味する。
われわれはこの問いかけになんと応えるだろうか?
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Comments
ご紹介どうもですー。
シトカではまだ鰊がいますが、その数は年々減ってきているそうです。
「このままだと日本の二の舞になる」、とリンギットの人たちは懸念しています。リンギットの漁師は、ハマンダの論文のことをアラスカのFish&Wildlife Deptに話す、といっていました。どんな形であれ、役に立てれば、勉強した甲斐があります。
僕もずっとクリンギットと書いていたんですけどね、シトカにいって実際話してみると、笑雲さんの言うとおり、最初のTはほとんど発音しない、というか僕の耳では聞こえなった。なので、オリジナルの発音に近いリンギットと表現しておきました。
Posted by: ハマンダ | Thursday, July 31, 2008 10:12 AM
「ク」というか「ト」というか、そのふたつの混ざった音というか、口のなかで跳ねるような声にならない音というか、Tlingit とアルファベットで書く最初の「T」をどうするかには悩むことが多いけれど、ハマンダさんのいうように「リンギツト」と書くのもいいように思う。でも「リンギット」の前に一拍あるというか、ただの「り」ではなく、口が横に広がって舌が一瞬動くような、ちょっとした間のようなものがありませんか。もちろん活字にはできないけどさ。:-)
笑雲
Posted by: Kitayama "Smiling Cloud" Kohei | Thursday, July 31, 2008 10:55 AM
Tlingit (Lingit) には、笑雲さんのおっしゃる「ク」というか「ト」の音、英語のKやXに当たる音が16あるそうです。英語では一つしかない、と。
Tといれて書いた方が、Tlingit (Lingit)語には16ものKやX音があるという事実を示せる一方、発音でいえば、Lingitの方がやや近い(?)ですよね。
シトカでTlingit (Lingit)語を教える先生は、最近のEメールではLingitと書いていました。活字にしないと、言語保存がやっぱりうまくいかない現状。先住諸民族それぞれで、どう書いてほしいのか決めてもらうのが一番ですね。
Posted by: ハマンダ | Friday, August 08, 2008 12:45 AM