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Sunday, June 10, 2007

働くことが目的で働く人たち

『ソノラ沙漠で教えを広めて——1755年から1767年までのイエズス会宣教師ジョセフ・オークの出張報告』という文書のなかで、ジョセフ宣教師はネイティブ・アメリカンが農業を嫌う理由を、自らの人種的偏見を正当化するようにこう書き記している。

「生まれついてインディアンは大変な怠け者であり、働くことを目の敵にしている。土地を耕して疲れるぐらいなら、まだ飢えた方がましだと考えるものたちだ。であるがゆえに、上のものが強制してあのものたちにそれをやらせなくてはならない。勤勉なヨーロッパ人が6人もいれば、一日でインディアン50人分以上の働きができる」

Chief Sitting Bull幼名を「スロン・ヘ」と、ラコタの言葉で「愚図(スロー)」といった19世紀のラコタの偉大なチーフ・シッティング・ブルは、自ら工業化社会で仕事をする人たちのありさまを観察した結果、伝統的狩猟採集民の心情を見事に次のように語っている。

「白人は食べ物のために地面を掘るのを好む。わが一族の者は自分たちの父親がそうしたようにバッファローを狩るのを好む。白人はひとつの場所にとどまるのを好む。わが一族の者は自分たちのティピをその都度狩り場にあわせて移動させるのを好む。白人の暮らしは奴隷のものである。白人は町の奴隷であり、農場の奴隷である。わが一族の暮らしは自由そのものだ。家であれ、鉄道であれ、着るものであれ、食べ物であれ、それがなんであれ、広々とした土地を自由に動き回り、自分たちの流儀で暮らす権利ほどよいものを、わたしはいまだかつて知らない。白人はなるほどわれわれが欲しかったものをたくさん持ってはいるが、白人はわれわれが最も好むただひとつのもの、自由だけは、持っていなかったことがわかる。たとえ獲物がわずかで、肉が口にはいるほどなかろうと、自由なインディアンとしての特権を放棄するぐらいなら、白人の持つものことごとくすべてを持てたとしても、ティピで暮らすことの方を自分は望む」

そこでぼくが気に入っている小咄をひとつ。これはネイティブ・アメリカンの笑い話ではなく、メキシコのある漁師の話なのだが、と枕をふっておいて、興味ある人は続きをお読みください。

れはとあるメキシコの漁村での話。

銀行員で投資家のそのアメリカ人が桟橋にいると、そこへちょうど一艘の小舟が、キハダマグロの大物を何尾か積んで帰ってきた。漁船には漁師が一人のっていた。アメリカ人は獲物の立派さを褒めちぎり、釣り上げるのにどのくらい時間がかかったかをたずねた。

「なあに、ちょいちょいさ」とメキシコ人の漁師がこたえた。

それを聞いてアメリカ人はたたみかけるように聞いた。

「そんなに簡単ならもう少し粘ってもっと釣り上げてこれたんじゃないのかね?」

「とりあえず家族を養うにはこれで充分なんでさあ」

「でも時間はたっぷりありそうじゃないか? 海に出ていないときにはあんたなにをしているんだ?」

メキシコ人の漁師がこたえた。「夜更かしするし、ちょっとだけ漁に出て、子どもたちと遊んで、女房のマリアと一緒に昼寝をして、目が覚めて夕方になったら毎晩村にくりだして、ワインをすすり、仲間たちとギターをかき鳴らすんだ。これでけっこういそがしい毎日を送ってるもんでね」

するとアメリカ人は鼻の先であざけるようにいった。

「私なら、ハーヴァードのMBAをもっているから、力になれますよ。あなたはより多くの時間を釣りに費やすようにして、その収益でより大きいボートを買わなければなりません。より大きいボートの収入で、さらにいくつかのボートを買うことができるはずです。そうなったらあなたは、何艘もの漁船を抱えることになる。仲買人に獲物を売るかわりに、直接水揚げを水産物加工業者に卸せばいい。その気にさへなれば、自分で缶詰工場だってはじめられます。製品も、加工も、流通も自分の手の内にできるんです。そうなったら、こんな小さな漁村を離れて、メキシコシティーへも、つぎにはLAにも、最終的にはより企業を大きくするためにニューヨークへだって、あなた引っ越す必要があるかもしれません」

それを聞いてメキシコ人の漁師がたずねた。

「いったいそうなるのにどのくらいの年月がかかるかね?」

「ざっと15年から20年でしょうか」

「ほー、それで、そうなったらそのあとはなにをする?」

「ハッハッハ」アメリカ人は声を立てて笑った。「それです。そこが肝心。あなたは時期を選んで自分の会社の株式を公開をして、株を投資家たちに売り、しこたまもうけて大金持ちになるのです」

「大金持ちとは、どのくらいの?」

「何百億って額ですよ」

「何百億ねえ、で、そのあとはどうする?」

そう聞かれてアメリカ人は意気揚々とこたえた。

「そうしたら一線から引退するのです。海岸のそばにある小さな漁村にでも引き込んで、夜遅くまで起き、適当に魚を釣って、子どもたちと遊び、奥さんと一緒に昼寝をして、目が覚めたら村にくりだして、ワインをすすり、仲間たちとギターをかき鳴らせばいいんです」

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Comments

今の日本では、そんな生き方は難しいと思われます。
皆せっせと働かざるを得ません。
金のために。
どうしたらいいのでしょう?

Posted by: インディオ | Sunday, June 10, 2007 08:46 PM

それでも必死に牢屋からの出口を探すしかない。牢屋のなかで自由だと思いこまされていたら、ぜったいにそこから出て行けない。出口は、一センチ四方の空間しかないかもしれないが ^^;

Posted by: Kitayama "Smiling Cloud" Kohei | Sunday, June 10, 2007 09:57 PM

最高ですね、やっぱり!!貧乏のくせに、楽しくて感動することには貪欲で、はたからみると無駄遣いの王者のような私にとって、実に心強い本日のブログでした。
 いつもありがとうございます。
貧乏でも優雅な時は過ごせるものです(^^)v

Posted by: PATTY | Wednesday, June 13, 2007 12:29 AM

この小咄、最高ですね!

Posted by: りょうちん | Saturday, June 16, 2007 12:36 PM

フード、シェルター、、そしてラブ。
それさえあれば、豊かで自由なライフを送っていけるはず!
消費に慣らされた自分自身に対して意識し続けられるようつとめています。

Posted by: toshi | Friday, June 29, 2007 10:14 AM

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