なぜインディアンにはこんなにたくさんの部族があるのだろうと思っている人のためのお話 部族不明
いくつもの月をさかのぼった昔のこと。あまりに遠い昔のことなので、それからどのくらいすぎたのかも誰にも思い出せないぐらい遠い遠い昔のこと。そのとき人間は動物たちと一緒にみな地底の暗闇のなかで暮らしていた。
動物たちのなかにはたいそう勇敢なものがいて、その代表がモグラだった。あるときモグラはわしら人間を後に残して地面のなかをぐいぐい這いながら土を押しのけ押しのけ、遠くへ遠くへ、上へ上へとどこまでも進んでいった。
やがて世界がうっすらと明るくなってきた。モグラは辿るべき穴を見つけたのだ。光は穴の先からもれてきているらしかった。光のくる方に向かって穴のなかをモグラはさらに上へ上へとよじ登った。そしてその穴の出口で、まばゆいばかりの光に包まれた。穴から外に出てみると世界は光にあふれていた。青々と木々が茂り、川には水が流れ、そして見あげると空があった! どちらを見ても美しいものばかりで、世界は光に満ちていた。
モグラは自分の見たものを人間に伝えようと、あの穴を伝ってもと来たところに大急ぎでとって返した。ようやく人間たちのいるところに戻ると、モグラは自分が見た驚くほどの光があふれる世界の話をして聞かせた。だがそのときにはすでに、一度にたくさんの光を見てしまったモグラの目は見えなくなっていた。あれからずっと今日に至るまでモグラは目が見えない。
モグラから話を聞かされて人間たちは興奮した。上の世界には光があるらしい! モグラの目がつぶれるぐらい美しいらしい! 人間たちはいたたまれなくなってわれ先に地上をめざしてモグラが開通させた穴を登りだした。
そう、人々はそれぞれが待ちきれなくなって他を押しのけるように狭い穴をのぼりはじめ、もはや誰にもそれを止めることはできず、インディアンはひとりまたひとりと穴のなかに姿を消した。
かくして人間はその穴を通ってこの世界に辿り着き、その美しいありさまをはじめて自分の目で確認することになった。後から後から、続々とインディアンが穴のなかから這いだしてきた。
だがそれからしばらくしておそろしいことが起こった。ひとりのとても太ったインディアンが、穴につかえてその穴から抜け出れなくなってしまったのだ。人間たちは声をかけあいながら、必死に下から押し上げたり、上から引っ張ったりしたのだが、よほどしっかりとはまっているらしく、押しても引いてもびくともせず、とてもらちがあかなかった。そのふとっちょのインディアンはそれぐらいしっかりと穴を塞いでしまっていた。
地底にいるものたちはそのまま暗闇のなかに取り残されることになった。幸運にもその太ったインディアンが穴を塞ぐ前に地上に登ることができたインディアンたちは、光あふれる世界のなかをどこまでもすすんでいった。
やがてひとびとは大きな川に前進をはばまれた。すると一羽の美しい鳥がその羽根を三度大きく羽ばたかせたかとおもうと、川の水が大きくふたつに分かれて大地があらわれた。その水の消えて乾いた大地を人々は歩いて川の向こう岸へ渡ることができた。
そのようにして無事に川を渡れたものはかなりの数にのぼった。だがしばらくしてその美しい鳥が空に舞いあがっていずこかへと姿を消すと、ふたつに分かれていた川にまた水が戻り、かなりの数の人たちがそのまま取り残されることになった。
それからいくつもの月が巡り、前進を続けたわれわれの進む道を、あるときとてつもなく大きく雄大な岩山がはばんだ。すると親切にも一匹の鹿が岩場を登る道案内をかってでてくれた。そうやってかなりの数の人たちが岩山をかわすことができたのだが、あるとき行きなり空のどこからか鷲たちの集団がやってきて、その道案内の鹿を追いやってしまうという事件が起きた。この結果わたしたちのなかからその山をかわすことのできなくなって取り残されるものたちも数多くあらわれた。
無事に山をかわしてなんとか峠を越えた人々は、ほっとするまもなく、今度はおそろしく深い森のなかにいる自分たちを発見することになった。うっそうと茂った大きな木がぎっしりとどこまでも続き、森のなかはどこからも光が入らずに暗く、われわれは互いの顔すら見ることができなかった。われわれはなんとか離ればなれにならないようにしていたのだが、しかしその望みはかなえられなかった。結果としてわれわれのなかの何人かが集団から脱落していった。
このようにしてわれわれは世界のあちこちに散らばってきた。今日この日にいたっても、われわれがみんな別々の場所に暮らしているのは、だからそのようなことがあったからなのだ。
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