ここに掲載するものはアリゾナ州のビッグマウンテン/ブラックメサに暮らし合衆国政府の強制移住政策に抵抗しているナバホ(ディネ)主権国のリーダーである Nabahe "Bahe" Keediniihii こと「バヒ」の手を経てWPPD2004JAPAN の実行委員のひとりで、日本でビッグマウンテンの抵抗運動を支援するWALK IN BEAUTY PROJECTのハルこと山口晴康に送られてきたもので、飜訳も同じWPPD2004JAPANの実行委員のひとりだった本出みさがおこなった。原文はブラックメサの先住民を支援する会(Black Mesa Indigenous Support)のサイトに3月28日付で掲載された「Traditional Hopi, Keeper of the Sacred Stone Tablets: "Sovereignty Dishonored and Global Instability Evolving"」である。かろうじて21世紀まで命脈を保ち続けたものの残り少なくなっている伝統派のホピの置かれた今の絶望的な状況や、ホピ主権国最後のグランドファーザーになるのかもしれないマーティン・ゲスリスウマ氏(Martin Gashweseoma)[ランドアンドライフ制作2004年版「ホピの予言」にインタヴューで登場する]が世界のひとびとにたいして、2006年になにを訴え続けているかが明解に読み取れると思う。その興味深い予言もふくめてホピに関心ある人たちにはとりわけ重要なメッセージでもあり、ホピに関心がない人にも重大なことが記されているし、ビックマウンテンの強制移住問題やその抵抗運動にたいする支援をとおしてネイティブ・アメリカンの人たちと関係を持った多くの日本列島に暮らす人たちにもぜひ目を通してもらいたいので、許可を得てここに掲載することにした。 (北山耕平)
「主権は否定され、世界の安定が脅かされている」
聖なる石板の守りびと、伝統派ホピの長老の言葉
翻訳:本出みさ
2006年3月25日、ホテビラ・プエブロ(独立ホピ国/アメリカ合衆国アリゾナ)。最後のホピの伝統派キクモングイ(指導者)の一人が、メディアの注目がないとしても、世界にメッセージを送りたいと語る。マーティン・ゲスリスウマは書類の沢山入ったカバンをかかえて石造りの隣人の家の戸をくぐり、スウェーデンからラジオ番組の取材で訪れていた2名の若い女性の隣に座った。
マーティンの年齢は83だが、その心は40歳だ。彼は眼を用心深さと興奮で輝かせながら「ホピの物語を正しく伝えなくてはならない」と言う。彼は何枚もの紙に象形文字風に記された太古のホピの移動の話や、何世代にも渡って蓄積されてきた教えについて語る。「マヤの記録や予言がホピと同じだというのは驚くべき事だ」と言う。マーティンはアメリカの教育を受けた事がないので英語がおぼつかないが、それでも拙い言葉で情報をなんとか伝えている。
彼は自分の「仕事」は生涯を通じてホピ族の幸福と生存に自らを捧げてきた事だという。ここでは、マーティンによる、伝統派ホピのブラックメサにおける石炭採掘の見解や、「ナバホーホピ土地問題」の影響、そして世界の情勢についての解釈を記したい。一部編集しているが、マーティンの言葉を忠実に使用している。合衆国政府による反インディアン政策や反環境政策について伝統派のディネやホピに、意見を尋ねれば、その返事には必ず彼らの古くからの自然の秩序に従った暮らしぶりについて説明をまず受けるだろう。なぜならば、彼らは未だに英文を読む事ができず、アメリカという国は彼らにとって異国であるからである。彼らは崇高なる生命の秩序が侵されていると感じている。この秩序はあまりにも重要であり、現代社会の全ての人が学ばねばならないものである。
マーティン・ゲスリスウマはつぎのように語った
「私は今までずっと東の方角に祈り、時には真夜中に起きてグレート・スピリットに祈ってきた。またあるときは、ホピの親族の皆が平和に暮らせるように、収穫や水、健康に恵まれ、ホピの道を歩み続けられるよう願ってこの村のまわりを歩いてたりもした。(ホピとは「平和の民」という意味である)
