ぼくはなぜラコータ共和国を注視しているのか
インディアン活動家のラッセル・ミーンズら自由ラコタを名乗る何人かの人たちが、合衆国政府とスー族がこれまでに交わした一連の条約からすべて撤退して「ラコータ共和国」の独立を宣言して以来、その顛末と今の状況を伝えるニュースを克明にとまではいかないが、気になったものを紹介してきている。
ぼく自身とラコタ、ナコタ、ダコタのひとたちとのつきあいはそんなに深いものではない。とりわけメディスンマンだったジョン・ファイアー・レイム・ディアーとその息子であるアーチー・ファイアー・レイム・ディアーがスピリットの世界に赴かれて以来、つながりはうとくなってきていた。しかし、70年代のネイティブ・アメリカンの権利回復と精神復興運動に少なからず関わりを持った身として、ラッセル・ミーンズらがやむにやまれぬインディアン魂で、今回の挙に出たことについては、ぼくにはその心情はわからないでもない。
このニュースをブログで拾うようになって、何人の方からメールで「米国サウスダコタ州のインディアン居留地に嫁いだ Jakota Woman さん」のサイトの存在を教えられた。「Jakota Woman」とは「ジャパニーズ+ラコタ」からの彼女の造語だ。ジャコタ・ウーマンさんが嫁いだ相手のラコタの男性は、その記事を読むとぼくとほとんど同世代であることがわかる。自分と同世代のラコタの男性が、ボーディングスクールを生き延びて70年代のあの「闘うインディアンの出現」と「オグララで起きた事変」をどのような気持ちで体験して今日に至るのか興味あるところである。ジャコタ・ウーマンさんの日記ならぬ週記には、現実に今この瞬間にリザベーションに暮らす噂好きのラコタの人たちの日常がたんたんと綴られていて共感を覚える部分も多々ある。
そのいちばん新しい「週記」に、共和国の話が出てくる。その部分を引用するが、できれば全文を通読されて、リザベーションで生きるとはどういうことかをあわせて感じてほしい。
ラッセル・ミーンズ氏が「今までアメリカ政府とラコタが結んだ契約を全部破棄して、ラコタ共和国を造る」と宣言されました。このニュースの扱われ方が、まさに現代の情報の伝わり方の歪な事を証明しています。地元のRapid City Journalなどでは、「ミーンズ氏は、如何なる部族の政府も代表していない」と説明していますが、USA TODAYなどでそういう説明なしに取り上げられ、それが海外で大きく取り上げられたようです。ローズバット居留地の議会長ロドニー・ボルドー氏とシャイアンリバー居留地の議会長ジョー・ブリングス・プランティー氏は、ラコタ・ダコタ居留地の代表者で作っているスー会議は、ミーンズ氏を支持しないとはっきり表明しています。こういう選挙でちゃんと選ばれた人達が地道にアメリカ政府と交渉しているのに、派手な事をおやりになる方だけが注目を浴びる状況を私はとても残念に思います。ボルドー氏は、「この“ラコタ共和国”のウエブサイトは、一週間で100万回以上のヒットがあるというが、彼らが一体どれくらいの寄付金を集めているのか想像し難い、その寄付金はラコタの人々には、縁のないものだ」とコメントしています。ネイティブアメリカンの人達の世界では、白人が教えたとは言え、横領、着服は日常茶飯事ですから、寄付をされる時はよく調べられた方がいいかと思います。
と記されていた。この文章は、150年間植民地化を押しつけられてきたラコタの人たちの置かれた現実の一面を映し出している。ラコタの人たちのみならず、ほとんどのアメリカの先住民の部族や国で、部族会議の意向に従うことを受け入れた(受け入れざるを得なかったか進んで受け入れたかはともかく生き方において)プログレッシブな人たちと、その部族会議そのものの存在を認めないか相手にしない(生き方において)トラディショナルあるいはラディカルな人たちと、態度をはっきりさせずどっちつかずで様子見をきめこんで、あっちにいったりこっちにきたりしている人たちに勢力の分布が色分けされているからだ。
彼女が上の引用のなかで言う「ローズバット居留地の議会長ロドニー・ボルドー氏、シャイアンリバー居留地の議会長ジョー・ブリングス・プランティー氏、ラコタ・ダコタ居留地の代表者で作っているスー会議」は、ラッセル・ミーンズらのサイドに言わせればそもそもアメリカ合衆国の傀儡政府(操り人形)そのものの人たちであり組織である。ジャコタ・ウーマンさんの言葉を借りれば、「白人が教えた」選挙というやり方で選ばれた人たちが、自分たちの存在を認めるわけもないラッセルらの動きを支持することは絶対にない。選挙で選ばれた部族政府は、アメリカ合衆国の意向をラコタのリザベーション内に広めることで経済的にもなり立っている組織だという見方もできる。それはちょうど、日本列島のなかに存在する米軍基地の問題について選挙で選ばれた自民党政府が「地道に」アメリカ政府と交渉しているようなもので、最終的には植民地主義を貫くアメリカ政府のやり方ですべてが動いていき、本質的な解決はなにひとつもたらされないというのと同じ構造である。
ぼくがラコータ共和国独立で関心があるのは、70年代に部族会議派の人たちのことを弱虫だとか腰抜けだと言っていたエルダーやメディスンマンや精神的指導者たちの動向と影響であり、彼らに学んだ世代が今後どのような手を打ち、知恵を出してくるかである。だからぼくはその動きをいささかでも見つけようとヴィジョンとしての独立運動を注視し続ける。
なお「寄付金」については、ラッセル・ミーンズ本人が自分の手紙としてウェブサイトに「寄付金を送りたいという人は、ラコータ共和国銀行といったものがきちんと立ちあがり操業をはじめたらおくってくれ。現在似たような名前をかたって寄付金を求めるものたちがいるがそれらはニセモノであるので気をつけてほしい」と注意を喚起している。そういえばラコータ共和国のウェブサイトのホームページについ最近モハンダス・ガンディー(マハトマ・ガンジー)の言葉が新たに書き加えられていた。それはつぎのようなものだ。
「First they ignore you, then they laugh at you, then they fight you, then you win. (最初、彼らはあなたを無視する。それから彼らはあなたを笑いものにする。それから彼らはあなたと闘う。それからあなたが勝利する)」
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