雲の人
子供のころから雲を見るのが好きだった。アメリカの沙漠に通い始めてからいっそうその思いを強くした。大気中の湿気が少ないぶんだけ、雲が非常にくっきりと形作られるからである。雲の形とそれを見る人間の意識とが連動しているらしいと気がついたのは、十代の終わりのころだったろうか。雲の形を変えたり消したりするのは自分にとっては意識の集中のトレーニングみたいなものだった。今でも雲を見ているといくらでも時間を過ごすことができる。
ネイティブ・ピープルの世界では、雲の中には人が住んでいるとされている。雲が人間の形になることがしばしばあるからかもしれない。誰かの横顔にそっくりな雲をあなたも見たことがあるだろう。雲のなかの人は「クラウド・ピープル」と名づけられている。
そこでひとりの雲を見る少年の話をしておこう。
その小さな少年は、父親が矢を何本も作り終えるのを待つあいだ、かたわらにひとりで立ったまま空の移り変わりを見つめていた。
あるとき少年が口を開いた。
「ねえ父さん、雲に人の顔が見えることがあっても、すぐ別のものに姿を変えてしまうのはなぜなのかな?」
「それはな、息子よ、クラウド・ピープルはお前に物語を聞かせてくれているのだ。一緒に空を見て、空の国が今日お前に教えようとしている不思議な力の物語を、雲の動きを見て聞かせてくれないか?」
ふたりが空を見ていると、雲が形を変えてやがて大きな巨人の横顔が浮かびあがった。巨人はまるで口笛でも吹くかのように口をすぼめていた。しばらくするとそれは姿を変えて、気流に乗った一羽の鷲が羽根を広げている姿をしばし見せた。そしてそのあとでまた姿を変えたかと思うと、今度はひとりのインディアンの戦士の姿になった。天空を横切るように飛ぶ一本の雲の矢をその戦士は手を伸ばしてつかまえようとしていた。つぎの瞬間、その矢が一本の鷲の羽根に形を変えて、ゆっくりと遠ざかっていった。
そうした一連の絵のつながりを見終えたあと、少年は父親に、自分は風のチーフがその吐き出す息で鷲の羽根を持ちあげるのを見たと説明した。大地に立っていたひとりの戦士が頭よりたかいところにある真実の矢をつかまえようとしたところ、その戦士は鷲の兄弟に姿を変えて、偉大なる神秘が天空の国からおくってくださったスピリチュアルなメッセージとしての真実を理解したのだと。
話を聞き終えると、父親は息子がおのれとつながるもののひとつの声を聞くことを学んだことを理解して、にっこりと微笑んだのだった。
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Comments
なるほど“意識の集中トレーニング”を磨いて自然の風景からメッセージを得られるようになりたいものです。
Posted by: りかお | Wednesday, November 07, 2007 09:30 AM
北山耕平様
意識の集中トレーニングって難しいです。ネイティブスピリットと言う言語を昨日初めて知りました。貴方の本を読んで。私が知りたかった謎の正体を貴方の言葉から学べつつあります。まだまだ探求は続くのです!
Posted by: りかお | Wednesday, November 07, 2007 10:41 AM
毎日雲を見てボーっとしていますが、まさか、雲と自分の意識が連動していて、しかも、形まで変えられるなんて考えもしませんでした。素敵なお話と新しい風をありがとうございます!
Posted by: バケツ | Saturday, November 10, 2007 09:12 AM