不法侵入
コービン・ハーネィが「原子力の鎖を断つ」決心をした最大の理由は、彼ら一族の国のなかに合衆国政府によって1951年に核実験場(NTS, Nevada Test Site)が強制的に作られ、延べ900回を超す核実験がこれまで繰り返され続けてきていることにある。ショショーニのたとえようもなく美しい大地の一部は、わずか60年ほどで世界で最も放射能に汚染された土地となってしまった。放射能汚染は大地をむしばみ、大地からわき出るいのちの水をむしばみ、ありとあらゆるいのちをむしばんできた。
コービン・ハーネィはひとりのメディスンマンとして現実と対面し、死ぬまであらゆる核廃絶運動の先頭に立ち続けた。自分たちが母なる大地と信じる土地におけるありとあらゆるウラニウム採掘・核爆発実験・核廃棄物投棄にたいして、すべてのいのちあるものと調和して生きることを旨とするショショーニの人たちが最も先鋭的に反対し続けてきたのは、その行為と行動こそが母なる地球の上で生きる彼らにとって最もスピリチュアルなことだったからに他ならない。
彼は原子力は、存在するあらゆるいのちにたいする最大の脅威であるとして、核の平和利用などありえないと言うことを世界に伝えようとし続けた。ショショーニの人たちから強制収容された土地を巡る争いの常に先頭に立ち、法を破ることを承知して柵を越えて核実験場のなかに立ち入って逮捕されたこともしばしばだった。ショショーニの伝統を受け継いだメディスンマンとしての彼の「核の鎖」を断つ闘いの一部始終が『 Trespassing(不法侵入)』というドキュメンタリー映画に記録されている。この映画のハイライトシーンが、 2分足らずのものだが、YouTube で公開されているので、この記事を読んでしまったこともなにかの縁として、なにとぞ下のリンクからご覧いただきたい(直接動画を埋め込むことが認められていない作品なので)。
ショショーニの古い言葉で、厳しい表情の彼が大地に向かって、火のついたセージ・スマッジを手にあらゆるいのちのために祈りを捧げるシーンに、核実験場における核実験の映像がかさなるおそろしいまでに印象的なものである。それがスピリチュアルな闘いであるとぼくがいうことの意味を、その目で確認していただきたい。トレーラーの最後に出てくる「敵ではなくて、われわれの方が原子爆弾を手に入れたことを、神に感謝する」というトルーマン米国大統領の言葉は、映画『ホピの予言』(宮田雪監督)でも使われていた。
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