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Friday, May 20, 2005

ネイティブであることと血の関係

wolfジャンピング・マウス』というシャイアンの人たちが長く門外不出としてきた聖なる物語を、自分を大いなるものに明け渡すことをその哲学の中核においたサンダンス・ストーリーを、日本列島で生まれた人たちのために日本語として理解されやすい形にしていく作業と、その日本語化された物語に解説をつける作業とを昨年の夏至以来長いことやってきた。そして2日前にそれが本となって手元に届けられた。この仕事を進めながら、ストーリーそのものとは関係のない点で、わたしは実にさまざまなことを考えさせられた。それはおそらく今のアメリカ・インディアンの現実と密接に関連しているものでもあるのだろう。今回はそれについて書く。

起源がわからないくらい昔からシャイアン一族のなかだけで伝承されてきた物語を、彼は1960年代の後半にひとりの文化人類学者にささやいた。当然その文化人類学者はその話を自分の「手柄」として翌年の学会で公開する。これが、発端だった。それから数年して今度は彼自身が、「教えはすべからくすべての部族のものである」との信念のもと、それを流ちょうな英語で自分の書き下ろした物語のなかに挿入して出版し、結果としてその本がベストセラーになった。ストームはインタビューでこたえた。「インディアンに伝わる物語を研究してみれば、それらのなかには汎インディアン的ともいえるものが必ずあることがわかるだろう。物語は、その概念は、それ自体繰り返されてきたものだ。そこにあらわれる色や、登場するものが動くのが右かそれとも左かというところまで、繰り返される。そうやって繰り返されながらすべての部族に伝えられていく。いかなる学者や学究の徒にでもわかるぐらいの、白人がやってくる前から、そうした汎インディアン的で部族間を超えた動きがあったことを示すような明白なヒントがある」

もともと一族の秘密とされてきたこの「聖なるお話し」を英語にして公開したチャック・ストームこと、ヘェメヨースツ・ストームという人が、いったいどんな人物だったのかということを語る時、避けて通れないのがリザベーションにおける混血の問題であるだろう。なぜなら彼の写真を見た人はまず彼がネイティブであるとは思わないだろうからだ。銀髪に巨大な体躯、カウボーイハット姿からは、アメリカの西部でしばしば出会う首根っこの赤いカウボーイの姿が思い描かれる。彼が後に語った生い立ちから判断すると、ドイツ系の移民とシャイアンの母親のあいだに生まれた混血で、政府に登録されているインディアンであり、モンタナ州にあるノーザンシャイアンとクローのふたつのリザベーションで育ったとされる。クローはシャイアンの隣にテリトリーが位置する部族で、どちらも大平原の民と呼ばれる人たちだが、このふたつの部族は昔から仲があまりよくなかった。しばしば戦すら起こしてきた犬猿の間柄だ。

ネイティブ・アメリカン・ピープルのなかで、白人がネイティブ・アメリカンのスピリチュアルな儀式などを行うことにたいして不満の声があることをたずねられたとき、ヘェメヨースツ・ストームはつぎのようにこたえた。

「それをなんと呼ぶのか知っていますか? 人種差別主義というのです。あなたはリザベーションそのものが血の割合に応じて区分けされているのを知っていないでしょうね? かりにあなたがアイルランドに暮らしていたとしましょう。母親はアイルランド人で、その母親が、ロンドンからやってきた男性と結ばれたとすると、あなたはハーフ・ブリードの、二分の一アイルランド人として一生を送る。あなたの子供は、アイルランド人の割合はさらに少なくなるし、子供の子供はさらに少なくなる。そうやってずうっといくと、アイルランド人である部分なんて限りなく小さくなっていくのですよ」。彼はさらに「イタリア人でなければカトリックになってはいけないとでもいうのでしょうかね」ともいっていた。

混血のことを英語ではハーフ・ブリードという。リザベーションの仲で混血であるということがいかなるものであるのか、リザベーションのなかが血の濃さに応じて色分けされていることなど、おそらくわれわれには想像もつかない。彼等自身は自分たちのことを「ブリード・ピープル」と呼ぶ。「ジャンピング・マウス」が世に出るきっかけもおそらく彼がかけあわされた混血人だったことと無関係ではないだろうと思う。

