アイヌ語とアイヌの物語を残すこと
以下はアサヒ・コムが8月12日に『アイヌの遺産「金成マツノート」の翻訳打ち切りへ』というタイトルで流したニュースの引用である。偉大なストーリーテラーであり、物語の筆録者でもあった金成マツ(かんなり・まつ)さんのアイヌ名は「イメ力ノ」、和名は正しくは「广知(まち)」という。「岩波講座日本文学史」第17巻口承文学2・アイヌ文学「伝承と伝承者—金成マツ」蓮池悦子著によれば、テープレコーダーがなかった時代に彼女が「筆録したユカラは大学ノー卜2万ページを超える」とある。アイヌ語と、そのアイヌ語によって語られる物語を残すことがアイヌの復興につながることを、グレイト・グランドマザーのイメ力ノさんは亡くなるまで信じ続けた。彼女は偉大なストーリーテラーだった。同書によれば彼女はこれまで「金田一京助に92のユカラと8つのウウェペケレ、12の歌謡を、知里真志保には151のウウェペケレと6つのユカラ、歌謡など58を残した」という。その後、萱野茂氏が40年をかけてこれまでに33話を翻訳されたが、49の物語を残したまま幸福の狩り場に旅立たれた。例えいくつかの公共事業を取りやめにしても、この偉大なグランドマザーのストーリーテラーがなんとしても残そうとしたアイヌの宝物の全訳を完成させることは、歴史的経緯から見ても日本国がやらなくてはならないことではないのかと、ぼくは深く思うのであります。
アイヌの遺産「金成マツノート」の翻訳打ち切りへアイヌ民族の英雄叙事詩・ユーカラが大量に書き残され、貴重な遺産とされる「金成(かんなり)マツノート」の翻訳が打ち切りの危機にある。言語学者の故・金田一京助氏と5月に亡くなった萱野茂氏が約40年間に33話を訳した。さらに49話が残っているが、事業を続けてきた北海道は「一定の成果が出た」として、文化庁などに07年度で終了する意思を伝えている。
ユーカラは、アイヌ民族の間で口頭で語り継がれてきた。英雄ポンヤウンぺが神様と闘ったり、死んだ恋人を生き返らせたりする物語。
昭和初期、キリスト教伝道学校で英語教育を受けた登別市の金成マツさん(1875〜1961)が、文字を持たないアイヌの言葉をローマ字表記で約100冊のノートに書きつづった。92の話(10話は行方不明)のうち、金田一氏が9話を訳し、萱野氏は79年から道教委の委託で翻訳作業を続けてきた。その成果は「ユーカラ集」として刊行され、大学や図書館に配布された。アイヌ語は明治政府以降の同化政策の中で失われ、最近は保存の重要性が見直されつつあるが、自由に使えるのは萱野氏ら数人に限られていた。
文化庁は「金成マツノート」の翻訳に民俗文化財調査費から28年間、年に数百万円を支出してきた。今年度予算は1500万円のうち、半額を翻訳に助成。同予算は各地の文化財の調査にも使われる。
これまでのペースでは、全訳するのに50年程度かかりかねない。文化庁は、「一つの事業がこれだけ続いてきたことは異例」であり、特定の地域だけ特別扱いはできないという。これをうけ、北海道は30年目を迎える07年度で終了する方針を関係団体に伝えた。
道教委は「全訳しないといけないとは思うが、一度、区切りを付け、何らかの別の展開を考えたい」としている。
樺太アイヌ語学研究者の村崎恭子・元横浜国立大学教授は「金成マツノートは、日本語でいえば大和朝廷の古事記にあたる物語で、大切な遺産。アイヌ民族の歴史認識が伝えられており、全訳されることで資料としての価値が高まる」と話している。
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Comments
北山さん、
いつもいつも「道案内」をありがとうございます。
貴殿の著書から、そして、ブログからたくさんの課題をいただいております。
世の中で起きていることに 打ちのめされる事があまりに多いですが、
少しづつでも 小さな事でも 自分ができることを見つけるようにしています。
そして、それらの課題や答について、3人の息子たち(小学1年生、5年生、中学2年生)と
話し合うことができる毎日に感謝しております。
本当にありがとうございます!!
Posted by: Tas | Thursday, August 17, 2006 04:48 AM