自分が誰で、どこから来たのかを思い出せない
アメリカ・インディアンの若者たちの自殺率が異常に高いことについてはこれまでも何度か書いてきた。そうしたなかスポークスマン・レヴューというオンライン・ニュースペーパーの10月25日付の記事が眼に止まった。「ネイティブ・アメリカンの自殺は過去の虐殺と関連があると専門家が指摘(Expert says past genocide linked to suicides in Native Americans)」というタイトルの記事で、同誌のスタッフライターであるケヴィン・グラマンという記者が書いている。
要約すれば、歴史的なトラウマ(心の傷)が世代を超えた心的外傷性ストレスとなりアメリカ・インディアンの自殺につながっているというものだ。先日おこなわれた「ネイティブ・アメリカンの自殺と暴力を未然に防ぐための会議(Native American Suicide and Violence Prevention Conference)」において、デンバー大学でソーシヤルワークを教えているマリア・イエローホース・ブレイブハート(ハンクパハ・オグララ・ラコタ)は語っている。
「わたしたちの一族にはあまりにも多くのことが起こったために、トラウマから回復するための充分な時間がいまだかつて取れたことがないのです。回復する前につぎのただならないことが起きてしまうから」
つまり「つもり重なっていた集団のトラウマ」が、アメリカ合衆国やカナダの政府がインディアンの子供たちにたいしてとりいれた寄宿学校(ボーディングスクール)制度によっていっそう悪化させられてしまったということである。
寄宿学校制度とは、四歳ぐらいの児童の時に子供たちを親元から引き離して、12年間にわたって遠隔地の寄宿舎付学校で徹底した「文明人化」教育を施すというもので、つい先ごろまでこれがおこなわれており、現在30代から50代のネイティブ・アメリカンのなかには「自分はボーディングスクール・サバイバー(生存者)だ」と語る人が多い。
「寄宿舎学校のなかで、インディアンの子供たちは、一族の伝統を奪われ、母なる言葉を奪われ、守ってくれる家族を奪われてしまったのです」
マリア・イエローホース・ブレイブハートはそう語った。彼女の言葉からうかがえるように、ネイティブ・アメリカンの子供たちというのは、一族がこうむった(物理的な)大虐殺の生き残りであり、寄宿舎学校というもうひとつの(精神的な)大虐殺の生き残りなのである。
この会議に参加した別の専門家は「インディアンの人たちにとってほんとうに大切なのは、自分が誰であり、どこから来たのかを思い出すことです」と指摘している。
記事を読んだ限りでは、最終的にこの会議では、伝統的な物の価値や文化やネイティブであることのスピリチュアリティを若者たちに教え込むことの重要性が強調されたようだ。そうしたものがなければ、心のなかにぽっかりと穴が開いてしまい、絶望的な孤独に陥りかねないと。マリア・イエローホース・ブレイブハートはつぎのように語っている。
「希望があるとすれば、ネイティブの子供たちが歴史的なトラウマが存在することを認識し、部族共同体の力で伝統的な文化と精神性を再生させて、草の根的な癒しをもたらすことのなかにあります」
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Comments
「過去の虐殺」ではなく今に至る虐殺だと思うものです。殺されたアイデンティティが甦るまでは、虐殺のさなかにある、と言えると思います。
そして、この事態はひとり亀の大陸だけでなく、この弓の島の先住民もまた数千年来の虐殺のただなかにいるのです。自殺という名の他殺は、おれたちの身近にいつもあります。殺されかけた子どものうちその事実と向かいあうことができたものは、寄宿学校に強制的に入れられて殺されたり殺されかけたインディアンに自分と同じ境遇を同調できるはずです。
Posted by: 山竒 | Thursday, October 26, 2006 06:08 PM