ふたりの偉大なホピの語る声
北米大陸のあらゆるネイティブ・ピープルの精神的なものの渦の中心に「ホピの国」があることはまちがいない。そのことを指し示すような記事が「インディアン・カントリー・トゥディ(Indian Country Today )」紙に掲載されていた。「世界に警告するホピ Hopi warnings to the world (March 29, 2005)」というタイトルでブレンダ・ノレル記者が書いたものだ。二枚の写真がつけられていて、一枚にはホピのメッセンジャーで精神的指導者であった故トーマス・バンヤッカ Thomas Banyacya が、もう一枚が伝統派長老で、蛇氏族の司祭だった故ダン・エベヘマ Dan Evehema が写されている。くしくも20世紀が終わる1999年に時を前後して黄泉の国へ旅立たれたふたりの伝統派ホピを回想する記事の中身をかいつまんで読んでみた。彼等が鳥たちや動物たちもその中に含まれる「声なきものたちの声」を代弁するものとして、いかに大きな存在だったかをうかがわせる記事である。
このふたりに共通していることは、死を迎えるそのときまで「黙示録的世界の到来を警告し、良き心を持つ世界中の人たちが自分たちの仲間に加わるように」訴えつづけたことである。トーマスの警告は、具体的には「物質的なものにたいする強欲とスピリチュアルな真実に向かいあおうとしないことが結果的には異常気象を引き起こし、最後には世界の破滅につながる」というものだった。ダン・エベヘマは「現代世界は強欲という病に冒されており、この国の先住民族を決定的に痛めつけ、おとしめているのは儀式を行う場所が失われたことである」と主張した。
エベヘマ翁は生前、105歳のとき、すべての人たちにむけた声明をあらわしている。記事ではこの「全人類に向けたメッセージ」をダイジェストで紹介している部分が続くのだが、幸いダン・エベヘマのこのきわめて重要なメッセージは「長老ダン・エベヘマから全人類へのメッセージ」として永峰秀司氏が「ホピの道」と題されたサイトで日本語になったものを公開されているので、ここはひとつそちらをぜひ腰を据えてじっくりとお読みいただきたい。
ついでもうひとりのホピ伝統派のトーマス・バンヤッカについて記事は書いている。彼はホピのなかでも「モティー・シノム」の一員だった。この「モティー・シノム」とはホピの言葉で「最初のひとびと」を意味する。バンヤッカ氏は1992年にホピ国の代表として国連で演説をした際「伝統派ホピは偉大なる精霊(マーサウ)から与えられたスピリチュアルな生き方に従っています」と語っていた。
「われわれはいかなるときにも彼のたてたライフ・プランに従うという聖なる誓約を彼との間で交わしたのです。この誓約には、彼の目的のために、この大地といのちの世話をする責任も含まれています。それに基づいて、わたしたちはこれまで、アメリカ合衆国を含むいかなる国とも条約を交わしたことはありませんし、これまで何世紀にもわたってその誓約を交わしていることをとても名誉あることだと思ってきました。わたしたちは最終的に政治的な支配も、貨幣による富も、軍事的な権力も、目的とはしていません。わたしたちが望んでいるのは祈ることであり、すべての生きてあるものたちの幸福を推進させることであり、世界を自然の道にのっとって保存することなのです」
伝統派ホピの指導者たちがバンヤッカ氏をふくむ4人を「ホピのメッセージを広める者」として選びだしたのは1948年のことだった。智慧の言葉を繰り返すなかでバンヤッカ氏は「創造主は最初の世界を完ぺきなバランスのうえにつくられのだが、人間が人間が道徳的かつ精神的な原則に背いたためにほんの一握りのものたちしか地震で生き残ったものはいなかったのです」と言っている。そのときと同じ過ちが2番目の世界においても繰り返され、ものみな氷る氷河の時代がひとびとを滅ぼしたのだと。3番目の世界、わたしたちの今の世界のひとつ前の世界は、比較的長いこと続いたという。それ以前の世界と同じようにひとびとはひとつの言葉を話していた。現代の世界の人間には未だ想像すら出来ないテクノロジーを、3番目の世界の人たちはいくつも発明していたが、その結果として自然の法則に背き、物質的な物だけにこだわるようになっていったらしい。
