西ショショーニの国では警告を無視してご神体山の地下に高レベル放射性廃棄物処分場がつくられようとしている
沙漠の民であるウエスターン・ショショーニの人たちが1000年以上もの長きにわたって聖なる山として信仰してきた山、儀式の場であり、薬草の採集場であり、数多くの物語のシンボルでもあった「蛇の山(スネークマウンテン)」ことユッカ・マウンテンは、カリフォルニアとネバダの州境近くのビーティというデスバレーのネバダ側の入口の町から核実験場に向かったところ、デスバレーの東わずか30キロ、ラスベガス市から北西に150キロほどのところにあり、地理的には巨大な断層帯のうえに位置する山である。
アメリカ合衆国のエネルギー省は大分前からこともあろうにその神聖な山の地下をまるごと、全米各地の原子力発電所にひたすらたまり続けていっている全部の高レベル放射性廃棄物処分場(核のゴミ箱)にしようと画策してきた。その前に立ちはだかっていたのが、母なる地球の守護者として人びとを集め教育し、核の鎖を断つことを目的として放射性廃棄物の投棄に至る核の鎖のあり方に徹底的に反対し続けたコービン・ハーネィという偉大なメディスンマンでエルダーでウエスターン・ショショーニ一族でも極めつけの反放射能(核)闘争の戦士だった。ショショーニ国はアメリカの人権を無視した強引なやり方をジュネーブの国連に提訴し、国連はアメリカにたいしてショショーニの人たちの訴えの正当性を認めて警告を発し、世界の世論もウエスターン・ショショーニの人たちが計画を止めるかもしれないとまで考えたのであるけれど、合衆国政府は国連の警告を無視し、年が明けるとすぐまるで彼が亡くなるのを待っていたかのように、これで邪魔者がいなくなったとでも考えたのか、当局はにわかにここにきて計画を前進させはじめた。 すでに彼らの国(「ニューイ・ソゴビア」といわれる)の広大な一部はアメリカによって40年代に強制的に取りあげられてネバダ核実験場とされている。ユッカ・マウンテンはウエスタン・ショショーニの人たちにとっては自分たちの聖なる中心のようなところだ。それはラコタの人たちにとっての「ベアビュート」、ホピやズニなどプエブロの人たちにとっての「サンフランシスコピークス」にも匹敵する。
蛇を信仰する人たちであるネイティブ・ショショーニの人たちの言い伝えでは、ユッカ・マウンテンが蛇の山と呼ばれるのは、巨大な蛇が北を向いたまま地中で遠い昔に固まっているからだとされる。そしていずれ時がきた時にその蛇が目を覚まして怒りと共にその尻尾の向かう先を変えるのだとされている。これは単なる言い伝えではなく、地質学者の調査では、ユッカ・マウンテンの地中には全部で13本の断層帯がそれぞればらばらに走っているとされているのである。ショショーニの人たちは言い伝えでこの山体が、蛇が急にその尻尾を動かすように、動くことを知っているのだ。コービン・ハーネイは生前、「地中に眠っている巨大な蛇がある時目を覚まして山を動かし大地を引き裂き、引き裂かれた割れ目から大量の毒が地表に流れ出すだろう」と警告していた。
これまでユッカ・マウンテンに高レベル放射性廃棄物の地下処分場施設を設けることは余りにも危険なことだと考えられてきた。そればかりか全米各地から危険きわまりない高レベル放射性廃棄物をわざわざトラックで長距離輸送してネバダの奥地まで運び込むことにともなうリスクも大いにある。高レベル放射性廃棄物地下貯蔵庫ができてしまったあとの地下水の放射能汚染は「地球のどこかで地下水が放射能に汚染されれば、結果的に地球すべての水が放射能に汚染される」としてコービンが最も危惧していたことのひとつだ。 実際、ショショーニの国がそのうえにあるグレイト・ベイスンというとてつもなく大きな沙漠は、その地中深くでひとつの帯水層でつながつているとされる。そうした声にはいっさい耳を貸そうとせず、さらにショショーニの人たちの人間としての生きる権利など無視した形で、地中深くを貫く巨大トンネル工事は再開され、高レベル放射性廃棄物地下処分場計画は動きはじめようとしている。
ここに掲載するのはウエスターン・ショショーニの人たちが1000年以上もの長きにわたって聖なる蛇の山と呼び、アメリカ大陸を植民地にしたヨーロッパ系の人たちが「ユッカ・マウンテン」と名づけている山の姿を撮影したものである。アメリカという国が先住民の聖地にたいする敬意を示さないのは今に始まったことではない。今世界で起きているさまざまな問題のほとんどが、地球を生きているいのちとしてみることができなくなり、地球の声に耳を塞いだままの、大地から切り離された人たちによって引き起こされている。願わくばこれらの写真のなかに、その神聖さをわずかでも感じていただけたらと思う。
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