H・D・ソローの12冊のインディアン・ノート
きたる6月3日から5日まで、コロラド州のアスペンという町で『ソローとアメリカン・マインドの進化——ザ・ネクスト・ステップ(Thoreau and the Evolution of the American Mind: The Next Step.)』というウィークエンド・セミナーが開催される。このセミナーにおいて、ソロー研究の第一人者とされるブラッドレー・P・ディーン博士によって、おそらくはじめて「ヘンリー・ディビッド・ソローの書き残していた《12冊のインディアン・ノート》」が紹介されるらしい。ソローに影響を与えたネイティブ・アメリカンの影響についてスポットがあてられることは、不思議なことにこれまでなかった。ソロー好きがたくさんいる日本でも、そのことに言及したものはほとんどないと思われる。
ソロー本人は1857年の日誌のなかで「いったいぜんたいなぜ、ローマ人や古代ギリシャ人たちのことで大騒ぎをする人たちが、ことインディアンになるとまったく知らぬ顔を決め込むのだろうか?」と書いていた。アメリカ人のみならず、いわゆる「自然派」「環境派」とされる人たちの偶像であり、その「市民的不服従の思想」でアメリカの深い部分の意識に影響を与えつづけているH・D・ソローの思想形成におけるミッシング・リンクが、21世紀になってついにおもてに現れるのだろうか? ディーン博士によると「原稿は4000ページに及んでおり、あきらかに本にするつもりでいたらしいが、生きているあいだには間に合わなかったようだ」ということである。少年時代にすでにアメリカ・インディアンに興味を持っていたこと、そしてそのことがいかに彼の後の哲学に影響に与えたかが書きつづられているという。
「ラルフ・ウォルドー・エマーソンによれば」とディーン博士はつづけた。「ソローの個人的なヒーローは3人いたということです。詩人のウォルト・ホイットマン(草の葉!)、奴隷廃止の急先鋒だったジョン・ブラウン、そしてペノブスコット族のチーフ・ジョー・ポリスです。ジョー・ポリスは1857年の夏にソローがメーン州の森を旅したときのガイドを務めた人物です。彼は植物学者が見せるすべての植物の薬としての薬効を話すことが出来たといいます。またメーンのインディアン島のこざっぱりとした家で生活していながら、豊かな原生林のなかで一族の長としても勤めを立派に果たしている彼が、白人とネイティブ・アメリカンのふたつの文化を自分のなかで見事に合成していることに、ソローはとても魅了されたようです。ソローはネイティブ・ピープルの強さとものを見抜く目を導入することで、生まれつつあったアメリカの文化をより良いものにしようとしました。ソローが彼の生きた時代のなかでも一流の民族学者でもあったことにみなさんは驚かれることでしょう。他のなによりもアルゴンキン・インディアンの研究に、彼は科学的関心を集中させていました」
このセミナーでは、ソローの足跡を辿る映画も公開されることになっているが、そこにも登場するペノブスコット族のエルダーであるエイミー・ネブチューンさんは「ソローは、アメリカ・インディアンのように大地を敬い、その与えてくれるものを経験していました」と語った。
【おすすめのH・D・ソローの本】
■森の生活—ウォールデン 宝島社文庫版
ヘンリー・D. ソロー (著), Henry David Thoreau (原著), 真崎 義博 (翻訳)
価格: ¥1,050 (税込)
●文庫: 570 p ; サイズ(cm): 15 x 11
●出版社: 宝島社 ; ISBN: 4796629629 ; 新装版 版 (2002/10)
*いろいろな人が翻訳しているけれど、小生はこの真崎さんの翻訳した宝島社版に思い入れがある。「宝島」という雑誌の編集者としてこの翻訳を世に送り出せたことは幸せだったと思う。その後の雑誌の命運はともかく。
H.D.ソロー (著), 飯田 実(翻訳)
価格: ¥693 (税込)
●文庫: 384 p ; サイズ(cm): 15
●出版社: 岩波書店 ; ISBN: 4003230736 ; (1997/11)
*ソローの思想の核心に触れたければ避けては通れない一冊。「人間を不正に投獄する政府のもとでは、正しい人間が住むのにふさわしい場所もまた牢獄である」という言葉がつきささってくる。彼がただの田園散策のナチュラリストだったと考えているのならそれは大きな間違いだぞ。
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