風の楽器と大地の楽器
電車のターミナルとなっている大きな街の駅前に出てみると、たまに「コンドルは飛んでゆく」に代表されるフォルクローレを奏でる南米の人たちのグルーブと遭遇することがあった。髪の黒いボリビアやペルーのインカの人に代表されるような顔つきの彼の地の先住民らしき人たちが、原色のポンチョなどの民族衣装を身につけて、シーク、ケーナ、ワンカラ、サンポーニャといった民族楽器を奏でていたりする。新宿などの騒音が激しいシティではエレキギターを加えて増幅されたでっかい音でフォルクローレを合唱して人びとの足をとめてささやかな寄付を求めているバンドもいたりする。いくら出稼ぎとはいえ、しかしアンデスの音楽にエレキは似合わないな。でもこれは日本だけの現象ではなく、アンデスの民族音楽は今世界の各地に広がりつつあるのだというちいさなニュースを目にした。
アンデスの音楽は、アンデス山脈のスピリットからの贈り物なのだという話を、昔、聞かされたことがある。アンデスの音楽に用いられるのはケーナのような口から息を出して吹く「風の楽器(管楽器)」と太鼓などの「大地の楽器(打楽器)」のふたつ。風の楽器は「ファーザー・スカイ(父なる空)」を、大地の楽器は自然をふくむ「マザー・アース」を象徴するのだと教えられた。そうしたふたつの種類の楽器たちによって奏でられる音楽は、ひとつの宇宙と、自然界のバランスをあらわすのだと。アンデスの人たちは通過儀礼における生と死を、あらゆる変化を、種まきや収穫を、音楽で祝ってきた。先住民の音楽はそれぞれの共同体の有り様の一部にしっかりと組み込まれていて、なんの目的もなく演奏されたり、単に娯楽のためにのみ演奏されることは絶対になかった。それぞれの歌に、メロディのひとつひとつに、意味や伝えているものがあるのだな。
写真はケチュア語で「風」を意味する「Huaira(ワイラ)」という名前をつけたアンデスの伝統的音楽のグループ。ワイラはアメリカをはじめとして世界各国を回って演奏を披露している。
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