七つの火の予言
The Prophecy of the Seven Fires
Editor's note: この教えのなかの予言の部分はグランドファーザーのウイリアム・コマンダ(William Commanda)翁が1997年4月16日と17日にカナダ、ケベック州のアイルナーで開催された the Aboriginal Learning Network Constituency Meeting of Elders, policy makers, and academics で一族に伝わるワムパムという帯の図柄を解読して公開したものを基に翻訳編集したものである。
今からざっと千年以上も前、アニシナベの人たち註1は北米大陸東北部の大西洋沿岸地帯に広がる森と川と湖の大地で暮らしていた。人の数も多く、力のある一族で、その地方の一番高い山の頂からながめて見えるところは四方八方どこまでも、ことごとくすべてがアニシナベの国だった。
カヌーを足の代わりに用い、冬になると犬ぞりを使って遠くまで旅をした。暮らしはとても豊かで、いつも美に包まれていた。その信仰は「輪の道(way of the circle, the)」と呼ばれ、夢やヴイジョンを通して知恵や力を自然に受け継いでいた。ひとびとはスピリットの道に従い、すべてのいのちあるものたちとの調和のなかを、バランスをとって歩いていた。
いのちを差し出して食べものとなってくれる動物たちや魚たちとも言葉を交わすことができた。草や木々の話す言葉に耳を傾けて病を癒す薬も得ていた。不思議な力の存在と螺旋の神秘を理解していて、この知識を利用することでいともたやすく空間を越えて長い距離を旅することができるものもいた註2。
アニシナベの国には警察も法律も裁判所も判事も牢屋もなかった。彼らは「輪の道」にしたがって共に助け合い、一族の共同体の幸福と健康のために持てる才能と技を惜しみなく使った。狩人も猟師も腕の立つものは獲物をわけあうことを常とした。女たちはみなで野や森に入って食べるものを採集し、それを一族のものたち全員に分配した。
最初に創造主から与えられた指示にしたがって、彼らは「輪の道」のなかに場所を得ているあらゆるいのちあるものを愛し、讃え、尊敬した。その教えは天地創造のはじめにすべてのひとびとに与えられたものであり、われわれひとりひとりのハートに書き込まれていた。
アニシナベに語り継がれる歴史は、これまでに一族のもとに七人の予言者が現れたことを伝えてきた。それらの予言者は、一族のものたちが北米大陸東北部沿岸で平和の内に暮らしていたときに別々に訪れた。どのような未来がやってくるのかについて予言者たちは予言を残した。予言はそれぞれが「火」と呼ばれ、それぞれの火はまた未来のある特定の時代を示すものとされた。それがために、七人の予言者が残した教えは、「七つの火」として知られている。
はじめの予言者は、アニシナベの国に「最初の火の時代」が到来する日のことを伝えた。海岸の近くに村を作り、海で採れる子安貝を宝物としていた一族が、いずれその土地を離れることになり、子安貝のうえにあらわれる御しるしにひとびとが従う時がくるだろうと。一族は西方の見知らぬ土地へ、亀の形をした島を探して長い旅をすることになると。その島は大地の浄化と関係があり、一族は長い旅の最初と最後にそうした島を発見することになっていると。旅の途中で、一族はふたつの大きな甘い水の海をつないでいる川と遭遇し、その川を伝っていくと、さながら大地を切り裂くナイフのように、川幅は見る見る狭くなり、川の深さはさらに深くなるだろう。一族は川をさかのぼりながら全部で七度、村づくりを試みることになっていて、この旅が終わるのは、水のうえに食べものが育つのを見つけたとき註3だとされた。もしそのまま今の場所に居続けて旅に出なければ、多くの苦難がのしかかってきて、一族は滅びるし、旅に出れば出たで、他の国々から狙われて攻撃を受けるだろうから、いつでも戦えるように守りを固め、あらかじめめいめいが体を鍛えるなど準備を整えておかなくてはならないだろうと。
