続・女性と月(ムーン)の関係についての補足
Power of the Moon, Power of the Women
ローリング・サンダーをメディスンの師のひとりとするボビー・レイク・トムことメディスン・グリズリー・ベアという現役のメディスンマンがいる。彼が女性のヒーラーについて彼の奥さんと話した記録が手元にあるので、それを紹介していこうと思っている。彼らはカリフォルニアの北西部から太平洋沿岸にかけて暮らしているユーロック、チルラ、トロワといった部族コミュニティのなかで生活する人たちだ。ローリング・サンダーがメディスンマンをしていた西ショショーニ国とはシエラネバダ山脈を境にして隣りあうカリフォルニア・インディアンの共同体だが、景観は高原沙漠から一転して、巨木のレッドウッドが太古から生い茂り、そのなかに干潟や、湖があり、手つかずの川が流れる豊かな大地である。
この地域のネイティブ・ピープルについて最初に学問的に研究したのは文化人類学者の巨星であるアルフレッド・クローバー(A.L. Kroeber)だった。カリフォルニア・インディアンについて書かれた本のなかではずば抜けている『イシ』という本の著者であるシオドーラ・クローバーは彼の奥さんであり、『ゲド戦記』シリーズを著したE・ル=グウィンはふたりの娘である。アルフレッド・クローバー博士は最後の野生のインディアンとなったイシのおそらく最初で最後の白人の友人だった人物で、彼自身は最後までイシの本だけは書くことを拒みつづけた。博士が野心満々にユーロック・インディアンなどの居住地域を調査し、その地域に暮らすいくつもの少数民族の神話や伝統的な知識や治療法や儀式や祭りの式次第を細かく記録しはじめた19世紀から20世紀の初めごろには記録によると、この地域にはおよそ10人ほどの伝統的なメディスンに基づいてひとびとを治療する女性の医者がいたという。博士がインタビューを残している「インディアン・ドクター」のひとりにファニー・フラウンダーという女性シャーマンがいた。そして百年が夢のごとくさった21世紀の今現在では、ユーロックーカルクーフパの3つのネイティブの共同体には女性のシャーマンは一人しかいない。テラ・スターホークは、前述のボビー・レイク・トムの夫人であり、百年ほど前にクローバー博士がインタビューをしているファニー・フラウンダーは彼女の大叔母にあたっていた。
テラ・スターホークによると昔の彼女たちの部族の女性はムーンタイムになると10日間の儀式を行うことが常だったという。彼女の属する部族だけでなく、北西カリフォルニアにいるいくつもの小さな部族でも、少しずつやり方は異なるものの、ムーンタイムのあいだには10日間にわたって続く儀式が執り行われたりする。共通しているのはどれもが「水のスピリット」と「月のスピリット」のふたつのスピリットに関係しているところである。彼女たちはムーンタイム・セレモニーのあいだそのふたつのスピリットに力と、加護と、長生と、豊かさを求めるのだ。あきらかにそれは「女性のためのヴィジョン・クエスト」であった。
ユーロックの人たちの場合を例にとってみよう。ユーロックには生活の基盤となる地勢に応じてライフスタイルも異なる。海岸で暮らすユーロックと、川の流域で暮らすユーロックでは女性のムーンタイムの儀式もかなり異なるようだ。川のユーロックの人たちはあまり複雑な儀式はおこなわない。ムーンタイムは個人的なこととされている。いずれにせよ昔はムーンタイムの娘はそのための特別なムーンハット(月小屋)で暮らすのがつねだった。
毎日彼女はそこからあらかじめきめられた道を歩いて海や川のそばの特別な場所までおもむいて沐浴する。上流階級の娘のためには山の奥に沐浴のための聖なる池がある。いずれにせよきめられた道を歩いて沐浴の場所に行かなくてはならない。彼女は行きも帰りも同じ道を歩きながらその日に自分が小屋で使うだけの薪を集めつつ祈りをあげつづける。そして沐浴を終えたら薪を持って小屋に戻る。
1日目は、山道を一度だけ歩き、沐浴も一度だけ。2日目には、山道を二度往き来し、沐浴を二度する。そうやって日ごとに往復する回数と沐浴する回数が増えていく。10日目には10回山道を往復して10回沐浴することになる。そして最後の10回目の沐浴は夜に行われる。彼女は池の中に立って、水の力と、空の湖である満月の力のふたつの力の中心に自分の身をゆだねる。そしてそこでスカイ・ウーマン(空の女)にむかって祈り、力と加護と長生と特別な贈り物や富を求める。祈りが終わると彼女はそのまま池のなかに潜ってそこにあるはずの幸運の石を捜し求める。石が見つかったらそれを持って小屋ではなくて母屋に戻り、おばあさんたちやメディスンウーマンのもとに行って自分が10日間のあいだに観たヴィジョンや夢やスピリットとの接触について話をする。
10日間のあいだ彼女はムーンハットのなかでひとりぼっちで過ごさなくてはならないとされている。水は極力ひかえ、セックスは厳禁、食べものもきめられていて、他の人たちと会うことも差し控えることを求められる。そのときに辿るための特別な道を歩いて小屋から沐浴の場に行くことだけが唯一許されていることなのである。この間口に入れてよいのはドングリのスープと鮭の乾し肉、ミントと薬草のお茶だけ。彼女はそうした環境に自分を置いて、自分の観るヴィジヨンや夢やそのトレーニングの意味に意識を集中させることで必死にほんとうの自分の魂を探し求めつづける。
とまあここに書いたのは20世紀初頭までの話である。「今そのようなことをしている若い娘はほとんどいないわね」とテラ・スターホークは語っている。「今時の娘たちには部族の人間としてそのときにやらなくてはいけないときめられているようなことはなにもないから、彼女たちはその代わりに『ムーンタイム・セレモニー』と呼んでいるものをおこなっているわ」
テラ・スターホークによるとムーンタイム・セレモニーをすることは部族を超えて広まっているという。「なぜならすべての女性にとって、ムーンタイムは健康の基盤となるものであり、そうやって得た健康を維持するための自然のサイクルでもあるのだから。女性は生理になると自然によって清められつづけるの。それは特別な時間であり、その間彼女は母なる地球のサイクルと、そして宇宙に偏在するコスミックな力と調和を取るようにしていなくてはね。彼女たちはそのためにもあたまとこころとからだをひとりになるところに置いておかなくてはならないわけ」
彼女はまたこうもいう。「それは女性にとって聖なる時。自分の全体性を再生産するために、だから自分自身をかき消すの。沈思黙考と瞑想と祈りと個人的な償いだけに費やして過ごす。女性はムーンタイムをスピリチュアルなものととらえて、月への祈りと共に、うやうやしくそのときを迎えなくてはならないの」(つづくかも)
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