大地の至るところで人々を助ける人
アメリカ・インディアンはいろいろな部族が「養子縁組」の儀式を持っている。ラコタの人たちが「フンカ」と呼ぶ、「縁を結ぶ儀式」もそのひとつであるだろう。平原インディアンにとってこの養子縁組のための儀式は非常に古くからあるもので、彼らの文化においてきわめて重要なものであり、けして軽々におこなわれるべきものではないとされている。誰かを養子として迎え入れるということは、その人間は以後自分が死ぬまで生涯を通して責任を負うことになるからだ。いっさいの疑問をはさむことなく、必要とあらばいついかなるときにも、相手の世話をし、面倒をとことん見なくてはならない。
通常、部族以外の人間をその人の養子として受け入れると決めたときには、養子となる人間は、養子に迎え入れてくれた相手にたいし、応分の捧げ物をすることになっている。養子に迎え入れるに値する人間として選ばれることは、当人にとってたいへんな誉れであり、いずれその人間は、相手の家族の一員となり、一族の国の一員となることを認められることにもなる。彼もしくは彼女は、養子に入った先の一族の人間となり、一族のものたちからもそのように扱われる。
聞いた話では、その昔は、戦の時に拉致した敵の部族の人間を、相手が自分たちの風俗や習慣や生き方を学んだあかつきには、新しい人生を送らせるために養子として迎え入れることも珍しいことではなかったという。養子として迎え入れる方も、養子として新たに相手の家族の一員になった人間も、儀式の後は非常に親しい友人となり、以後幾度となくふたりでヴィジョン・クエストに出かけて互いの絆を確かめあったりしたという。養子縁組の儀式を交わしたものたちは、象徴として自分たちだけのおそろいのパイプが一組与えられ、以後そのパイプと共に生涯を送った。
ラコタの養子縁組の儀式については、ブラックエルクという著名なメディスンマンがラコタの儀式を解説し、それをジョセフ・エプス・ブラウンが書きとめた『聖なるパイプ』という書物に詳しく書かれているが、なんで今こんな時に「養子縁組」の話を書いているかというと、アメリカの大統領選の民主党の候補者であるバラク・オバマが、先日モンタナのクロー一族の国を訪れた際に、クロー一族のある家族に養子縁組されることをうけいれ、クロー国の名誉一員になったというニュースが昨日一斉に流されたからだ。
オバマ大統領候補を個人的に養子にしたのはクロー国の住人であるハーフォードとメアリーのブラック・イーグル夫妻。バラク・オバマはハーフォード・ブラック・イーグルと、メアリー・ブラック・イーグルのふたりの義理の子どもとなり、バラク・ブラック・イーグルという名前になった。のちに YouTube にあげられたニュースを見ると、オバマ候補は「こんなにありがたいことはない。バラク・ブラック・イーグルはいい名前だ」とうれしそうに語っているから、よほど気に入ったと見える。
Barack Obama in Crow Agency, MT
バラク・ブラック・イーグルはこの結果正式にクロー・ネーションの一員として迎え入れられることとなり、クロー・ネーションから正式なインディアンネームも与えられている。バラク・ブラック・イーグルは、正しくはクロー族の言葉で「アウェ・コォーダ・ビラクパック・クウークシシ(Awe Kooda Bilaxpak Kuuxshish)」という名前になった。それは「大地の至るところで人々を助ける人(One who helps people throughout the land)」という意味に翻訳されるのだ。
アメリカのこれまでの歴史のなかで唯一白人でない大統領候補の登場は、クロウ・ネーションのみならず、これまでのほとんどすべての「偉大なる白人の父・大統領」から消えゆくものたちとして無視され続けてきた、アメリカのすべてのインディアンたちにとって、予言が成就するプロセスの目撃であり、おそろしく重要な出来事であることは間違いない。
Source : Play of the Day: Obama's new name
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Comments
この養子縁組の儀式は”ハンカピ”ではなく”フンカ”ですね。
Posted by: 朝日菜 | Monday, May 26, 2008 03:05 PM
朝日菜さん
本文中「Hunkapi」の読み方を「ハンカピ」からご指摘の通り「フンカ」に改めました。
ありがとう
Posted by: Kitayama "Smiling Cloud" Kohei | Monday, May 26, 2008 04:58 PM
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Posted by: start painting | Saturday, October 25, 2014 07:03 AM