太陽はどうして月を追いかけるのか?
北カリフォルニアの中央部の平野にサクラメント川という川が流れていて、その川の両岸をテリトリーにしていた一族がマイドゥ一族でした。水も漏らさないとても緻密なバスケットを編むことで辺り一帯に名を馳せていた人たちです。彼らの暮らす土地の南のはずれには、ペインズ・ピークという火山がそびえています。ごつごつした大きな火山岩がごろごろしている山で、マイドゥの人たちは「岩屋(ロック・ハウス)」と呼んでいます。
父なるお天道様と母なるお月様は、大昔はそのペインズ・ピーク山にある巨大な岩屋のなかで、一緒に暮らしていたのです。ふたりの放つ光は岩屋の外へは一切漏れてきません。だから空には光るものがありませんでした。人間も動物たちも、みんな暗闇のなかで生活していたのです。
あるときのこと、いたずらもののコヨーテが考えました。お天道様とお月様の体に一握りのノミの群れでも放ったら、こいつはちょっとした見物じゃないかな。そこでコヨーテはノミをせっせと集めては袋のなかにつめました。そうやってノミのいっぱい入った袋を手に意気揚々とペインズ・ピーク山に向かう途中で、コヨーテはウサギと出くわしました。コヨーテが自慢そうに「この袋のなかにはノミがいっぱいはいっているんだぞ」といくらいっても、そんな話をウサギははなから信用しません。しまいにはお互いに激しく罵りあう始末。いきなりウサギが手を伸ばしてその袋をつかんで自分の方にぐいと引き寄せました。コヨーテも必死にその袋をとられまいと引き戻します。その瞬間いきなり袋の口が開いて、せっかくのノミたちが盛大に地面に飛び散りました。まずこの日を境に、コヨーテもウサギも、いつだってノミを探して体をぼりぼりとかくようになったのです。
ロック・ハウスにノミ放つというコヨーテのたくらみの話を聞くと、ウサギもおもしろそうだと考えました。だからふたりは一緒にノミの入った袋を持ってペインズ・ピーク山の登山道をぜーぜーいいながら登りました。だんだん重たくなる足を一歩踏み出すたびに、岩屋についたらこうやろうああやろうと、ノミをどう放つかについて、それぞれに思案しながら。
登っていくと途中で、ジリスが地面に掘った穴がありました。そうだ、ジリスのやつも仲間に加えようと、ふたりは考えました。ジリスだったらきっと岩屋の天井にばれないように穴をあけられるはずです。頂上にようやくたどり着くと、さっそくジリスが地面に穴を掘りはじめました。父なるお天道様と母なるお月様にいらぬ警戒心を起こさせぬように音を立てずにそおっと、そおっと。そしてジリスが穴からはい出してくるのを待ちきれないように、ウサギとコヨーテは袋の口を開けてその穴のなかにいっせいにノミたちをいっせいに放ちました。それから石で穴にふたをすると、今度は笑いを押し殺した様子で、みんなは転げるように山を駆けおりたのです。
それからまもなく、父なるお天道様と母なるお月様の全身にノミたちがとりつきました。じきに母なるお月様は我慢しきれなくなり、いきなり岩屋から飛び出すと、そのまま地球の周りを回りはじめました。父なるお天道様もその後に続いて岩屋を飛び出します。ふたりは競うように地球の周りを回りながら、全身にとりついたノミたちを互いに取りあおうとしているのです。
まずそういうわけで、空の上では今日も太陽が月の後を追いかけているわけです。
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