輪の王国の物語
『レイム・ディアー』(現在は『インディアン魂』というタイトルで文庫に上下巻で収録されていて、先頃重版になった)というとてつもなく愉快なラコタのメディスンマンが半生を語った本を飜訳したとき、ぼくは後書きに「この本はまるまる一冊差別について記された本である」と書いた。アメリカ・インディアンの世界に足を踏み入れて、あるいは地球に生きる少数民族とされる人たちの世界に足を踏み入れたら、遅かれ早かれさまざまな形で差別の問題と正面から向かいあわなくてはならなくなる。
少なくてもネイティブ・ピープルの価値観においては、「みなが同じでなければならない」という考え方は存在しない。それは彼らが自然(にあるすべてのもの)を、文明人だと思いこんでいるわれわれより細部にわたってことこまかに見る人たちであり、その結果この世界には同じものがふたつとして存在しないことを頭でなくハートで知りぬいているからだ。すべてが異なっていながら調和を持って繋がりあう世界では、当然のことのように個々の違いは大切に敬うべきものとされている。同じ葉っぱが二枚としてないように、同じ人間がふたりは存在しないように、人はそれぞれに違っているのが自然なのである。人々はその違いに応分の敬意を払う。
そこで今回もまた映像を見てもらおうと思う。「輪とその友だち」という タイトルでGoogle Video BETA からの作品だ。これには言葉が出てくる。言葉がわからないと話の筋がわからないので、はじめに言葉の部分をとりあえずぼくが試験的に日本語にしたものを読んでおいてほしい。このお話のあらすじがわかったら、下の映像をご覧ください。日本語の部分はそれぞれのシーンに出てくる言葉に対応している。
輪と その友だち昔、輪の王国がありました。
ある日、人気があり、でも意地悪な
オレンジの輪が、他の輪たちにいいました。
紫の輪はよくない、と。紫の輪は仲間はずれにされた気分。
それはとても悲しいことで
自分にはなぜオレンジの輪が
そんなことをいうのか理解できません。紫の輪がよくないと
オレンジの輪に告げられた他の輪たちは
その理由がのみこめなかったのですが
でも多くはオレンジのことを信じました。他の輪たちは紫の輪をからかいましたが
ピンクの輪だけはそれに加わりません。ピンクの輪は紫の輪が好きでしたから
紫が悪くないことを知っていたのです。
ピンクの輪は他の輪たちに向かって
紫の輪が悪くないことを伝えました。オレンジの輪ははみなにいいました。
ピンクの輪も悪いやつだと。
まもなく他の輪たちは
紫とピンクの輪をいじめるようになりました。いじめに加わっている輪のほとんどが
なぜ自分がピンクと紫の輪をいじめているのか
わかっていませんでした。黄色い輪が気がつきました。自分は
紫の輪もピンクの輪も好きだったことを。
紫の輪もピンクの輪も悪くないことが
黄色の輪にはわかっていたのです。オレンジの輪はみなにいいました。
黄色い輪もいけないやつだと。ピンクの輪と紫の輪と黄色の輪は
新しい王国を作りました。三つの輪は
ひとつの輪が、他の輪の考えることや
好き嫌いに口を出すようなところに
とどまりたくはなかったからです。輪の王国ではあいかわらず
ピンクと紫と黄色の輪のことを
あれこれと言いあっていました。
輪のなかには、なぜオレンジの輪が
他の輪のことをそんなに悪くいうのか
わからないものもいましたが
こわくてそのことを口に出せません。
そんなことを言えば自分がいじめにあうからです。王国に残っている他の輪たちは
オレンジの輪の機嫌を損ねるのを
おそれていました。自分がいじめられたくないので
みな口を閉じたまま、恐怖のなかで暮らしていました。ピンク、紫、そして黄色の輪は
新しい自分たちの、自由で平和な王国で
とても幸福に暮らしました。これは友だち関係と、仲たがいと
受け入れることと、偏見と
リーダーシップと、勇気と
いじめと、集団と,忠誠についての
物語です。あなたはどちらの輪にいたいですか?
ピンク・リボン・エミー・プロダクション制作
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Comments
学校の現場でも、良い機会に生徒達に見せれば、効果的なメッセージになりそうですね。抽象化されていて、すんなり入りそうです。それに、除け者にされた輪たちが自分達で幸福な王国を築くという展開は、学校の道徳の教材にはない展開なのではないでしょうか?
Posted by: りょうちん | Monday, July 03, 2006 09:53 AM