シベリアの開発ブームでエベンキの人たちの生活が危機的状況に
世界でいちばん長い原油のパイプラインの建造工事がはじまったロシアの極東シベリアで、先住民エベンキの人たちの伝統的生活が崩壊の危機に瀕している。
この原油パイプラインは全長4,130キロメートル、奥モンゴルとロシアの国境に近いタイシェットから、バイカル湖の北を通り、中ロ国境のアムール川(黒竜江)沿いに沿海州を突っ切り、ハバロフスクを経由して日本海沿岸のペレボズナヤまで続くもので、2008年末の中ロ国境のまでの、そして2015年までの日本海までの完成を目指して工事が急ピッチで進んでいる。
ロシアはご存じの通りエネルギーバブルで、豊富な石油資源を中国やその他ののどから手が出るぐらい石油がほしい日本をふくむ東アジアの近隣諸国の国々に供給することで大儲けを企んでいる。
この開発の大波をまともに食らいつつあるのが、パイプラインが通過するシベリアの森林地帯タイガでロシア化したとはいえ昔ながらのトナカイを追う生活を続けてきたエベンキの人たち。
エベンキの人たちのなかにも、アメリカ・インディアンの部族と同じような進歩派と伝統派の生き方の対立は当然あって、今回のロシア政府のエネルギー政策のおかげで自分たちの住む地域も経済的に潤うと考える人たちもいないわけではない。しかし突貫工事がはじまったために、その一帯に住んでいた数千頭という数のトナカイたちが追い払われて急速に数を減らし、トナカイの猟だけではエベンキの人たちの生活がなり立たなくなってきているというきつい現実もある。
このニュースを伝えるBBCのウェブサイトはその地で45年近くトナカイ猟で生計を立ててきたマーティノフさんというエベンキの猟師の「トナカイの肉や毛皮ではもう充分な利益を上げられなくなってしまった」という声を掲載している。
もともとこのパイプラインは、バイカル湖のすぐ近く800メートルほどのところを通す予定だったが、環境保護運動の高まりを受けて、プーチン大統領が湖から遠く離れたところを通すように計画変更させたもの。
ロシアの経済とエネルギー政策がエベンキの人たちに与える影響を調査しているロシア少数民族連合の代表理事であるヴィクトール・クズネツコフ氏によれば、2001年以来エベンキの人たちが経済生活の基盤とするイルクーツク地方ではトナカイの数がこれまでに10パーセント減少したという。イルクーツク地理研究所のある報告では、数千ヘクタールのトナカイの狩り場とそこを住処としていた無数のリスや鹿やクロテンを失うエベンキの人たちが受け取るトナカイの損失にたいする代価は、なんと1年にわずか9アメリカドルしかないのだという。
すべてどこかで見たような光景が、ここでもまた繰り返されようとしているのだ。
Source : Siberian boom threatens traditions [BBC News by Tom Esslemont, Monday, 8 October 2007]
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