「パワー・オブ・ストーン」の後書き
今日掲載するのは、今月の上旬に荒地出版社から刊行された小生の本『パワー・オブ・ストーン—石の力と力の石』のあとがきの全文である。もともとこの本の母体となったものは、以前に新人物往来社という出版社から出ていた精神世界を扱う雑誌『AZ』のために書いたもので、パワー・ストーンのブームなどもあって、これまでに同社が刊行するムックなどに多くの部分が再録されるなどしてきた。今回、最初の時に収録されただけで以後収録されることのなかった「ストーリーテリング・ストーン(話をする石)」というセネカ・インディアンに伝えられた民話を収め、さらに一章を新たに書き加えるなどし、刊行することができた。石に対する信仰は、世界各地のネイティブ・ピープルに共通してみられるもので、その残りかすはぼくたちの中にもかろうじてある。石に対する思いはわれわれの内側に宿っている。あなたは旅先で気になって仕方のない石を見つけたことがないだろうか? あるいは巨大な石の前で、またはそのうえで長いこと座って過ごした経験はないだろうか? この本は無意識に石とのつながりを求める精神のための書である。どこかに自分を待っている石があると感じている人におすすめ。それでは、『パワー・オブ・ストーン—石の力と力の石』のあとがきを「つづき」でどうぞ。
ストーン・ボーイから君へ 北山耕平この本の中でわたしは何度も石が話をするというただそれだけのことをあなたに伝えようとしてきた。石の声。それはとても親しみのある声だ。まるで自分のなかの深いところにあるなにかが話しかけてきているような声である。わたしは石が話すことを疑っていない。たとえようもなく美しい夕暮れ時の高原沙漠のあるところで、わたしは石に話しかけられた。
「われわれはおまえさんの遠い遠い先祖なのだ。おまえさんは石から生まれたのだ」
石はわたしにそう語りかけた。そのことがあって以来、どんな石を見てもわたしは地球のことを考えるようになった。街でも、自然のなかでも。それが夢だったのかどうかは、ここでは問題ではない。自分が石の語る声を聞いたと確信できたことがわたしにとってはなににもまして重要なことなのだ。そして石の声を聞く人間がおそらくこの世界にはまだたくさんいるはずだとこころの深いところで思い続けている。
二一世紀の今日でも、石に対する関心は衰えをみせない。わたしたちはさまざまなところで力の石や石の力と対面するようになっている。それに石を身につけることは人間の歴史がはじまって以来の基本的な人の生き方に組み込まれてきた。そしてそれはこれからもかわることがないだろう。だが、石に対する人びとの感性や考え方は、圧倒的な貨幣経済のなかで大きく変化した。
わたしたちは石の価値をお金で判断する時代を生きている。石の声を聞く人たちの数は、おそろしく激減してしまった。もう一度石の声を聞く人たち、ストーン・ガールやストーン・ボーイたちの出現が、おそらく母なる地球の命運とも密接に関係するだろう。地球を生きているひとりの女性と認識することは、地球のネイティブ・ピープルが前の世界からの教えとして必死に今の世界の人たちに伝えようとしてきたあらかじめ公開された秘密の教えだった。そしてその教えを忘れないための教訓が石の語った話のなかにはたくさんある。わたしたちと石との、本書の言い方を用いれば「石のなかの人」との相互の尊敬関係を修復することが、母なる地球をすべての命のために長生きさせることには不可欠になるだろう。石の声を聞いた人だけが、岩の声を聞くし、山の声も聞くのだから。沈黙した日本列島の声を聞くための鍵が、あなたに向かって話しかけてくる石との出会いなのだ。
本書『パワー・オブ・ストーン 石の力と力の石』は、前の世紀が終わる直前に新人物往来社の「AZ」という今はなくなってしまった物質世界と精神世界の橋渡しを試みた雑誌に発表したものである。以後、若い世代の石に対する関心の高まりもあって、何度かさまざまに編集されて、他の雑誌の別冊や「パワー・ストーン」の特集などにかなりの部分が収録されたこともあった。今回、これを書籍化するにあたって、すべてのオリジナルの原稿に手を加えて再録し、さらにひとつの章を書き加えた。この本に収録された文章を書いていたとき、わたしは現在の静岡県の伊豆半島で暮らしていた。群発する地震で、観光客が遠のき、おそろしく静まりかえった嘘のような時の流れのなかで、この本の元となる原稿を書いていたことを思い出す。わたしには地震は地球の話す声のように聞こえたものだった。
この本はひとりの力で生まれたものではない。とりわけわたしの最初の石との出会いをセッティングしてくれた今はなきメディスンマンのローリング・サンダー、本書の後半部である「石の情報」を一緒に集めてくれたパートナーのかなださおり、雑誌「AZ」の編集長であり、本書の編集にその力をふるわれた野村敏晴氏にお礼を申しあげる。この本がきっかけとなって石と話をする人たちが多く出現して、石から聞かされた話をみなで分けあう日が到来することを心から祈っている。
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