二番目の予言者は、甘い水の海の近くで野営をしているとき、一族は道に迷うことになって、「第二の火の時代」の到来を知るだろうと伝えた。そしてそのときがきたら、一人の少年が夢の中で正しい道に帰る道を見つけ出して、未来へと続く道に戻ることができると。
三番目の予言者が伝えたところでは、「第三の火の時代」に、アニシナベ一族は自分たちのためにあるような土地に通じる道を見つけることになると伝えた。一族はその道をさらに西に向かい、やがて水のうえに食べものが育つ場所にたどり着くだろうと。
四番目の予言者は一人のように見えて実はふたりいた。ふたりでひとりの予言者は「第四の火の時代」になると、明るい肌の色をした人たちが到来すると伝えた。アニシナベ一族の未来は、その明るい肌をした人たちがどのような顔をしであらわれるかにかかっているのだと。彼らが友好的な顔であらわれるのであれば、素晴らしい変化の時が訪れるかもしれない。昔ながらの知識のうえに新しい知識が加えられて、ふたつの人たちは力を合わせて強力な国を作りあげる。その後さらにふたつの国がこの国には加わって、全部で四つの国がいっそう強力なひとつの国を形作るだろう。その人たちが知識と善なる意志さへ持ち寄ることができるのなら、みなは兄弟のごとくなるだろうと。
「しかし」と四番目の予言者の別のひとりが言った。「その明るい肌の色をした人たちが死者の顔を持ってくるときにはくれぐれも用心しなくてはならない。友好的な顔と死者の顔は見分けがつかないくらいよく似ているからだ。苦しみを引き連れてあらわれる彼らはあなた方をからかい、見下すことだろう。連中のハートはこの大地に秘められた豊かさにたいする強欲であふれている。そのものたちが真の兄弟か否かは、そのものたちに証明させればよい。くれぐれも頭から信用したりしてはならない。それが死者の顔かどうかは、川の水が毒となり、魚が食べられなくなることではっきりすることだろう」
五番目の予言者は、「第五の火の時代」に、明るい肌の色をした人たちの考えている生き方と、自然に従う人たちの多くの国々の自然なスピリットの道とのあいだで、とてつもない戦いが起きるだろうと伝えた。「この火が熱を失うころ、大いなる喜びと救済を約束する人たちがあらわれる。ひとびとがそれらの約束を受け入れて、昔から伝わる道を捨て去ることがあるかもしれないが、しかし戦いは何世代にもわたって続くだろう。このときの約束は偽りの約束であり、それを受け入れたものたちは、ほとんどが滅び去る」
六番目の予言者が一族のものたちに伝えたところによれば、「第六の火の時代」になると、「第五の火の時代」に受け入れた約束が偽りであったことがおのずからあきらかにされるという。「その約束に目をくらまさせられたものたちは、エルダーの教えから子どもたちを遠ざけることになる。孫や子が年寄りに逆らうようになり、エルダーたちは生きる目的を失い、多くが病のうちに死にゆくだろう。それまでになかった新しい病気がひとびとの間に広まり、たくさんのものたちの人生がやがて悲しみと嘆きで満ちあふれることだろう」
七番目の予言者は、それ以前にやってきた六人の予言者よりも年齢が若くて、その目には不思議な輝きが宿っていた。彼は、そのときがくれば、長く飲み水に毒が加えられ続けたためにその水で生きていた動物たちや植物たちが病に冒されて死にはじめるだろうと告げた。森林の大半が、草原の大部分が失われ、空気の中のいのちの力が失われはじめると。白の国が、赤と黒と黄の国々にもたらす「頭の道(way of the mind, the )」によって、地球そのものがまるごと危険にさらされることになるだろう。そしてこの「第七の火の時代」になったとき、幻の雲をかき分けて新しき人たちがあらわれると予言者は伝えた。
