インディアン・サマー
昨夜来の雨が上がったかと思ったら、いきなりインディアン・サマーが訪れた。空は見事に晴れ渡り、山脈がはっきりと見える。ぼくがいつも見ている山は相州大山と丹沢山塊で、これらは関東平野の南のへりにそびえている山と山の連なりで、その背後には富士山がひかえて、ぼくが子供の頃から常に見続けてきて意識の底に焼きついている御山である。曇っていたり雨が降っていたりするときにはまったく見えないが、晴れるとすぐ近くに山がそびえているのは精神的にすごくいい(昔富士吉田の街に暮らしていたときにそのことは大いに実感させていただいた。すぐ近くの富士山ですらまったく見えなくなる日があるのだ)。車で走っていても目の隅で慣れ親しんだ山の形を探していたりする。大山は湘南海岸からもランドマークとしてよく見えるきれいな山で、雨降山ともいわれ、かつては修験の人たちの修行の山だった。天気がよいと紫がかった岩肌までよく見える。
ところでインディアン・サマーというのは11月11日から11月20日までの間に起こる現象のことなのですと、アメリカに暮らしていたときに教わったことがある。たしか「オールド・ファーマーズ・アルマナック」という暦にもそんな記述があった。秋になって時々思い切り天気が崩れたり、初霜がおりたりして冷え込んだ日のすぐ後に、その寒さがなんだったのかと思わせるぐらいの暖かい陽気がかえってくることをインディアン・サマーといって、日本語では「小春日和」なんていう。英国では「古女房の夏」と呼ぶらしい。
11月11日は、西洋の(正確にはドイツの)暦では聖マーチンの日(St. Martin's Day)にあたっていて、そしてこの11月11日の11時11分ちょうどに、「11」の魔力にしたがって、聖マーチン(セイント・マーチン)を祝福するのだとか。比較的新しい西洋の格言に「サンタたちが冬を運んでくるのなら、聖マーチンはインディアン・サマーを連れてくる」というのがある。クリスマスのサンタさんが、「セイント(聖人)」のことだって知ってました? で、今日はまさにセイント・マーチンズ・デイの翌日の12日で、昨日は気が滅入るぐらいの寒さだったから、今日のこの陽気こそが、インディアン・サマーっていうものなわけ。
この「インディアン・サマー」の「インディアン」が、いったいなんなのかについてずっと興味を持ち続けて、あるときそれがネイティブ・アメリカンの死生観と関係があるらしいことがわかってきた。多くのアメリカ先住民の信念体系のなかに、人は死ぬと、死者の魂はるか南にある「特別な土地」に行き、そこに永遠にとどまるとする考え方がある。南にある特別な土地は「ハッピー・ハンティング・グラウンド(幸福な狩り場)」などと呼ぶ人たちもいる。この季節に暖かい空気を運んでくるのは南からの風なわけ。死者の魂が幸せに暮らしている土地から送ってくる風。
ニューヨークの北東、ボストンの近くにロード・アイランドがあり、そのナラガンセット湾にコナニカット島という島があって、この地方のネイティブのナラガンセットの人たちの死者を祀る場所がある。その島には彼らの生と死を司る神であるコータントウィットの住む家があるとされていて、ナラガンセットの人たちは、春のような陽気をもたらす風は、その彼らにとっては南西の神がそこから送り届けてくると信じていたといわれている。
おそらくそうしたネイティブの人たちの言い伝えが、非常に早い時期に新大陸の移民の人たちの間に広まって、聖マーチンの日などといっしょになって、インディアン・サマーという言葉も定着していったのだろう。後10日もすると、本格的な冬となり、多くの人たちが南カリフォルニアの天気を夢想する季節となる。さて、そろそろ明日の仙台行きの準備でもしよう。明日もインディアン・サマーになるといいな。
「To All My Relations」カテゴリの記事
- わたしにつながるすべてのみなさまへ(2010.04.03)
- 一月の二回目の満月が訪れるまでの間のtweets収録(2010.02.08)
- 冬至、クリスマス、新年を間にはさんで月が満ちて欠けて消えるまでのtweetsを公開(2010.01.14)
- 『地球のレッスン』が本日発売されました(2009.12.18)
- ほぼこの1ヵ月の間にぼくがTwitterで公開してきたものなど(2009.12.14)
The comments to this entry are closed.
Comments
私の住んでいるニューメキシコ州サンタフェでは、昨日インディアンサマーが終わってしまい、今日は砂嵐の到来でした。標高2000mともなると、カレンダーがずれてしまうんですね。
Posted by: 里利 | Saturday, November 12, 2005 04:29 PM
はい、明日も温かい風が吹いて欲しいです。
東京はとても、良い天気でした。これがまさにインディアンサマーなんですね☆
私の周りには小春日和をいつ使うのかわからない人が、結構いましたよ。アメリカは、インディアンサマーよく使われる言葉なのかな〜。
とにかくキレイな空でした。おやすみなさい。
Posted by: 美紀子 | Sunday, November 13, 2005 12:14 AM