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Monday, August 22, 2005

北の彼方、約束の地、はるか遠く

カリフォルニア下院は19日、アリゾナで記録的な移民の死者が出ていることから、メキシコとの国境地帯で非常事態を宣言するよう要求した」というニュースを愛読する「ラテンアメリカから見ると」というサイトで読みながら、20年ほども昔、LAで見た「El Norte(エル・ノルテ)」という長編映画を思い出していた。

グァテマラのインディオの兄と妹が夢のような国アメリカを目指して北へ北へとさすらっていく悲しくて愛おしい旅の物語だ。「エル・ノルテ」とは「北」という意味であるらしい。中南米の人たちにとって「北」と言えば「アメリカ」のことである。

ぼくがアメリカに暮らしていた頃は「ウェットバック」という言葉が南から国境を密かに越えてくる人たちに与えられていた。メキシコとテキサスの国境のリオグランデ川を泳いでわたるので、背中がびしょぬれになっているというのが語源だった。もう何十年も前から、アメリカとメキシコの国境は、貧しさと豊かさのボーダーとされていた。非合法にアメリカに入国して一年も働けば国に帰って10年近く遊んで暮らせるぐらい稼げると囁かれていたのだ。5年も働けば家が建って一生遊んで暮らせると。

中南米の人たちにとって「北」はそのまま物質的な豊かさを意味する。一方で北の人たちにとっては「南」は「法の束縛を離れる」ことを意味していた。ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドは国境を越えて南米ボリビアを目指した。国境の南には金で買える自由と夢があるとアメリカ人は信じてきた。実際、国境をはさんでの生活の実情は天と地がひっくり返るほども違っている。アメリカにおける貧しさなど国境の南では豊かさにはいるほどなのだ。映画の主人公の夢見がちの少年エンリケ(弟)と現実主義者のローザ(姉)はグァテマラのジャングルからトラックやバスを乗り継いでメキシコを経て、メキシコとカリフォルニアの国境を越えようとする。

国境のメキシコ側には「コヨーテ」と呼ばれる密入国請負人が待ちかまえているのだ。中国福建省にいる「蛇頭」とよく似ている。貧しい人たちからお金を取ってあの手この手で法の網をくぐって密入国を斡旋する人たちだ。映画「エル・ノルテ」は、おそらくはじめて先住民の側からアメリカ(北)の豊かさを垣間見ようとした映画だった。インディオの人たちがアメリカになぜあこがれるのか、それほどまでの危険をおかして北を目指す理由はなにかを、優しいまなざしで、しっかりと追求した映画だ。翌年には脚本がアカデミー賞にもノミネートされている。受賞することはなかったけれど。日本では1988年に『エル・ノルテ/約束の地』として公開されているとグーグルが教えてくれた。きっとテレビでも放映されたのだろう。

ラテンアメリカから見ると 記事No. 1573(非常事態宣言を知事に要求、カリフォルニア議会)」には19日のUSA Today紙からとして「国境を越えようとする不法移民の死者が前例のないほど多い」と報じられ、さらに、

 あと6週間で終わる今会計年度(アメリカの会計年度は10月から9月)、アリゾナのメキシコ国境をほとんどカバーするユマとツーソンで、207人の死者を記録、これは昨年全体の172人を超えている。これまでの数字を見ると、2003年151人、2002年145人、2001年102人、2000年100、1999年44人であった。
 また、同紙によると、死者の約30%は身元がわからないという。
 なお、逮捕者数は、今年が515,644人、昨年が589,831人だった。
という数字があげられていた。国境を無事に越えて夜のロサンジェルスの宝石箱をひっくり返したような——嘘のような——夜景を目にする南からのイリーガル・エイリアン(不法滞在者)たちは、おそらく逮捕者数の数倍に上るのではなかろうか。その人たちの労働力なしにはアメリカ、とりわけカリフォルニアはなり立たないのが現実なのである。金のなる樹に人が群がるのはあたりまえということかも知れないけれど、北を目指す人たちが近年とてつもなく急増してきていることはまちがいない。これは南北間の富の格差がいっそう広まっていることを意味する。

世界的に豊かさそのものの見直しが求められているのだが、豊かな国の人たちは自分の暮らしは今のまま続くことを常に前提としているわけで、自分たちの暮らしが南の貧しさのうえに成り立っていると考えることもなく、世界のすべてが同じ豊かさを享受できるとおろかにも信じていたりする。というわけでこのところアメリカでは移民してくる人たちにたいする敵意がどんどん広まっているのだそうだ。いやはや、アメリカはますます暮らしにくい国になっていくようだね。移民がつくった国だというのに。

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Comments

文明の繁栄の頂点ではかならず外国からの労働者が溢れ、それに対するnationalismが起こり、様々な差別が見られるようになる・・・というのはローマ時代もそうだったようですね。ネオナチなどが盛んになったのもトルコ系移民に対する差別が背景にあったようで。
地域差はあると思いますが、私の感じる限りでは(アメリカが)住みにくくなっているとは思いませんが・・・それよりも現大統領の政策に彼の信仰する宗教の色がどんどん色濃く反映されてきているという意味では他宗教、多文化の移入に対して無言の圧力がかけられているという感はあります。

Posted by: 螢月 | Monday, August 22, 2005 at 10:01 PM

ごめんなさい。小生が住みにくくなっていると書いたのは、アメリカの中の第三世界の人たちのことです。リザベーションで暮らすネイティブたちとか、やつと北にたどりついて潜って(不法滞在者となり)息をひそめている中南米の若いインディオやヒスパニックの人たち。とくに近年のリザベーションにおける子供たちの自殺の多さは、時代がきつくなっていることを端的にあらわしているのかもしれません。ネイティブ・アメリカンの若者たちのネオナチへのあこがれなど、言葉を失ってしまいます。彼らは炭坑に連れてはいられる籠の中の鳥みたいなもので、危うい時代の到来を告げているのかもしれない。時代がバランスをとる方に動いてくれることを祈ります。ようやく最近になってその動きの萌芽が見られると伝えてくれた友人もいましたが。

Posted by: Kitayama "Smilimg Cloud" Kohei | Monday, August 22, 2005 at 11:14 PM

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