普通わたしたちが「インディアン」というと100バーセント・インディアンのフル・ブラッド(純血)の人たちのことを考える傾向にあるが、21世紀になった時点で現実をいうと純血とされるインディアンはほとんどもういない。ネイティブの人たちにとって混血は1492年以来避けられないことだった。ブリード・ピープルにはすでに600年を超える歴史があるのである。2050年までにはアメリカ人のほとんどすべてにインディアンの地が混ざり込むという研究もある。

ブリード・ピープルは、リザベーションで育つとはいえ、インディアンであることにたいする混乱を常に抱えてきたし、今も抱えている。自分は誰か? ここでなにをしているのか? 自分とは異なるみんなはどういう人たちなのか? 自分はどこに生まれたのか? おそらくこの「自分はどこに生まれたのか?」というとても大きな疑問にたいしての最終的な答は、大きくふたつに分かれるだろう。

ひとつは「アメリカ」という自らの所属する「国家」によりどころを求めるもの。もうひとつが「母なる地球」という概念に到達するものである。ルーツが混乱し精神生活が成り立たなくなると人は普通国家に頼って愛国的になっていく。しかしネイティブの社会のように、精神生活がかろうじて保たれている場合は、メディスンマンやメディスンウーマンの働きによって、混乱した精神のよりどころとして母なる地球が与えられることもないわけではない。いのちを与えられて母なる地球に生まれてきたことを感謝し、与えられたいのちを祝福することを学ばされることもあるだろう。自分をヘェメヨースツ(オオカミ)と呼ぶストームという人間は、リザベーションに「ねいてぃぶ・あめりか人」のひとりとして生まれ、それを突き抜ける体験をすることで、生まれていのちを与えられたことそのものを「ひとりの地球人」として感謝するように育つ過程で学ばされたのかもしれない。

じつは混血の問題は、いまここで「日本人」をやっているわたしたちとも無関係ではない。今日本人とされている人たちは、ブリード・ピープルの極地みたいな人たちだからだ。自分たちを「単一民族」だと思いこめるぐらいまで血が混ざり込んだ究極の雑種なのだ。われわれのなかには、簡潔に言うなら「弥生人」と「縄文人」のルーツの異なる血が混ざりあって流れているとされる。くわしくいうと、弥生人だって縄文人だって、とうぜんながらひとつの民族や部族であった可能性はきわめて低いから、もっといくつもの血が混ざり込んでいて当然なわけ。5つも6つもの種類の血が混ざり込んで、それが千年以上もえんえんと続いて、最終的にはルーツは消えて、誰でもなくなって、「地球に生きる人」に戻ることもないまま、「日本」という国家にある意味で「隷属」して「日本人」となり、今日にいたっている。われわれが、国家を超えて「地球に生きる人」になるためには、ネイティブ・ピープルの精神性——混血がはじまって600年しか経ていないで——かろうじてアクセスが可能な汎部族的な生き方とおして、いのちを与えられて今ここにあることを感謝することを学ぶしかないのかもしれない。

シャイアンの人たちに伝えられてきた「一匹の野ネズミにたくして、ほんとうの自分を知るための物語」が、自分が誰かという疑問で混乱している日本列島のネイティブとはなにかの答えを自分のなかに探しはじめた若い世代に読み継がれていくことを期待している。『ジャンピング・マウス』(太田出版刊行)は、来週には発売になる。

そろそろ六甲山のウィークエンド・ワークショップに行く準備をしなくてはならない。天気がよくなりますように。

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Comments

今、「インデイアン魂レイム・デイアー」を読み始めています。私は今まで、彼らがアメリカの影響を受ける前の本を読んでいたようで・・「う、だめだ・・・」なんか吐き気がしちゃってなかなか読み進めることができません。

インデイアンとアメリカ人・・この違いのなかで
まるで針の先ほどの共通点をみつけるのは
至難の技ですよね。

そのなかで混血や2つのものをあわせもつものの存在はきっと大きな役割を果たすのでしょう。

北山さん、私の探していることの答えは、
どうやらむかし真剣にインデイアンがインデイアンだった頃のほうにありそうです。
本当のセレモニー、本当のインデイアン魂を
見ることは・・・難しいですね(笑)


Posted by: 信珠 | Sunday, May 22, 2005 at 11:45 AM

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