あなたの耳にはなにが聞こえている?
ニューヨークのダウンタウン、マンハッタンはタイムズ・スクエアの近くを、一人のインディアンが友だちと歩いていた。ちょうど昼飯時で、通りにはたくさんの人たちがあふれかえっている。車があちこちでやかましくクラクションを鳴らし、角という角ではタクシーがタイヤをきしませていた。けたたましくサイレンの鳴る音が聞こえる。さまざまな都市の音がひとつにまとまって、うわーんというような耳をふさぐような音——
いきなりくだんのインディアンが足をとめて言った。
「コオロギの鳴き声だ」
「おいおい、しっかりしてくれよ」と連れの友だちが声を荒げた。「頭おかしいのかよ? こんなに音があふれてるところでコオロギの鳴き声が聞こえるわけがないじゃないか」
「いいや、まちがいない。あれは、確かにコオロギの声だ」
「そんなもの聞こえないよ」と友。
インディアンの男はしばらくじっと耳を傾けていたが、やがてすたすたと歩いて通りを反対側に渡った。そこにはコンクリートでできた大きなプランターがおかれ、灌木が植えられていた。インディアンの男はしばらくその灌木の根のまわりをのぞきこむように見ていた。そしてはたせるかなそこに一匹のコオロギがいるのを発見した。連れの友だちは腰を抜かすほど驚いた。
「たまげたなあ! すごいや! お前の耳は超人的だな!」
「いや、そんなことはない。わたしの耳もあなたの耳もまったく変わらない。違っていたのは、耳がなにを聴いているかと言うことだ」
「そんな、ありえないよ! こんな騒音のなかでどうすればコオロギの鳴く声が聞こえるって言うんだ?」
「聞こえるのさ」インディアンはこたえた。「自分がなにを大切なものだと思っているかで聞こえるものはちがってくる。嘘だと思うのなら、ひとつ試してみよう」
そういうとインディアンは自分のポケットから二、三枚のコインを取り出し、さりげなくその数枚のコインをぱらぱらと歩道の上に落として見せた。コインが歩道に落ちた瞬間、あいかわらず世界は人混みの喧噪に包まれているにもかかわらず、10メートル四方にいたすべての人間が、いっせいに音のした方を振り返ったではないか。みなはまるで落ちたのは自分の金ではないかとでも言うような顔をしていた。
「な、わかっただろ」そのインディアンは友だちの顔をのぞきこむようにして言った。「人間というのは自分にとって大切なものの音しか聞いていないんだって」
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