わが魂を映像にも埋めよ
ディー・ブラウンという作家が書き、70年代のアメリカに激しく衝撃を与えた不朽の名作『わが魂を聖地に埋めよ』の映画化が進められることになり、俳優のエイダン・クインが、マサチューセッツ出身の当時の政治家でインディアンの文明化をもくろんだヘンリー・ドーズを演じることになると、ニューヨークタイムズがロイター電として伝えていた(August 21, 2006のNYTの記事)。ヘンリー・ドーズは、1856年に先住民に強制移住を認めさせるひきかえに「合衆国政府は、彼らの暮らす居留地を守り、教育と医療を保障し、独立を認める」条約を締結した政治家だが、この条約は結局なにひとつ守られることはなく、合衆国陸軍によるウーンデッドニーの無差別大虐殺へと歴史は続いていく。
『わが魂を聖地に埋めよ——アメリカ・インディアン闘争史』は原題「Bury My Heart at Wounded Knee: An Indian History of the American West」をそのまま日本語にすると「わがハートをウーンデッドニーに埋めよ——アメリカの西部におけるインディアンの歴史」となる。日本語訳では上下2冊に分けられているが、この本は、それまでアメリカ政府のプロパガンダによって巧妙につくられてきた「インディアン」というイメージを打ち壊すのに最も貢献した本である。
19世紀の後半、アメリカ合衆国が西へ拡大していき、そこにいた先住民たちを武力によって追い立てた50年間の歴史を、ネイティブ・アメリカンの目から再構成し、文明そのもののあり方に疑問符を投げかけたきわめて美しく描かれた叙事詩であり、アメリカ史のなかにはじめてネイティブの人たちを登場させた記念的書物でもある。日本では1972年に翻訳が出版されたが、30年以上が経過してもまだ読み継がれ、絶版になっていない。読まれたことがない人は、ぜひこの機会に読まれるべきであるだろう。
カナダで撮影されることになるこの映画が日本で公開されるかどうかはわからないが、アメリカがまたぞろ文明の名のもとに自分たちの戦争を推し進めている今、この原作が映画化されることにとても大きな意味があるように思う。あのときヘンリー・ドーズという政治家が考えていたアメリカ・インディアンの文明化とは「文明的な服装をして、自動車を乗り回し、そして、ウイスキーを飲むこと」に単純化できるだろう。そしていまだにアメリカ人はそれが文明化だと信じているふしがある。
最後に映画化に際してハンクパパ・ラコタのチーフであり、北部大平原の人々の生き残りを賭してアメリカ陸軍と戦ったチーフ・シッティング・ブルを演じるのは、かつてフリー・ウィリー、ラコタ・ウーマン、ロンリー・ウェイなどという映画にも出演したカナダのモホークの血を引くオーガスト・シェレンバーグ(右写真)であることをお伝えしておく。
「人びとの夢がそこで死んだのだ。それは美しい夢だった・・・・・国をまとめていたたがが外れ、すべてがばらばらになった。もはや中心というものがなくなり、神聖な木は枯れてしまった」——ブラック・エルク(ラコタ)の言葉 「わが魂を聖地に埋めよ」より
わが魂を聖地に埋めよ—アメリカ・インディアン闘争史(上巻)
ディー・ブラウン著
鈴木主税訳
出版社: 草思社 (1972/01)
ASIN: 4794200145
わが魂を聖地に埋めよ—アメリカ・インディアン闘争史(下巻)
ディー・ブラウン著
鈴木主税訳
出版社: 草思社 (1972/01)
ASIN: 4794200153
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Comments
はじめまして。
拙サイト、「バージニアのポカホンタス」のまえがきで「我が魂をウーンデッドニーに埋めよ」に触れました、当地の先住民に関心を抱いている者です。
映画になるんですか!?
嬉しいですねぇ!
ただ、ディズニーアニメで紹介されたポカホンタスのように彼らが描かれないことを祈ってます。
文章力のなさに自分ながら腹立たしいままただ事実を伝えたい一心からパソコンやメカに弱い私が起こしたHPです。
いちどご覧になって頂けたら光栄です。
http://page.freett.com/takenokonosato
なお、ブログの方にも私なりに知った事などをアップデートしてますので(まだ始めたばかりで記事は少ないですが)お越し頂いてご意見をお聞かせ下さればこんな嬉しいことはありません。
http://geocities.yahoo.co.jp/gl/azusa_no_tomo
またお邪魔させて頂きます。
どうぞ宜しく。
Posted by: 柿の木 | Wednesday, August 23, 2006 05:16 AM
柿の木さま
バージニアのネイティブの人たちの情報発信を期待しています。時々サイトを見に行きます。ブログも。
Posted by: Kitayama "Smiling Cloud" Kohei | Wednesday, August 23, 2006 09:24 AM
こんにちは。
私の留学時代、1973年に起こった Wounded Knee Incident で関係したラッセル・ミーンズが知り合いという大学の先生に習いました。その時、このWounded Kneeを知ったのですが、記憶も薄れていたのでブログを読み改めて学んだ気がします。
映画がどう出来上がっていくのか興味深いですね。
Posted by: 川上春奈(YUMI) | Saturday, August 26, 2006 01:43 AM
Smiling Cloud さま
お早うございます。
今朝ブログにコメントを頂いたことに気付き嬉しくなって跳んでご挨拶に伺いました。
虹の祭りももう直ぐですね。
こちらもパウワウの季節です。
ナンセモンド族の方はあまりの暑さで行くのを止めてしまいましたので、9月23、24日のチコホミニー部族のパウワウは是非、と今からウキウキしております。
その際はアップデートをするつもりですので、またいらして頂けたら何よりです。
Posted by: 柿の木 | Wednesday, August 30, 2006 02:39 AM
こんにちは
アップデートしました -パウワウは未だですが-
TBさせて頂きましたので読んで頂けたら幸いです。
尚、私事ですが、ジオログからヤフーブログに変えましたところ環境設定が調整出来ず私からのコメント返信が今のところ不可能です。 コメントを書いて戴くのは問題なし、の様ですので、是非またご意見を伺わせて下さい。
Posted by: 柿の木 | Monday, September 04, 2006 03:11 AM