「時には、朝早く聖なる泉に行って冷たい水を体中に浴びたりもした。冬のまっただ中にする事もあった。そんなときは体のまわりの空気が白くなったものだよ。これは自分の心を大きくするための儀式だったのだ。」
「最近では、一部のホピは私が何か悪い事をしていると言いはじめた。一部の村人の間ではこの疑いがどんどん広がってしまった。そこで私は仕事をやめることにしたんだ。私は言った、『疑い深い人たちが祈りの仕事を引き継いでくれる時がきたのかもしれない。その祈りがどれほどホピのためになるか見ることにしよう』と。」
「私は以前は自分のトラックを運転してトウモロコシ畑やヒツジの囲いに通っていた。ところがある日、ホピ警察に止められて、免許がなければ運転できないと言われた。私は言った、『いつからホピがそんなことに同意したというんだ?』なぜなら私はホピ主権国の市民だからだ。警察官の返事はなかった。私は裁判所にいって、裁判官に同じ質問をした。裁判官の返事もなかった。あとで、裁判官は私の件はアリゾナ高速道路警察に委ねられたと言ってきた。今度はワシントンの首都にゆだねられるかもしれない。ある日突然逮捕されるかもしれない。私は運転をやめ、歩くか、誰かの車に乗せてもらうようになった。」
「以前はヒツジを200頭ほど飼っていた。しかし盗まれたり、レンジャーに没収されたりしたので、残りのヒツジは売り払ってしまった。ヒツジの囲いまで車でも行くことができなくなったからね。」
「今では多くのホピの仲間たちが私を信頼しなくなってしまった。私が古い生き方を信じているからだ。私がつづけてきた仕事をみんな嫌っているのだ。今私はホピの生き方を知りたい人にだけ話すことにした。人々が自然にそった生き方をできるようにしようとしている人にだけ、本来のホピの教えを伝えている。時には誰かが訪ねてくることを夢が知らせてくれ、実際に出会っている。私が分かち合っている教えは売り物ではない!これは世界の人々が、自分の家族を、民を守るために教えを理解し、祈り始めることができるように分かち合っている教えだ。もしかしたら私たちは一直線に破滅に向かう未来を止める事ができるかもしれない。だから今ここで私が話す事を売ったりしないでくれ。」
「ホピの歴史では、過去にも社会が乱れ、破滅的な結果になった時代のことが記録されている。私たちはこのように人間が罰せられた時代から学び、ホピの生き方が常に守られてきた。コロンブスの到来、スペイン人の侵略といった悲劇が繰り返されてきた。現代では世界の勢力がコロンブスの再来だ。警察官だ(編集注:アメリカが世界の警察官を自認してることに対しての事だと思われる)。だからこの石板にはたくさんのギザギザがある。警察官が味方の兵隊を食べてるんだよ。」
「世界は二つの大戦を経験した。第一次世界大戦は世界のいくつもの地域をまたがった戦争を起こした。第二次世界大戦は世界勢力を確立するためのものだった。そして第三次世界大戦が今はじまりつつある。第二次世界大戦当時のナチス政権と比べると、今度の戦争はより破壊的で、あらゆる場所で戦闘が起きる可能性がある。石板は世界大戦を象徴する三つの矢を持つ死刑執行人を表している。身動きがとれなくなってる人物は私たちを表している。私たちは今無力で、この石板では縛られ、血塗られている。死刑執行人もまた血塗られているのが分かるかな?」
「伝統的なホピのキクモングイは『我々は最終段階にきている』ということを伝えようとしてきた。その昔人々が道を踏み外したとき、そこには破滅的な道が一つしかなかった。しかし今日、世界は四つの破滅的な道を進んでいる。宗教戦争、強制的な社会福祉制度への依存、水や食べ物の汚染、そして偉大なる警察官の信奉者になること。警察官はコンピューターや様々な機械をもたらす。これらの機械は私たちを判断する裁判官になるのだ。そして私たちの想像をはるかに超えた戒厳令をつくり、今このように話しているだけで逮捕されるようなことになってしまう。今発達しつつある戦争がこのまま続くとこんなことになってしまうのだ。」
