アメリカ・インディアンとチベット
過去50年間におよぶ中国政府のチベットの人たちにたいするやり方は、アメリカ合衆国政府がネイティブ・アメリカンの人たちにたいして20世紀の前半におこなってきたこととおそろしく似ているように思える。
たとえば中国政府は自国民を鼓舞してチベット人の土地に移住するように仕向けそこで商売をはじめさせてきたが、これはアメリカ政府が白人移住者をインディアン領に送り込む政策をとったことと重なっている。
中国の共産党政権は宗教を「過去の遺物」のように認識していて、現代を生きる人間にとってそんなものは必要ないというふうに考えているようだが、これもまたアメリカ政府が「インディアンの宗教とその実践」を「野蛮なもの」として信仰の自由を認めようとしなかったこととそっくりである。
しかしながら、デザートのなかのリザベーションであれ、ヒマラヤ高地であれ、そうした土地に——鉄道という文明の象徴を使って——訪れる征服者側からの観光客が興味を持つのは、そこに暮らす人たちの伝統的な文化なのだな。インディアン・リザベーションを訪れた好奇心旺盛な人たちが先住民の伝統文化を求めたように、経済発展で旅をする余裕のできた中国の人たちも、チベットの伝統文化に興味を露わにする。
アメリカ先住民の視点から言えば、1950年代から60年代にかけて、大量のアメリカ人ツーリストが大挙してインディアンリザベーションを訪れ、文化的遺産の大半がお金を代価にして持ち去られてしまったことを思い出させる。今チベットで起こっているのは、そうしたことと同時に、多方面から中国への同化への圧力が強まり、政策が実施され、子どもたちに中国語の学習が徹底されていることもまた、そして民族差別を巧みに使っているところもまた、アメリカ・インディアンの各部族の文化や言葉が辿った厳しい道を彷彿とさせる。
チベットの人たちも、アメリカ・インディアンと同様に、文化的宗教的な抑圧にたいして不満をつのらせてきている。中国政府は、「良いチベット人はみな中国人の一部となった」ことを世界に知らしめるために今年のオリンピックを政治的プロパガンダに利用しようとしていることは、ハリウッド映画をプロパガンダに使って「良いインディアンはアメリカ人の一部になったこと」を世界にしろしめたことと重なる。中国もアメリカも自国の内部で起こっている先住民の蜂起を「国内問題」として世界に知らせないためにメディアを強力に操っていることもまた同じである。
忘れてはならないのは、先住民の問題を内側に抱え込んでいるという点からすれば、今回のチベット問題にシカトをきめこんでいる日本とても例外ではないということだろう。
追記 さらにチベットとアメリカ・インディアンに共通しているのは、地下に膨大な鉱物資源が埋蔵されていることが、支配国政府によって発見されてしまったところにもある。たとえばナバホやラコタの人たちの国には石炭やウラニウムが眠っていることがアメリカ政府によって発見されているし、中国政府は21世紀になってチベットの大地に銅、亜鉛・鉛、鉄鉱石の鉱床を発見し、それを独り占めして運搬するための手段として青蔵鉄道を建設した。
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