彼らは今一度自分たちの進んできた道をたどり直して、細い道のかたわらにうち捨てられたままになっていた宝を見つけ出すだろうと。失われていた物語が彼らのもとに帰ってくる。最初に創造主から与えられた根本の教えを彼らは思い出し、「輪の道」のなかに力を見つけ出すことだろう。その力を探し求めるなかで、彼らはエルダーたちのもとへと導かれて、新しき人たちも導きを求めるようになる。だが、そのときすでに多くのエルダーたちは星々の網のなか魂の道を歩きはじめているし、かろうじて生き延びたエルダーたちは、昔の知恵を忘れ去っていて、およそ力になることなどできないかもしれない。なかには、眠りこけたままのものもいるだろうし、見当違いの誤った方角を指し示すエルダーもいるだろうし、おそれるあまりに口をつぐんで黙したままのものもいるだろう。しかしなかには、それまでに誰も知恵のことを尋ねてくれなかったからという理由だけで、口を開かないできたエルダーたちも、いないわけではない。新しき人たちはエルダーたちに用心しつつ近づかなくてはならない。新しき人たちの任務はたやすいものではないだろう。
もしこの新しき人たちが、あらゆるものの道のなかで、輪のなかで、心を強く保ち、頼れるものを見つけたなら、そのときにはもうエゴの発する利己的な声は不要となり、彼らも自らの内なる声を信じはじめることが出来るだろう。夜といわず昼といわず、あまたの夢の中に知恵が再び見つけ出されるようになるだろう。聖なる火が再びともされる。このときには明るい肌の色をした人たちにもふたつの道註4の選択が与えられよう。この人たちが正しき道を選べば、第七の火が第八の、そして最後となる火をともすことだろう。ひとびとがみな兄弟姉妹のように生きる時代、最後の火の時代がおとずれるのだ。もしその人たちが選ぶ道を過ち、いつまでも「頭の道」にとどまり続ければ、今度こそほんとうの破滅がもたらされる。地球に生きる人たちはさらなる苦痛と多くの死を体験することになるだろう。
註1 アニシナベ 「ひとびと」という意味。カナダではオジプエ、オジブウェイと、アメリカではチペアとも呼ばれるが、自分たちで自分たちのことをいうときにはアニシナベ(Anishinabe)という。アニシナベには、ミクマック、マリシーツ、ペノブスコット、ワンパノアグ等の部族を含む。北米大陸先住民の中で最大の言語圏アルゴンキン語族に属する。もともとは北米大陸東北部大西洋岸やハドソン湾岸の森林地帯にウィグワムという簡易住居を建てて暮らしていたが、のちに西方に移住拡大し、現在は五大湖の周辺、主にはスペリオル湖の周りに暮らしている。北米先住民のなかではディネ(ナバホ)やツァラギ(チェロキー)と肩を並べる大きな部族。ビーズ細工でさまざまな図柄を施した「ワムパム」という帯と、それぞれのパターンの解読法を伝承することで、一族の歴史を長く伝えて今日に至る。
註2 現在のアメリカ合衆国の南西部の沙漠の中にあるホピの国には、彼らがキバと呼ぶ地下の聖なる部屋に、いきなり姿を現したアニシナベの人間のことを語り継ぐものがいる。その人間はホピの人たちとしばらく話をしたあと、ともに儀式を行い、そしてまたそのままキバの壁のなかに姿を消したという。
註3 「水のうえに育つ食べもの」とは彼らにスピリットを与えるとされる「メノミン(ワイルドライス)」のこと。「インディアン・ライス」と呼ばれることもある。日本名を真菰(まこも)といってイネ科の大型多年草。川や沼や湖で成長する。アニシナベの文化の中心にある聖なる穀物。ヨーロッパ人がやって来る以前の北米大陸北東部から南東部のほとんど至る所の沼地や湖に生えていた。「神さまの庭の食べもの」ともいわれる。東アジアでは若芽などを食用としてきたが、日本では古くから薬草のひとつとされ、今も特に神事に用いられていて、たとえば出雲大社の巨大なしめ縄は真菰で作られていたりする。
註4 インディアンの国に住んでいる多くの伝統的な人たちは、この明るい肌の色をした人たちのふたつの道を、「科学技術に至る道」と「精神性に至る道」というふうに理解している。
参考 小さな兄弟 アニシナベ(オジブウェイ)族につたわるおはなし
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Comments
ホピの予言にしても、ネイティブの方たちの予言には驚かされます。ここまで明確な予言があるのに・・・と少し悲しくもなります。でも、虹の戦士達は世界中に現れて、活躍するのでしょう・・・ その日が来る事を楽しみに日々頑張ります。
Posted by: 大盛 良一 | Tuesday, March 08, 2005 10:40 AM