御神木を切る儀式がテレビで中継されることになった
8年後の伊勢神宮式年遷宮に向けて、造営に使う御神木を切る儀式「御杣始祭(みそまはじめさい)」が6月3日に長野県木曽郡上松町の木曾谷国有林でおこなわれる。御神木は樹齢300年ものヒノキだとか。樹齢300年の御神木が、木曽特有の「三紐伐り」(みつひもぎり)という伐採方法で、三方から小さな斧で1時間もかけて切られる。当然だけれど、チェーンソーなんか絶対に使われない。今どき森林を伐採する際に斧を使うことはまずなくて、これは20年に一度だけこの地で儀式として残されている特別なやり方らしい。
御神木の木は切るものではなく、切り倒した木が傷まないよう細心の注意が払われるために、杣人(そまふ=きこり)の間では「寝かせる」と表現されるという。静けさの中にコーン、コーンという斧の音が響き渡り、やがて300年もののヒノキが大地に寝かされていくのだとか。これまでこの御杣始祭は関係者にしか公開されてこなかったが、愛知県神社庁のお知らせページによると、しかし、天下のNHKが3日の昼にその模様を全国中継することがきまったらしい。じっくり時間を取って見せてくれるのならいいけれどさ、きっと例によって昼番組のアナウンサーが耳触りにしゃべりつづけるのだろう。それでもこれは見る価値はありそうではありますが。
◆NHKBSハイビジョン 6月3日 午後12:15〜12:50
◆NHK総合テレビ 6月3日 午後12:20〜12:43
20年に一度、300歳の木をひとり切っていく計算だと、300年で15人もの「根を持つ人」が寝かされてきたことになるわけだな。木曽山中の現場は、いまは国有林になっているそうだが、戦前は皇室の御料林で、その前の江戸の世には尾張藩の御用林だったところで、伊勢神宮の遷宮や大きな寺社の造営のためかれこれ400年近くにわたり保護されてきた森だとか。
400年だと300歳の聖老人たちが20人か。神宮式年遷宮には1300年の歴史があるらしいから、そうなると聖老人が60人以上という計算になる。その間にどのくらいの根を持つ人たちが300歳まで育つことができたのだろうか? 400歳の聖老人が寝かされることも珍しくないという。(このままではそのためのヒノキがなくなるかもしれないと気がついたのがつい昨日の大正時代の終わりのことで、そのころから伊勢神宮では宮域林で200年後の御用材の確保を目標にヒノキを育成しているとホームページには書いてある)
パワー・ハングリーな倭人がここに国を創る以前には、日本列島にはとてつもない巨木がたくさんはえているうっそうとした森が広がっていたのだが、中世が終わるころまでにはあらかた巨木たちは神社仏閣などの巨大建築物に姿を変えてしまっていたようだし、江戸が終わるころには北海道といくつかの奥地をのぞけば盆栽のような国土ができあがっていた。なにしろごたいそうな箱物建造物が土建国家においてはいつだって力の象徴だったからなぁ。奈良の大仏さまのお住まいになっている東大寺の大仏殿なんて、見る人をひれ伏させるからね。で、この精神構造は今もって続いている。
そうそうご神木で思い出したが、北米大陸の平原の民であるシャイアンの人たちが神聖なサンダンスをする際に切り出すご神木はコットンウッドの樹で、儀式に先だってそのご神木を探すグループが組織され、目的にかなう樹が見つかると、まずリーダーがその樹に「なぜあなたを選んだのか」を、そして「そのことをあなたは自慢に思っていい」と話しかける。つぎに前年に最も勇敢な行為をした若者がひとり選び出されてその樹に登る栄誉が与えられる。それから選び出された4人の乙女が斧を入れ、倒れてきた木の幹を一団の男たちがみんなでそのまま受けとめて、絶対に地面につけないようにしたまま儀式の場に運ばれていき、聖なるサンダンスの輪の中心に建てられることになっている。ご神木は一度も地面に寝かされることはないのだ。それはひたすらに大地に立ち続ける。
ひるがえって伊勢神宮の「御杣始祭」では、女性が、若者がそこに参加する機会はあるのだろうか? ううむ、はたしてなにがブラウン管のうえに写し出されるのか、興味あるところだな。
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Comments
偶然ですが昨日、三日間の初めての伊勢参りから帰ってきたばかりです。20年に1回の式年遷宮が平成25年にあるので、その準備が8年前の今年から始まったとか。伊勢市の神宮近辺の道路傍には数多くの「祝○○祭」と書かれたのぼりが立てられていました。
確かに御正殿近辺の清清しさは格別のものでしたが20年ごとにすべてを新しくしてしまう今の遷宮の方式は、巨木を育てなければいけない今の時代には再考を要するのではないかと思いました。
Posted by: 聡哲 | Wednesday, June 01, 2005 12:28 PM