ハワイィはどこにあるのだろう?
1980年代に、ハワイに長いこと滞在したことがある。それ以前にぼくはアメリカ大陸のなかをいろいろと放浪して回っていたが、ハワイだけは足を踏み入れたことはなかった。アメリカに渡るときも、帰るときも直行便を使うようにしていたし、ハワイというところにいけば必ず好きになることがわかっていたから、ゆっくりと時間がとれるまでそこに行きたくはなかったのだ。はたせるかなそれ以来ぼくはハワイのことが忘れられなくなってしまった。
ハワイの各島を巡り歩き、いにしえのポリネシアの人たち(海の人になったモンゴロイド)の信仰などを確かめるうちに、環太平洋的にある種の信念体系のようなものが広まっていた時代があるのではないかと思うようになった。南北アメリカ大陸も、アラスカも、カムチャツカも、千島列島も、日本列島も、アイヌモシリも、太平洋諸島も、ミクロネシアの島々も、インドネシアの無数の島も、フィリピン群島も、花の島である台湾島も、オーストラリアやニュージーランドになっているところも、全部が同じようでいて少しずつ異なる文化を花開かせていた前の時代(歴史以前のもうひとつの世界)があったと、今では考えている。ぼくが強く心惹かれるのはどこに行ってもその「前の世界」へ続く古く細い道であった。
今回『日々是布哇(ヒビコレはわい)』という本を太田出版から上梓した。ひとりのハワイ島で暮らすネイティブ・アメリカンの血とスピリットを受け継いだ女性が、ハワイで暮らすということとはどういうことかを、土地のスピリットとつながる黙想のなかで紡ぎ出した不思議な力(メディスン・パワー)のある言葉の本である。急ぎ足の観光旅行では見つけることができないもうひとつのハワイのなかへ旅をしたり、今自分のいる場所を「ハワイ」というよりより正しい呼び名で「ハワイィ」とされる場所に変えてしまいたいと望む人の手に渡ることを願う。
実際にハワイに行く前に読み、ハワイに滞在している間に読み、ハワイから帰ってきてから読み、毎日少しずつ自分の心の状態をハワイィにしていってください。これらの366の心に働きかけるタペストリーのような言葉を長い時間かけて編み出したデブラ・サンダースさんと、ひとつずつそれにふさわしい図案(左図クリックで少しだけ拡大)を描いてくれたイラストレイターの長崎訓子さん、そして持ち運ぶのに絶妙な重さの本をデザインしてくれた新進デザイナーの有山達也さんには感謝の言葉もない。これを読んだ人の心が少しだけ幸せに近づけるのなら、この本は役目を全うしたことになる。
以下に掲載するのは同書の前書きそのまま全文である。
心の状態としてのハワイ 北山耕平楽園としてのハワイはふたつの顔を持っている。「目に見えるハワイ」と「目に見えないハワイ」のふたつである。「物質的(フィジカル)なハワイ」と「精神的(スピリチュアル)なハワイ」と置き換えてもいい。ハワイはしばしば「ハワイィ」と綴られるが、「ハワイィ」とはハワイの正しい呼び名で「神々の住まうところ」を意味する。あなたが手に取られたこの本は、人間にとっての楽園と神々の住まうところとのあいだに、言葉によって美しい虹の橋を架けるためのものである。
目に見えないハワイは、目に見えるハワイほど簡単に体験することはできない。というより、目に見えないハワイを体験するためには、めまぐるしく移り変わる忙しい世界から逃れてきた来訪者としてではなく、あらかじめその土地と強い結びつきを持って生まれて育った者のごとく、別の時間の流れている平和で自然なサイクルの織りなす静寂のなかに常に身を沈めていなくてはならないからだ。目に見えないハワイのことを理解するには、ハワイという心の状態を得て、そこにとどまり続ける必要がある。
「日々是布哇(ひびこれハワイ)」は原題を「A Hawai'i Book of Days」といい、強いて日本語にすると「日々のハワイの書」となる。ネイティブ・アメリカンの人たちが読むインターネットのオンライン・マガジンに、一週間分ずつ毎週掲載されるスタイルで、かれこれ十数年間繰り返して配信され続けた古典的な作品である。一冊の本にまとめられるのはこれが最初だが、ネットの世界で公開されていることもあって、ハワイというのが「心の状態」であることを日々思い出させてくれるここに集められたえりすぐりの言葉たちは、すでに世界中に多くの愛読者を持っている。
