何日か前、アメリカの大統領選挙に今回もラルフ・ネーダーが出馬するというニュースが世界中に流された。今回もというのは、前回(2000年)、前々回(1996年)ともに、彼が大統領選挙に出馬したからだ。特に前回、ブッシュ対ゴアの僅少の闘いで、ラルフ・ネーダーの獲得した票がゴアに行っていればアメリカの今はだいぶ違ったものになっていたのではないかと、多くの人たちが心のどこかで思っていたりする。
なんでこんなことを書いているかというと、前回と前々回の大統領選で、ラルフ・ネーダーが第三の勢力として緑の党(グリーン・パーティ)から出馬した時、自らの副大統領候補に選んでいたのがウィノナ・ラデューク( Winona LaDuke )というミネソタのアニシナベ一族の血を一部に受け継いだネイティブの女性だったからだ。
インディアンの世界では、もしインディアンのなかから大統領が出るなら、最も可能性のあるのが彼女だと言われてるぐらい著名な女性活動家である。彼女がネイダーの副大統領候補となったために、多くのインディアン票がそこに流れた。だから、今回もまた誰と誰の一騎打ちになるにせよ、そこにラルフ・ネイダーが割って入り、また彼女を副大統領候補に指名したら、と多くの人たちが考えたとしても無理はない。
ところがこの2月26日(火)モンタナ州にあるモンタナ大学の講堂で彼女の講演会があり、彼女はそこで今回は副大統領候補として出馬はしないといきなり表明したのである。「みんなもそのことを知りたいでしょうし、それで講演を最後までつきあわせては悪いから」と彼女は聴衆を安堵させてから、講演の本題「公正な社会をつくる−−つぎの千年のための環境と経済と人間関係」に入った。
講演のなかでウィノナ・ラデュークは政治の話はいっさいせず、ではなにを話したのかというと、「持続可能なエネルギー」という、このところ世界中で注目を集めているテーマについて、アメリカ・インディアンという新しい視点から話をしたのだ。
まず彼女は聴衆に先住民文化を「昔語り」のようなものだけで考えずに、過去のものとしてとらえたりするのをそろそろ止めるように求めたうえで、こう話した。
「インディアンの文化は現代に多大な影響を与えており、そこからわたしたちは持続可能性について学ぶことができます」
インディアンは循環的に物事を考え、循環的に生活して、月や潮や季節やいのちの自然なサイクルにしたがっていると、彼女は話した。彼女は現在ミネソタにあるホワイト・アースというアニシナベ(チペア)のひとたちのリザベーションで暮らしており、そこでは人々は湖でワイルドライスを育てていると。
収穫の季節が巡ってくると、人々は湖に感謝を捧げ、自分たちが必要な分だけを収穫して、残りは地球のために残しておく。現代のアメリカではそんなことはおよそ考えられないと、彼女は言う。
「必要なだけを収穫し、必要ではない分を残したままにしておくことなど、アメリカ人はまずしません」
そして問題はそこにあるのだと、ラデュークは続ける。
「インディアンたちは創造主の法こそが最上のものであると信じており、それがためにその人たちは湖や大地を称えるのです。しかし、アメリカはそうした原則には従わない。アメリカ人は、海や風ぐらいなら出し抜けると信じています。インディアンは愚かなのさと」
ラデュークは、資源やエネルギーにたいするアメリカの飽くなき欲求にたいする批判を展開した。押さえ込まなくてはならないのはまさにその欲望なのだと。こうした論理にたいして聴衆は幾度もうなづき、時にはいきなり喝采を浴びせたりした。
アメリカは川がなくなってしまうまで水利権を分配するし、中毒のごとくに石油に頼り、廃棄物処理までビジネスにしている。アメリカがやっているのはゴミの埋め立てなどではなく、ゴミの山をこしらえることだ。「持続可能性を手に入れようとするなら」と彼女は続ける。
「われわれは、インディアンたちがそうしているように、あらゆるものを自分たちとつながりのあるものとして考える必要があるでしょう。動物たちも、植物も、マスクラット(水辺に生息するネズミ科の雑食性の動物)のような生きものまで、みんなわたしたちの親戚で家族なのです。ネイティブの人たちのあいだにはとてつもない洪水に見舞われた話が伝えられています。亀の背中に座っていた一人の女性がその洪水を生き延びました。彼女はカワウソに、水に潜り底まで行って地面を少し持ってきてほしいと伝えます。亀の背中のうえに水底からとってきた土を積み上げて大地をつくるためです。しかしカワウソは水底に到達することができませんでした。さまざまな動物たちが試しましたが、誰にも出来ません。ただマスクラットだけが、水底にたどりついて土を持ち帰れたのです」
「この話は、わたしたちとつながりのある生きものを見くびってはならないと言うことを教えています」ラデュークは言います。「わたしたちは自分につながるものたちのことを、動物たちのことを、自分たちがなにかをどうしても必要になるまで、まったく注意を払うことがありません。今起きている問題は、ミツバチたちが完全に姿を消して、わたしたちの植物の受粉ができなくなるまで、ミツバチのことなどなにひとつ考えようともしなかったことにあります」
ラデュークは、人間は石油への依存から脱却するか、すくなくとも、もっと可能な限り効率よく使うようにしなくてはならない、それはみんなのためのものなのだから、と語った。「われわれは誰もが水を飲み、空気を吸わなくてはならないのです」
最後にラデュークは何百年前からインディアンに伝わる予言について話した。その予言は、いつの日にか人々が分かれ道に来て、ふたつの道のいずれかを選ばなければならなくなることに直面すると伝えているのだと。ひとつは黒く焦げたような道であり、もうひとつは青々とした緑の道——
「いずれかを選ばねばなりません」彼女は言った。「ひとりひとりが、いずれかを選ぶのです。この会場を見まわすと、賢そうな若者たちがたくさんいます。なにであれ大きな影響を与えることをなしてください。くれぐれもどうでもいい人間にはなりませんように」
うーん、やはりウィノナ・ラデュークにはいつかアメリカの大統領になってもらいたいな。
*ウィノナ・ラデューク( Winona LaDuke )1959年生まれ。ネイティブ・アメリカンの活動家。環境学、経済学の学者。作家。父親は、ネイティブ・アメリカンのスピリチュアル・グルといわれた故サン・ベア。母親は大学教授でユダヤ人。ハーバード大学で地域経済学を学び、卒業後、ホワイト・アース居留地の高校の教師になる。アニシナベの人たちの土地の権利の回復運動に加わる。
Source : Lecturer: Indian culture teaches energy sustainability
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