これからスミソニアン博物館にラコタのウインター・カウントの展示を見に行きませんか
「ウインター・カウント」とは主に平原インディアン、とりわけラコタの人たちの「歴史」を意味する言葉である。彼らが時の流れを計るやり方には、ムーン・カウントとウインター・カウントがある。ムーン・カウントとは月と特定の恒星の位置の関係から導き出された公転周期である28日を基準に月日を計るやり方で、これによれば一年は13の月からなる。28日ごとにムーン・カウンティング・スティックという特別な棒に刻み目を入れていき、13の刻み目が入ると一年が過ぎたことになる。ウインター・カウントは、ラコタ語で「ワニエトゥ・ウォワピ」といい、毎年冬の季節に、その一年に起きた部族にとって忘れ難き出来事を簡単な絵文字にしてなめした皮のうえに描き残したもので、「ワニエトゥ」は「最初の雪から翌年の最初の雪まで」、「ウォワピ」は「平らなものに書かれたり描かれたりしたもの」のことで、それは文字通り「冬を数える」ものであって、ムーン・カウントが月ごとのカレンダーだとすれば、ウインター・カウントは自分たちの歴史であり年表だと言える。そのようにして描きとめられた絵文字はストーリーテリングにおいて遠い記憶を鮮やかに呼び起こすための引き金となるものであり、毎年冬の間だにその意味するところが新しい世代へと口から耳へと語り継がれる。
アメリカのスミソニアン国立自然歴史博物館が現在、このラコタのさまざまな一族に残されていたウインター・カウントを整理して1775年から1902年にいったいなにが起きたのかをラコタの人たちの側から再確認できる特別展示をインターネットのうえで行っている。ここに写真で紹介しているのはバッファローの皮のうえに描かれているウインター・カウントで、現在は同博物館が所蔵しているが、オリジナルは1860年代にモンタナ領に暮らしていたヤンクトナイ・バンドのローン・ドッグという人物が持っていたもので1800年から1870年の70年間に彼の一族に起きたことと彼の一族が目撃した得意な自然現象が年ごとに記録されているもの。中心から外側に向かって円を描かれるように絵文字がならんでいるのがわかるだろう。その絵文字のひとつひとつが一年をあらわしている。今回の展示ではそれらの絵のひとつひとつが意味することも解説されている。
絵の並びからわかるのは、彼らの時の流れの認識のしかたが、わたしたちの年表ように直線を描いてはいないことである。彼らにとっては時も又このようにして円を描くように、環を描くように経巡っているのである(少なくともそのように受けとめられているのである)。ウインター・カウントに書かれてあることを、今回は逐一翻訳して書きとめることはしない。いつか機会を見てそのひとつでも紹介できればよいと思っているのだが。
今回のスミソニアン博物館における異なるバンドのいくつものウインター・カウントの展示は、今までこのような形で見せられたことがないくらい良くできているし、デジタルの特性も取り入れて、実にわかりやすい構成になっていて、ラコタといわれる人たちがどのような人たちなのかもしっかりと学べるようになっている。ブロードバンドで接続している人はFlashでつくられたさながら映画でも見るように音楽や映像で多角的に一族の歴史と歴史観を楽しみつつ深いところまではいっていけると思う。英語の勉強にもなります。できれば夜陽が落ちてから見てほしいなあ。それでは——
LAKOTA WINTER COUNTS AN ONLINE EXHIBIT
Smithsonian National Museum of Natural History
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Comments
<できれば>ではなくて、絶対にお勧めですね、夜に見るのが。 秋の夜長のお勉強にぴったりですが、各年の説明の字が小さいので気長に少しずつ進むのがよいかも。
Posted by: 胡蝶 | Sunday, October 09, 2005 07:24 PM
導入部分のストーリーテリングの部分が「雰囲気」をよくかもしだしていますよね。夜、焚き火の火を見つつ、満月のあかりのなか、一族の話をするというセッティングが。ともかく、このインターネットの展示は、アメリカ・インディアンに関するもののなかでは歴史的転換点にあるものではないでしょうか。文明の歴史としてのアメリカ史ではなく、それを逆さまのものとして眺めてきた先住民の歴史が、インターネットのうえで再生させられているわけですし。日本でアイヌの人たちをテーマにしてこのようなものがつくられる日がいつか来るのだろうか?
Posted by: Kitayama "Smiling Cloud" Kohei | Sunday, October 09, 2005 09:27 PM