ナバホの人たちのなかには10年以上も火力発電所の増設に反対してきた人たちがいるのだ
27日のニューヨークタイムズ・オンライン版が「エネルギーへの挑戦:ナバホと環境派が火力発電所で意見の対立( The Energy Challenge: Navajos and Environmentalists Split on Power Plant )」(購読には無料登録が必要)という記事を大きく取りあげていると、本ブログの読者からメールで教えられた。ざっと目を通すと、すでにリザベーションのなかにひとつ火力発電所をもっているナバホ部族会議が、さらにリザベーションのなかのデザートロックと言うところに、ラスベガスやフェニックスといった都会に電力を売って収益を得るために巨大な火力発電所建設を計画しており、この計画が地球規模で起こりつつある気候異変への影響を重要視する環境保護主義者たちとナバホ国との、そしてナバホの人たちのなかでも賛成派と反対派のあいだの溝を深めているという内容だった。
「ナバホ国にとってエネルギーは最も価値のある通貨である。部族の土地にはウラニウム、天然ガス、風、太陽、そしてなによりも石炭というエネルギー資源が豊富にある」という書き出しではじまるこの記事は、ヘッドラインを読むとナバホの人たちと少数の反対派とナバホ以外の環境保護論者たちのあいだでデザートロック火力発電所計画についてもめているというふうに理解できるし、実際記事はシエラクラブなどの地球温暖化を食い止めようとする勢力との対立をあおっているととれなくもない。ナバホの人たちが金に目をくらませて、地球温暖化のことなど考慮せずに自分たちの土地からとれるエネルギー資源を利用しようとしてきたと受けとめられない書きぶりだ。そしてナバホの人たちのなかに最近この問題で心を痛める人たちがようやく現れて、部族外の環境派と連携して反対運動を展開していると、記事は続けたいらしい。
しかし事実は少し違う。ナバホの人たちだって全員がこれまでデザートロック火力発電所計画に賛成してきたわけではないのだ。ナバホ部族会議や、部族会議議長や、ナバホ部族評議会といったナバホの人たちの代表とされる「政権」と、昔からこの問題で争い、火力発電所反対闘争の闘いを長期にわたって続けているナバホの人たちも当然ながらいる。
大手新聞はおうおうにしてこう言うような書き方をするので、記事を読む場合はミスリードされないように注意を配る必要がある。たとえば中米や南米の先住民で、自分たちの土地を守りながら生き延びようとしている人たちのことを「反政府勢力」というふうに大新聞は書いたりすることがある。もちろんそれはその内実が見えていないという現実を写し出していることだけではあるのだけれど。
火力発電所や環境を破壊する鉱山からあがる莫大な利益から、ナバホの部族会議議長や政府の人たちの給料やら交通費が出ていることを、大新聞はまず報告しない。片方にそうした企業から上がる利益を得ている富裕階層がいる一方で、ニューメキシコ州の北西部や、ビッグ・マウンテン地区や、ユタ州の南東部には、石油や石炭の油田や採掘による発ガン物質とともに生きているナバホの人たちがいまだに水道も電気もない生活を送っている。そうやってインディアンの人たちが劣悪化する環境のなかに身を置いているときに、アメリカ南西部に暮らす「非インディアン」の人たちはその人たちの犠牲の上でつくられる電気を享受している現実がある。
白人政府や企業からの「金」が入る部族会議はたいていどこも自分たちの政策と自分たちに都合のよい企業の活動をニュースにするための専門の対メディア対策のための報道官を大金を払って雇っていたりするのが普通だ。もちろん取材記者は、そうしたものの裏側に隠されたものをきちんと取材するのだろうが、それが記事になるときにはたいていまぎらわしいタイトルがデスクと呼ばれる人たちによってつけられてしまっていたりする。
今回の記事では、ニューヨークタイムズは、現代を生きるナバホの人たちのなかには環境主義者などこれまでいなかったと思いこんでいたふしがある。今回初めて火力発電所に反対する人たちが出現したというような書きぶりなのだ。しかしそんなことはない。頭文字をとってディネCAREといわれる環境破壊に抗議するディネ(Dine' Citizens Against Ruining the Environment)の会という草の根組織が、すでに80年代から母なる地球を守るという信念に基づいて活動をしてきている。ディネとは「ナバホ」の人たちが自分たちのことを呼ぶ呼び名で『人間』を意味する。
そうしたナバホの人たちは、今の部族会議議長のジョー・シャーリー・Jrが就任したときから、このデザートロック火力発電所計画に抗議し続けているのである。ただそうした活動を巨大メディアはこれまでまったく取りあげてこなかっただけのことなのだ。
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