犬が逃げていった道 チェロキー一族のおはなし

昔、世界がまだ若かったころ、空には星があまりありませんでした。
当時の人びとは日々の食料のすべてをトウモロコシに頼り切っていました。乾燥させられたトウモロコシが大きな木の臼のなかで、これも長い木の杵でつかれてコーンミールになるのです。コーンミールは大きなカゴのなかに蓄えられました。冬になると挽かれたトウモロコシの粉は、パンやおかゆへと姿を変えたものです。
ある朝のこと、年老いた夫婦が貯蔵用のカゴのところにコーンミールを取りに行きました。そしてなにものかが夜のうちに大切なコーンミールをカゴから持ち去っていたことを発見したのです。ふたりはたいそう腹を立てました。こともあろうにチェロキーの村に泥棒が出没したのかもしれません。
しかしふたりは気がつきました。カゴのまわりの地面のあちこちに、コーンミールが散らばっているではありませんか。ぶちまけられたようなコーンミールのまん中のところには、とても大きな犬の足跡が残されていました。犬にしてはとても巨大な足跡です。老人と老婆は、その犬がおよそ普通の犬ではないことに気がついていました。
ふたりは大あわてで村中の人たちに知らせて回ります。その犬は別の世界から来たスピリットの犬であるにちがいないと村人たちは信じました。村では誰もスピリットの犬の訪れをのぞんだりはしません。
村の人たちは頭を寄せあって考え、スピリットの犬を追い出す算段をしました。とことん怖がらせてやれば、犬は二度と帰ってくるはずはないと。その晩、人びとは村中の太鼓と、亀の甲羅からできたガラガラを集めると、コーンミールの貯蔵用カゴを置いてある場所の周囲に隠れて息をひそめました。
その晩の夜更け。たくさんの鳥たちがいっせいに翼を羽ばたくような物音が空から聞こえました。村人たちが顔を上げて夜空を見あげると、一匹の巨大な犬が彼方から急降下してくるではありませんか。やがて犬はバスケットの近くに着地をするや、口いっぱいにコーンミールをほおばり、ムシャムシャと食べはじめました。
そのときをねらったかのように、手に手に太鼓やガラガラを持ち、けたたましい音をたてながら、村人たちがいっせいに物陰から飛び出してきました。いやその音のものすごいことと言ったら、まるで雷が落ちたかのようです。
巨大な犬は音のする方を見ると大あわて、一目散に細い道を走りはじめました。ここぞとばかり村人たちはさらに思い切り大きな音をたてながらその逃げる犬の後を追いかけます。犬はそのまま近くの山に一気に駈けのぼり、そこから空に飛び出しました。犬が口いっぱいにほおばっていたコーンミールが、そのとき夜空にばーっとまきちらかされたのです。
大きな犬は暗い夜空を逃げに逃げてやがてその姿も見えなくなりました。でも彼の口の端からこぼれ落ちたコーンミールが、犬の消えた方に向かって、夜空を横切ってどこまでもどこまでも続いていました。コーンミールの一粒一粒が星になったのです。
天の川はこのようにしてできました。チェロキーの人たちはだから、天の川のことを、「犬の走り去った道」と今も呼んでいます。
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