「このような予言は伝統派の長老たちの間では知られていた事だ。未来を予言できるのは私たちだけではない。動物たちにも分かるし、彼らは私たちに伝えようとしてくれている。石板のこの部分には、山のとなりにヘビが描かれている。ヘビは不吉な知らせを人間のように言葉で伝えている。君はビッグマウンテンでガラガラヘビが目撃されたという話をしてくれたが、それにはそういう意味があるわけだ。まだ暑くもないのにガラガラヘビが冬眠から覚めて出てきている!(通常ガラガラヘビは日中の気温が常に華氏70度にならないと出てこない。華氏56度ではでてくるはずがない。)」
「石板のこの部分には太陽と地球が描かれている。異常気象の事を伝えている。ある日は雪が降って寒くなり、翌日には暑くなったりする。気候はめまぐるしく両極を行き来する。山の上に現れたガラガラヘビが伝えようとしているのは『旅路では十分気をつけるのだ。一人で旅に出てはならない。そうでなけば祈る事だ。何か悪い事が起きようとしている...』とな。」
「ナバホが死の収容所に入れられていた頃(1862~1868)、ホピは当時禁じられていた特別な儀式を行ってナバホを地獄から救い出そうとした。今、ブラックメサのナバホと同じように全てのナバホが石炭採掘を阻止しなければならない。ナバホが敗北して石炭採掘をさせてしまえば、私たちホピは消滅しはじめる。今こそナバホがホピを地獄から救い出す時だ! まだその望みはあるが私は待ち続けている。ナバホは、ホピがこれからも薬草、水、野生生物、木をブラックメサから得られるように努力してくれなければならない。石炭採掘がすべてを奪ってしまえば、我々は水や薬草を得る場所がなくなってしまう。」
「私の未来に希望すること? 何もないよ。我々はもう終わりにきている。我々全員が、母なる地球とどのような関係を作りたいかを決める時がきている。もう決めねばならないんだ。水も汚染されたし空気も汚染されている。作物は今までのように雨に恵まれず、雪も降らない。作物はただ枯れてしまうだけだ。未来だって? ホピにはもう未来はない。(ホピ=平和の民)。我々はもう合衆国政府の支配下にあるのだ。」
「我々の古い信仰を忘れてはいけない。どのようなかたちでも良いから祈り続ける事だ。私が伝えたいことはこれだけだ。もしかしたらこの情報を皆さんの国の人々と分かち合う事ができるかもしれない。有難う。」
私自身はビッグマウンテンのディネ(ナバホ)に属してる。ホピの長老たちはいつも私の師であり、インスピレーションであった。長老たちが残り少なくなった今もそれは変わらない。この認識をもっているから、私は「ナバホーホピ土地問題」など耳にしたことはない。私が耳にした事があるのは、ピーボディ石炭会社と、合衆国が認めた部族議会(が作り上げた土地問題)だけだ。
加えて、近年伝統的な叡智に対する嫌悪や攻撃が蔓延している。居留地では長老の虐待という言葉さえ聞かれるようになった。実際に目撃した事もある。伝統派の長老に対する敬意の欠如と虐待である。長老たちはスピリチュアルな催しの場において叡智をたたえた指導者として扱われてはいない。今、現代のインディアンは「インディアンであること」という概念を利用しているだけだ。インディアンの血を受け継いでいる、という表現を使い、その「インディアン性」のなかには合衆国の軍隊に入ること、つまり「アメリカの」インディアンであること、そしてロマンチックなイメージで表現されるインディアンといったものしかないのだ。このように、土地に根ざした伝統と、現代社会における「ネオ伝統」の間のギャップが広がっているのが現状だ。
皆様が耳を貸してくださったこと、支援してくださっていることに感謝します。
オール・アワー・リレーション
バヒ
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