「兄」から「弟」へのメッセージ
じつはぼくが長いことネイティブ・アメリカンのなかで関心を持ち続けてきたのは、いわゆる古モンゴロイドと考えられる人たちの生き方が色濃く残っているところにある。南北アメリカ大陸はとても広くて、新旧のモンゴロイドは、日本列島のように混血しあっていないのが特徴だと推測されるからだ。いわゆる古モンゴロイドは、遠くまで旅をした人たちで、南北大陸先住民には新旧大きなモンゴロイドの流れが見て取れる。
古モンゴロイドは南米・中米メソアメリカ・メキシコ北部・アメリカ合衆国南西部に暮らしてきていて、その北限がぼくが最初にネイティブの世界に足を踏み入れることになったショショーニの人ではないかと思う。アメリカからメキシコ・中米・南米(グァテマラ、コロンビア)にかけての古モンゴロイドの人たちの多くは、言語研究家の間では「ユート・アズテカン語族」などと呼ばれているが、それらのなかにはショショーニ、ショショーニと同族のコマンチ、ユート、パイユート、トーノオーダム(パパゴ)、ホピ(モキ)、ヤキ、タラユマラ、フイチョール、アステカ、マヤといった人たちがふくまれている。この同じような語族の人たちの文化にはある種の共通項「いのちと大地はひとつ」「自分たちは地球の守護者」とする認識がある。
ここでアメリカ先住民の言語について書くつもりはないし、さほど詳しくもないからこのぐらいにしておくが、こうした古モンゴロイドの人たちのひとつに「コギ(Kogi)」といわれる人たちがいる。コギの人たちは南米のとっつきにあるコロンビアという国の北コロンビアに連なるシエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ(現在は国立公園)という山脈のなか、500人ほどがひっそりと完ぺきな自給自足で暮らしていて、その隔絶された自然環境(写真はコギの村)のためにスペイン帝国の占領からかろうじてまぬがれ、現存するなかでは唯一前の世界を今も知っている人たちとされている。
1940年代から50年代にかけてコギの人たちを調査研究した人類学者はコギの人たちがカリブ海やメソアメリカやアメリカ南西部、そしてアンデス山脈の南部の先住民となんらかのつながりがあると指摘したと記録にある。
コギの人たちは現在も生き残っていて、自分たちの山に囲まれた環境の守護者としての伝統をしっかりと守り、彼らが「世界の心臓」と呼ぶ聖なる山の世話をすることを、自分たちに与えられた義務であると認識している。いまだかつて戦争というものとは無縁のところにいるコギの人たちの文化を伝える人の話では、興味深いことに、彼らは自分たちのことを「兄」と呼び、新しくやってきた世界のバランスを破壊する人たちのことを「弟」と呼んでいるのだという。
コギの人たち(写真はコギの男性・99年にコギの部族共同体が「すべてのいのちのかたちの調和のとれた共存と共栄を守る」ことに貢献したとしてバイオス賞を受賞したときに撮影されたもの)が自分たちの守ってきた教えについて世界にむかって話すことを決心したのは1990年のことだった。彼らはあえて自分たちを他から隔絶するところに置くことで生き残ってきたわけだが、自分たちの守る山、世界の心臓にただならないこと、雪が降らなくなり、川の水が涸れはじめるなどの良くないことが起こりはじめたことから、「もしも彼らの山が病になれば、世界に問題が起きる」という祖先の教えに従って、外の世界に、「弟」たちにむかって話をするときがきたと決心したという。
コギの人たちは、一族の教えを守る特別な役割の人間のことを「ママ」と彼らの言葉で呼んでいる。ということで、説明のあらましはこれぐらいにして、以下は最近になって公開された「ママのお話し」の一部始終である。
兄であるコギの人たちからの伝言
わたしたちは世界を護っている。
わたしたちは母なる地球を敬う。大地が自分たちの母親であることを知っている。
もしわたしたちが、例えば一本のオレンジの木を植えたとする。木はなんでもかまわない。そうやって植えた木を根ごと地面から引き抜いたら、その木は死んでしまうだろう。大地のなかに眠っている黄金を掘り出すのもそれとかわらない。黄金だってちゃんと死ぬ。わたしたちはこれまでも世界が死につつあるという話をたくさん耳にしてきた。なぜ世界が死ぬのか? あまりにもたくさんの墓が盗掘されてきたからだ。世界というのは人間とよく似ている。墓を暴いたり、金を掘り出したりすれば、それはいずれ死んでしまう。わたしたちは地面のなかで眠る黄金を取り出したりはしない。わたしたちはそれがそこにあることは知っているけれど、あえてそれを手にとろうとは思わない。わたしたちは一族の預言として母親から聞かされて黄金を取りだしてはならないと言うことを教わってきた。われわれはそれがそこにあることは知っていたので、あえて掘り出さずに、しかしそれに捧げ物だけは欠かさないようにしてきた。