著者は1972年以来ハワイのオアフ島に生活の拠点を置くデブラ・F・サンダースという女性で、父親方の家族からネイティブ・アメリカンのチェロキーの血を部分的に受け継いでいるばかりか、成人するまでに家族の都合でオキナワやドイツでも暮らすなど、多様な異文化体験が詩人としての彼女の内面を創りあげてきた。大地や自然に耳を傾けるその感性は、地球を人間と同じような有機生命体として認識するネイティブ・ピープルのものである。
翻訳にあたって底本としたのは、彼女によって最も新しく推敲された2002年の版で、インターネット上に公開されている旧版とはいくつか内容が異なっていることをおことわりしておく。
「Abstract of My Books」カテゴリの記事
- 12月18日に発売予定の『地球のレッスン』(太田出版)のまえがきを再録(2009.12.02)
- 『アレクサンダー・テクニーク入門』(ビイングネットプレス刊)が増刷されました(2009.07.03)
- ぼく自身の著書のための広告●自然のレッスン(2008.07.27)
- 『雲のごとくリアルに』(北山耕平著)が本日発売されるので、そのまえがき全文を掲載(2008.03.07)
- その心に辺境はまだ残っているか?(2007.09.12)
The comments to this entry are closed.
Comments
初めまして。いつもブログを楽しみに拝見しています。
この本、前に紹介されてすぐに購入しました。
ステキな言葉に、イラスト!
私もフラを始めて以来、日本にいてもアロハな気持ちを
キープ出来るように心がけています。
ステキな本をありがとうございました。
Posted by: maya | Thursday, July 06, 2006 02:03 PM
maya さま
よかったです。本を作る人間の宿命みたいなもので、たれかにその本のことを言葉にしてもらうまで安心できません。とりわけ気に入ってくれたといってくれた人がひとりでもいると、天にものぼる気持ちになります。誰もなにも反応してくれないし、アマゾンにも評が載らないままだと、頭をかきむしってない髪の毛をよけい少なくするところでした。よかった。:-)
MAHALO
Posted by: Kitayama "Smiling Cloud" Kohei | Thursday, July 06, 2006 02:15 PM
初めまして。
私も本購入しました!
言葉はもちろん、イラスト、本の紙の感じ全てが素敵ですね。
私は、ネイティブアメリカンの本が好きで読み始めてから、モンゴロイドに興味がひろがり、それがHawaiiへの興味とつながりHULAと出会いました。
なので、今度の本は感慨深いですね。
今、誰かコメントしている・・と思い、のぞいて見たらなんと友達のmaya-chanだったので私もコメントしてみました^^
ローリングサンダーは私の大切な本のひとつです。
これからもがんばってください。
Posted by: azusa | Friday, July 07, 2006 01:01 PM
先日の町田で行われた風をよぶワークショップにいかれなくて残念でした。この本の中には私が昔からなんとなく感じていた「目には見えないもの」がとても美しい言葉で紡がれていて、やはり存在していたんだ、ということを確認させてくれました。
北山さんのホームページはWhole earth〜のころから拝見しています。
インディアンのスピリットは、ネイティブハワイアン、そしてバリ島、日本列島の島々の古い精神と繋がるところがあると、前々から思っておりましたので、この本が出版され、「やっぱり!」という思いでいっぱいです。美しい挿絵と、美しい言葉、毎日文字通り持ち歩いて、読んでいます。
本当に素敵な本だと思います。
Posted by: tam | Friday, July 14, 2006 10:07 AM
はじめまして!
本屋さんで手にとって即買いしました。
本当に素晴らしい、宝物のような本です。
海の近くに住んでいるので、休みの日に海辺に持って行き、
ぼんやり読んでいます。寝る前に読むこともあります。
自然と生きるための智慧がこころの深い部分に響きます。
短い文章からいろいろなことを想像できて、
まるで俳句のような豊かな拡がりを感じます。
素敵な本を作っていただき、ありがとうございました。
ずっと大切にします。
Posted by: pian | Monday, July 17, 2006 12:52 PM