「気がつくとひとびとは自然の法則に背を向けるようになっていました。物質的なものだけをひたすら追いかけ、しまいには精神的な法則を鼻の先であざけりながら、一か八かの賭に出るまでになったのです。もう誰もそれをとめることなど出来なくなっていました。そして世界はとてつもない洪水に襲われて滅んだのです。今でも多くの国が古代の歴史や宗教的な教えのなかで、このときの洪水を伝えています。長老たちによれば、このときにもまたわずかな数の人間のグループだけが危うく難を逃れて、わたしたちが現在暮らしているこの4番目の世界に移り住んだのだそうです。グレイトスピリットはわたしたちにそれぞれ異なる言葉をお与えになり、世界の四つの隅にまでそれぞれが広がって、改めて地球の世話をするようにとおっしゃられたのですが、わたしたちの今の世界はひどい有様に陥っています」トーマス・バンヤッカ氏によれば、人類は「予言の最後の日」にいるのだという。彼は国連の演説のなかでこう問いかけた。
「個人として、あるいはひとつの国として、世界の総体として、あなたはこの地球の世話をするためになにをこれまでやってきたでしょうか? 今日の地球において、人間は公害と称して自分たちの食べものや水や空気の中に毒を入れています。子供たちを含むわたしたちの多くが、飢えたまま放り出されています。たくさんの戦争がいまだにつづけられています。強欲と物質的なものに対する関心は人類に共通の病気なのです」
バンヤッカ氏は「灰の詰まったヒョウタン」(原子爆弾)がヒロシマとナガサキにおいて何万人もの人たちを焼き尽くすことをホピは「あらかじめ知っていた」と国連で告げた。またペルシャ湾で最悪の武器がが使われるのをとめられなければ第三次世界大戦になるとも。
「選択は、わたしたちにまかされています。もしもあなたがたが、地球の国々が、つぎに世界を巻き込む大きな戦争を作り出したら、人間は自分たちを灰になるまで焼き尽くすだろうことが、ホピにはわかっているのです。自然はそれ自体では私たちの耳に届くような声を発することはありません。わたしたちがじきに絶滅させようかというところまで追い込んでいる鳥たちも動物たちも、同じことです。いったいこの世界においては誰が、自然のために、そしてすべてのいのちをつくりあげて、それらのなかを貫いて流れているスピリチュアルなエネルギーのために、声をあげられるというのでしょうか?」
人間がそうした声なきもののために声をあげるには、自然や土地から自分自身を切り離さないようにすることが必要なのだと、バンヤッカ氏は発言をつづけた。そして最後に、最初の人たち、そして祖先のスピリットたちは、今声を大きくして警告を発していると語ったのだ。彼はこれからは洪水やハリケーン、嵐のごとく雹が打ちつけたりするなど天候異変となり、地震が来るだろうと指摘した。
「動物たちや鳥たちですらが、まつたく奇異な振る舞いをとおして、わたしたちに警告しています。鯨たちが砂浜にのりあげたりするのはなぜでしょう? 動物たちはみな地球の問題がわかったうえであのような行動に出ているのに、人間たちのほとんどがなにも知らないかのように行動しているのはどうしたことでしょうか? こうした警告を受けて、わたしたち人類が目を覚まさなければ、今の世界を破壊するための偉大な浄化が訪れます。前の世界は同じ理由で破壊されたのです」
ダン・エベヘマ翁は1999年1月15日に108歳で、1910年生まれのトーマス・バンヤッカ氏は同じ1999年2月6日に88歳で、相次いでこの世界を旅立たれた。
「世界に警告するホピ Hopi warnings to the world (March 29, 2005)」という記事のしめの文句としてブレンダ・ノレル記者が選んだのはつぎの一文だった。
「Their voices live on.(その声は生き続けている)」
ふたりの存在の偉大さをあらためて教えられるような記事ではありませんか。
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