ホピ・ファーミング 地球に生きる人たちの農耕技術考 1
日本で唯一の雑穀文化専門の雑誌である『つぶつぶ』(大谷ゆみこ責任編集・季刊)にぼくは毎号連載させてもらっている。そこに昨年の後半に2回にわたって書いたホピの人たちの農耕についての文章を、このブログにすこしずつ不定期に(ほかに書くことが見つからなかったり、生き抜くための仕事が立て込んでいたりするときに)掲載していこうと考えた。掲載にあたっては、若干手を加えてアップデートしてある。
ホピはアメリカ南西部の過酷で美しい高原沙漠に暮らし続けてきた人たちであり、アメリカ・インディアンのなかで最も神秘的とされ、その精神力の強さから全インディアンの部族や国人から一目置かれている人たちである。「ホピ」とは「平和な人」を意味し、彼らはけっして武器を取って争わないことで知られてきた。沙漠という強烈な太陽と極端に水の少ない大地に、千数百年前から自らの意志で定住して、トウモロコシを中心にした農耕生活を送り続けている。背が小さく、小柄で、髪も目も黒く、われわれと同じモンゴロイドであり、「日本人」などとも背格好が良く似ている人たちである。
ものの記録によるとアメリカ合衆国のなかでもっとも長く人が住み続けている村はホピの国(ホピ・インディアン・リザベーション)のなかにある。彼らの暮らす土地はどこからも遠く隔絶していて、それがために長いこと西欧文明の流入を防いできたとも言える。もちろん現代では事情は様変わりしていて、日本人同様に人びとの生活スタイルは西洋スタイルになってはいるが、いずれにしてもアメリカのなかで最も隔絶した——「世界のどこからも遠いところ」と表現する人もいれば、「どこだかわからないところの真ん中」という人もいる——ところで暮らしていることはまちがいない。しかし彼らは自分たちの暮らす沙漠を「地球の中心」「宇宙の中心」と信じて、そのおそろしくかつ美しい大地で「今の世界がはじまった時に偉大なる精霊から教わった質素でスピリチュアルなな生き方」を実践してきた。ホピの国は地球のバランスを保つための重要な場所なのであり、そこで起こっていることは世界で起こっていることの縮図なのだと彼らは信じている。
その農地は沙漠である。沙漠というのは、海がそのまま干上がったような景観をしている。極端に水分が少ないから、晴れている時には永遠までもが見えるといわれるぐらいに遠くまでが見える。木々や草などは沙漠に対応したものをのぞいてほとんど見あたらない。山は大地がむき出しのままであり、ときに雨が降ると枯れていた大地に一気に水が流れて表土を押し流すこともある。
ホピの人たちは被害を最小にするためにそうやって押し流される大地から少しはずれた縁や切り立った崖の下などのところにトウモロコシの畑を作ってきた。彼らはトウモロコシが自ら水を探すことをよく知っているのだ。トウモロコシの身になって彼らが根で湿り気を探しやすい場所を畑に選ぶ知恵を、彼らはいまだに失っていないのである。(つづく)
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