巨大な岩山の上の7人の娘たち(カイオワ一族の言い伝え)
だれも思い出せないぐらい昔のこと、カイオワの人たちの一団が広大な草原のなかを旅して横断している途中、大きな川の岸辺で野営をすることになった。野営地の近くには熊をやっている人たちがたくさん暮らしていた。熊のなかの人たちはカイオワの人たちの匂いをかぎつけた。
熊をやっている人たちはとてもお腹をすかせていた。熊のなかの戦士たちのなかに、仲間とともにカイオワの人たちを狩りに出かけるものたちがいた。
カイオワの人たちの野営地から7人の娘たちが連れ添うように出てきて川の上流に向かって歩きはじめた。娘たちはイチゴ狩りに出かけたのだった。野営地から遠く離れるのを待って、熊たちはうなり声をあげて娘たちに襲いかかった。
広い草原の只中を娘たちは走って逃げた。どこまでも、どこまでも、走って逃げた。そうやってしばらく走ると、草原のなかに巨大な灰色の岩がひとつ見えてきた。
娘たちはみんなで力をあわせてその岩の上によじ登った。ところが後を追ってきた熊たちも娘たちに続いてその岩をのぼりはじめた。
やがてだれからともなく、娘たちがその岩にむかって、熊をやっている人たちから守ってくれるようにと、祈りの詩を歌いはじめた。
そのときまでただの一度も、だれ一人としてその岩を讃える詩を歌いかけたものなどいなかった。生まれ落ちてはじめて娘たちの祈りの歌を聞いて、岩のなかの人は娘たちを救う決心をした。
何千年も黙ったままそこでじっと座ったままでいた岩のなかの人は、よいしょとばかり立ちあがると、空に手を伸ばした。岩がぐいぐいと大きくなるのにあわせて、うえに載っかっていた娘たちも高く高く昇り続けた。
熊のなかの戦士たちも熊の神々に向かって歌いかけた。すると岩が大きくなるにつれて熊たちも背が高くなっていった。
岩はさらにいっそう高く険しくそびえ立つように成長を続けた。熊たちは何度も何度も大きな鋭い爪を岩にかけて険しい壁のような岩を登ろうとしたが、しかし足をかけるたびにガラガラと岩は崩れ落ちた。
それでも執拗に岩を登ろうとした熊たちは、巨大になった岩のすべての岩肌の手の届くところに爪痕を残し、岸壁は何千という岩のかけらとなって四方の麓に散り落ち山をなした。大きくなった熊たちが懸命によじ登ろうとすればするほど、岩肌のあちこちに無残な傷が残された。
だがついに熊のなかの戦士たちは人間を狩るのをあきらめた。熊たちはきびすを返して自分たちの家に戻ることにした。家路を辿りながら、熊たちは自分たちが次第に最初の大きさに戻っていくのを感じていた。
とてつもなく大きくなった熊たちは草原を越えて帰るにつれてもとの背格好の熊に姿を変えていった。カイオワの一団は遠くから熊たちが集団で歩いてくるのを見て恐怖に駆られあわててキャンプをたたんだ。彼らは熊たちの背後に巨大な、見あげるほどの岩山がそびえ立っていることにはじめて気がついた。そしてその岩山は、あの大きな熊たちの住み家に違いないと思いこんだ。
「ツォ・アイ」
その岩山はカイオワ語で今もそう呼ばれている。それは「熊たちの住み家」という意味だ。
岩山の上に取り残された娘たちははるか高みから下界を眺めておそろしくなった。一族の人たちが野営地をたたんで移動しはじめているのが見えたからだ。みんなは娘たちがあの熊たちに食べられたものと思いこんだに違いない。
娘たちはそこで再び詩を歌った。今度は岩にむかって歌ったのではなく、空の星たちに向かって歌った。星たちは娘たちの歌う詩を聞いて幸せになった。すると歌声を聞いた星たちが空から降りてきて、岩山の山頂にいた7人の娘たちを空に連れ帰った。
カイオワの人たちはプレアデスのことを「7人の姉妹たち(セブン・シスターズ)」と呼んでいる。そして毎晩、彼らが「熊の住み家」と呼ぶ岩山の上を7つの星が通過するとき、岩山のなかのスピリットに感謝を捧げて微笑む。
(注)「熊たちの住み家」は「デビルズタワー」と英語で呼ばれている岩山のこと。
「Native American Story」カテゴリの記事
- 新しいスタイルの動物園や水族館が生まれているという(2009.08.13)
- 話しかけてくる不思議なサボテンであるペヨーテの伝説が読みたいときは(2009.07.27)
- 少しずつでものぼり続けることを教えるティーチング・ストーリー(2009.07.14)
- アホウドリ・メディスン アイヌの伝承(2009.06.11)
- 大地のスピリットたちへのささげもの(2009.03.05)
The comments to this entry are closed.
Comments