トウモロコシの起源を伝える話
むかし、むかし。人間たちが最初に創られた当時、最初のインディアンもたったひとりで暮らしていた。
まだ火を使うことを知らなかったので、食べるものと言えば、木の根や皮や木の実だけ。最初のインディアンは次第にさみしくなり、心細くなって、仲間を求めるようになっていった。木の根っこを掘ることにも疲れて、やがて食欲もなくなり、男は昼間から地面にころがって、太陽の光を浴びながら、ぼんやりと夢を見ていた。
あるとき目を覚ますと、すぐ近くに人が立っているのに気がついた。あまりに突然だったので男は腰を抜かしそうになり、ふるえあがった。
そのとき声が聞こえた。そしてその声を聞いたとき、男はなぜだかほっとして嬉しくなり、思わず声の主を上から下までながめた。それは長い髪をしたひとりのとても美しい女性だった。
「ここにおいでよ」と男はささやいた。でも彼女はじっとしたまま動かなかった。立ちあがって彼女に近づこうとすると、彼女はさっと遠のいてしまう。男は一計を案じて、自分のさみしさを託した歌をうたい、どこにも行かないでと彼女にこころのうちを伝えた。
ようやく彼女が口を開いた。「あなたがわたしの言うとおりにしてくれるのなら、わたしもあなたの元にとどまりましょう」
男は、できる限りのことはするからと約束をした。すると彼女は彼の手を取り、乾いた草の生えている場所に連れて行った。「乾いた木の棒を二本手にとったら、草のなかでその二本の棒をできるだけ早くこすりあわせなさい」
男が言われたとおりにすると、じきに火が燃えあがった。枯れ草は火をつかまえ、矢が飛ぶよりも早くあたりに燃え広がった。大地は黒く焼けこげた。
するとその美しい女性がまた口を開いた。「太陽が沈んだら、わたしのこの髪の毛をつかんで、この焼焦げた地面の上を引きずりまわしてください」
「ええ、そんなまねはしたくありません」思わず男が叫んだ。
「いいえ、してもらいます。わたしが言ったようにしてもらわなくてはなりません。わたしを引きずり回したあとには、じきに草のようなものが生えてきます。その草の葉と葉のあいだに髪の毛のようなものが見えているはずです。やがてそこに実がなり、いろいろ使うことができるでしょう」
男は結局その美しい女性の命令にしたがうことにしたのだ。
それ以後、われわれインディアンはトウモロコシの絹糸(けんし)を見るたびに、あの美しい女性が自分たちのことを忘れていないことを確認するのさ。
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Comments
なるほど、あの絹糸は女性の髪だったのですね。
わが家のトウモロコシ畑では今年は絹糸のまわりがよかったらしくて、うまいトウモロコシができました。
ところで、インディアンとポップコーンの関係は日本人とお米の歴史より古い、と聞きました。
どんな起源だったのでしょう?
Posted by: 南風椎 | Wednesday, July 26, 2006 02:14 PM
トウモロコシの祖先とされるテオシンテというメイズ(トウモロコシの原種)が、いわゆるはじける(ポップする)種類のトウモロコシで、紀元前からアンデスのモケ(Moche)の人たちはこれを収穫して壺に入れて火にかけて煎ってはじけさせたものを食べていたと、考古学者たちはいいます。ポップコーンはチューイングガムやチョコレートと並んで、現代が享受しているインディアンの重要な発明品なのですね。
Posted by: Kitayama "Smiling Cloud" Kohei | Wednesday, July 26, 2006 02:39 PM
スウェーデンの図書館で私が出会った「トウモロコシの起源を伝える話」は、『とうもろこし娘』です。ご一読くださいな。
THE CORN MAIDEN - Iroquois Indian legend
http://akikofrid.exblog.jp/6303054/
Posted by: アキコ | Friday, October 26, 2007 11:16 PM