スーの骨の一部が日本上陸
作日、3月19日(土)から東京は上野にある国立科学博物館で「恐竜博2005 〜恐竜から鳥への進化〜」(朝日新聞社、テレビ朝日主催)が開催されている。最大の目玉は、アメリカ・フィールド博物館所蔵で、“SUE(スー)”という名前がつけられている、全身の90%以上の化石が発見され、オークションで8千四〇〇万ドル、約10億円で落札されたことで世界一有名になった、ティラノサウルス・レックス(T・レックス)の全身複製骨格だ。これが日本初公開されるのだとか。また、いままで「門外不出」だった“SUE”の実物化石の一部も、初めて館外に貸し出されて公開されるらしい。
このティラノザウルスの“SUE(スー)”という名前を聞いて勘のよい人ならすぐにわかるが、この世界最大で世界で最も形が整っている恐竜の骨は、ネイティブ・アメリカンのスー一族の聖地であるサウスダコタのバッドランドから1990年に掘り出されたものである。ほんとうはラコタと呼ばれるスーの人たちのスーは「sioux」と書かれるのが普通だが、白人の発見者の名前がたまたま「スー Sue」だったこともあり、両方をかけて発音通りに「sue」と綴られている。ラコタの人たちはずいぶん昔からそこに恐竜の骨があることは知っていて、その一部を削って薬にしていたのだ(古代中国の漢方薬にも「気分を安定させる作用を持つとされる竜骨」[マンモスなどの骨の化石]なるものがある)。小生が翻訳した『レイム・ディアー(インディアン魂)』(河出書房新社刊)にもバッドランドの化石の記述が出てくる。
お前さんたちが「化石」とよんでおるものだが、あれもわしらは薬として使っている。遠くバッドランドの山奥まで分けいれば、そこで巨大な骨の化石が見つかろう。それはウンクテギラの骨だ。人類が現れるずっと以前にこの地球に生きていた馬鹿でかい生物、それがウンクテギラだ。わしらはそれを水の怪獣ウォーター・モンスターとよぶ。実際そこにある小さな山などは、山の背がまるごとウンクテギラの化石で形作られていたりする。いつだったかそのてっぺんまでよじ登ってみたことがあるが、あたかも馬に乗るような格好で、その背骨の隆起にまたがって、腰をすこしづつ前に進めていくしか、他に方法がなかった。怪獣の背中にまたがるというのも、われながら妙な気分だったぞ。さらに夜ともなれば、山のそのあたりには仄白い灯がちらちらと飛び交う。それはスピリットの出す光だ。わしはそこで見つけてきた化石を自分の治療に使っている。「レイム・ディアー(インディアン魂)」
第7章「フクロウと蝶ちょに話しかける」より
この骨を、「発見」して文明世界に紹介したのが、化石ハンターのスー・ヘンドリックソン(Sue Hendrickson)で、結局この恐竜の骨が誰のものであるのかを巡ってすったもんだあって落ち着く先がきまるまでに、それから5年の月日を要している。いくら化石ハンターとはいっても、それが埋まっている土地を掘る時には土地の所有者の許可が絶対に必要なのだ。しかし問題はそこがスー・リザベーションの一部であることは間違いないが、ご多分に漏れず所有権が入り組んでいて実際の所有者がはっきりしないことだった。実際の所有者はスーの血を一部受け継ぐ牧場主なのだが、土地は事実上合衆国政府の管理下にあった。そして起こったのが「告訴合戦」。
あちらがこちらを訴え、今度はこちらがあそこを訴えるという複雑きわまりない裁判の連続。結局、最終的に判決が降りて、合衆国政府に土地を預けていたスーの血を一部に受け継ぐ個人牧場主が正当な骨の所有者となり、1997年10月にニューヨークでひらかれた公開オークションでT・レックスが競売にかけられることになり、約10億円で現在の所有者であるフィールド博物館(The Field Museum)が落札したというもの。化石としては世界で一番高価なものだとか。化石の実物の一部が公開されているけれど、全身の骨格は複製である。削って飲んでも薬にはなりません。
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