ネイティブ・ジャパニーズのフィッシャーマンたちだぜ
「新世界最初の住民は日本人か? New World's first dwellers Japanese?」という記事が、8月16日のジャパン・タイムズ紙に掲載されていた。ロンドンから共同通信が発信したものだ。記事はニューサイエンティスト New Scientist という雑誌の最新号に、南北アメリカ大陸を最初に小さな舟で旅をしたのが日本からやってきた漁民だったのではないかとする、研究の発表がなされるというもの。
これまで「最初のアメリカ人」はおよそ13,500年年前にベーリング氷橋を歩いて渡りアラスカに入ったアジアからの狩猟採集人[ハンター・ギャザラー]たちとされていたが、今回発表された研究はこの説に疑問を投げかけるものになると記事は伝えている。
オレゴン大学で考古学を教え、パレオインディアンと呼ばれる原インディアンの研究、なかでも環太平洋の古代海洋民の研究をしているるジョン・アーランドソン Jon Erlandson 教授は「新大陸に最初に到達したのはおそらく漁民(フィッシャーマン)たちで、海洋中を連続して続いている昆布の林を追いかけて、太平洋岸を日本からアラスカへ、そして南カリフォルニアへと移動してきた」という持論をいくつかの科学的な根拠を元に展開しているという。「その人たちは沿岸に沿って移動し探検をしていたのだろう。昆布ハイウエイみたいなものかもしれない」とサイエンスジャーナル紙にも語っているとある。
この記事を書いたのは日本人の記者であることは間違いない。そうでなければ13,000年前の日本列島に日本人がいたなどとは考えることもないだろうから。問題にされるべきはこうしたメディアの姿勢なのかもしれない。日本人というのは、日本を建国した人たちによって1,300年ぐらい前に考え出されたコンセプトであり、それ以前には日本人などは影も形もなかったのであるから。
もちろんアーランドソン教授の研究自体はきわめて説得力のあるもので、現在のチベットと日本と南北のアメリカ先住民にのみ共通するDNAのタイプの調査研究や、20,000年前の縄文人が丸木船で伊豆の神津島まで黒曜石を黒潮を超えて採集に行く技術を持っていたことなどから、15,000年程前に南北アメリカ大陸の太平洋沿岸に姿をあらわした人たちは、昆布の採集や海の採集をする現代日本人が暮らしている日本と呼ばれている島々から訪れた人たちであったと考えているらしいが、その人たちを短絡的に「日本人」として報道してしまうところが、日本の今のジャーナリズムの限界を露呈している。きっとこれを読んだ現代日本人のなかには、「最初のアメリカ人は日本人だ」と思いこんでいい気持ちになる人がたくさん現れるのだろうな。
ネイティブ・ハートという当ブログを長く読まれてきた方なら、ことはそんなに単純ではないことがわかるはずだ。ネイティブ・ジャパニーズは、日本人のなかに消えているが、その人たちが日本人だったことはただの一度もない。日本語を話していたわけでもない。この人たちは、日本列島もその一部である北太平洋の沿岸地帯をテリトリーとする地球に生きる人たちの一部である。ネイティブ・ジャパニーズは、日本人の血脈のなかに姿を消した・あるいは隠れているのだろう。しかし彼らを日本人にしてしまうことは、アメリカ・インディアンをアメリカ人にするのと同じぐらい陰謀的なことなのである。ぼくはそう考える。
こうした記事を読むときにつねに考えなくてはならないことは、「日本人」とはなにかということだ。無条件に日本人の存在を前提として受け入れてしまうと、自然やすべてのいのちとつながっている大切なものをそっくり失いかねない。ぼくたちのなかには「日本人ではなかった時代の魂」も宿っているのだから。
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Comments
ごぶさたしております。
先日ハワイにて日系人(4th G)と話していて思いました。
日本の地を訪れたこともなければ、1th Gの故郷も知らず、
もちろん日本語もできず、パールハーバーを見学したことも
なければ、ロウフィッシュ(刺身)も食べられず、
等など・・・
日本人の血を日本人と呼ぶのであれば、確かに日本人はいますね。
でも、この分だと日本育ちで誰よりも日本の風習を理解し愛している
外国生まれの西洋人もいるかもしれません。
Posted by: 信珠 | Saturday, August 18, 2007 08:16 AM