わたしたちが生きている仕組みをご存じか? 血液がなければわたしたちは生きられない。骨がなければわたしたちは歩くこともできない。今ならすべての[コギの人たちの宇宙論的思索の守護者で、教えを守る人である]ママたちは、わたしたちがここで言おうとしていることといかにそれを話すかについては同意をする。もしわたしが自分の脚を切り落としたら、わたしは歩くことができなくなる。もしあの人たちが、わたしたちが「弟」と呼ぶ人たちが、地面に穴をあけてそこから黄金を取りだしたら、同じことが起こる。黄金はそれ自身が自分の考えを持ち、話もできる。それは生きているものだ。あの人たちはそれを盗むのをやめなくてはならない。
もしあの人たちが黄金を取り出せば、世界は終わるだろう。すべてのバナナの木の母親たち、すべての木の、すべての鳥たちの母親たちは、ことごとく盗み出されてしまった。あの人たちは母親のからだを切り刻んできた。あの人たちは手当たり次第に奪い去った。あの人たちは母親のあらゆるものからスピリットを奪い去ってきた。あの人たちは母親のまさにスピリットと考えそのものを盗んでいっている・・・
水を作るのは山だ。山は川を作り雲を作る。山の木々が倒れたら、そこではもう水が作られなくなる。わたしたちは川のそばで育っている木は切り倒さない。その人たちが川を護っていることをわたしたちは知っている。わたしたちはあの「弟」たちがしているように、広大な地域の森の木々を切り倒したりはしない。切るときは、自分たちの畑とするためにほんのわずかな土地を切り開く。母親はわたしたちにたくさんの木を切らないように教えてくれた。だからわたしたちはところどころでほんのわずかな数の木しか切らない。
「弟」が今のようにすべての木を切り倒し続けるのなら、太陽が地面を熱くしていずれ火事を起こすことだろう・・・わたしたちは「兄」であるから物事をもっとはっきりと考えなくてはならない・・・
「弟」よ、そのようなまねはやめよ。もうこれまでじゅうぶんすぎるほど手に入れたではないか。わたしたちには生きるための水が必要なのだ。母親はわたしたちに、いかにすれば相応な生き方ができるか、どうすれば健全に考えられるかを伝えてくれた。わたしたちは今もなおここにおり、教えられたことをひとつも忘れたりはしていない。
地球は今、腐りかけている。なぜならあの人たちがあまりにもたくさんの石油や石炭や多くの鉱物資源を持ち去ってしまったがために、ほんらいの力を失ってしまったからだ。「弟」は「どうだ、ぼくを見ろ! ぼくは宇宙のことはなんでも知っているんだぞ!」と考えている。だが、そうやって、世界の破壊の仕方を学んで知っているだけで、やっていることは手当たり次第にすべてを破壊し、人間らしさを破壊し・・・母親を苦しめ続けているのだ。母親の歯を折り、両方の眼球を取りだし、耳をふたつとも切り落としてしまった。母親は食べたものを吐き出し、下痢も止まらない。彼女の病は深刻だ。
もしわたしたちが自分の両腕を切り落としたら、わたしたちは二度と働くことができなくなる。二本の足を切り落としたら、それ以上は歩くことができない。母親はまさに今そのような状態にある。母親は苦しんでいる。母親にはもうなにもない。
「弟」は、いったい自分がなにをしたのか、わかっているのだろうか?
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Comments
こんにちは 毎回楽しく読ませていただいております。
以前鮮明で不思議なビジョンを見ました。
素朴で不思議な事ができる人々のビジョン。
わたしは彼らを「いにしえの人」と呼んでいました。
その後偶然コギ族のことを読みました。
彼らは「いにしえの人」に 住んでいる場所も容姿も衣装もそっくりでした。
そして今日 またまたコギの人たちに出会うことが出来ました。
そして北山さんの記事に感銘を受け 私のブログに紹介させていただきました。
事後承諾で申し訳ありません。
ご迷惑でしたら ご連絡下さい。
Posted by: るーえ | Sunday, January 14, 2007 07:39 AM
身体が震えるような話でした。
ありがとうございます。
このKogiとHopiの字面が似ている
のが妙に気にかかります。
アルファベットと関係の無い世界
の両民族でしょうが…。
Posted by: 永峰秀司 | Sunday, January 14, 2007 08:40 AM
日本版ナショナルジオグラフィックの以下のページにコギの人たちの写真が掲載されていました。マヤのラカンドンの人たちととてもよく似ています。
http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/feature/0410/index5.shtml
Posted by: Kitayama "Smiling Cloud" Kohei | Wednesday, January 17, 2007 06:53 PM