SHOES OFF PLEASE
かつてハワイに二ヶ月近く滞在していたことがある。なに、古代ポリネシアの人たちの精神生活にひどく惹かれるものを感じたからなのだ。ハワイ島、オアフ島、マウイ島、カウアイ島と友人の家に転がりこみ、あるときは野宿をしながら、またあるときはコーヒー豆の収穫をする季節労働者のための仮小屋に寝泊まりしつつ、聖地巡りなどして不思議な魔法のような時を過ごした。祝福の雨にも濡れたし、たくさんの虹が空に架かるのも見た。ハワイというのは気候がよいので野宿をするのも毛布が一枚あれば事足りた。別におおげさな寝袋が必要なわけではない。海岸のキャンプ場の近くの森の中で眠り、朝起きたら海水浴客のためのシャワーを浴びることもできた。道ばたでたわわになっているフルーツもたくさん食べた。三千メートルを超す山にも登ったし、天然の温泉プールにも入った。キラウエアも噴火した。そこでハワイで最も印象に残っていることを今回は書いておく。
それはアメリカ本国と違ってハワイではほとんどのロコの家がたずねていくと、家の中に入る前に玄関のところで必ず「履き物を脱ぐようになっている」ことである。ジューズ・オフなの。別に日本のように土間付で段差のある玄関があるわけじゃない。家の造りはいわゆる西洋スタイルになっていて、靴を履いたまま中に入れるようにはなっているのだけれど、みんな入り口のところで、あたりまえのようにまず履き物(スニーカーやサンダル)を脱いで家の中にはいる。ていねいに「靴は脱いでください」と書いてあるところもある。だからたくさんの友だちが集まる家では家の外にまで脱いだ履き物が並べられたりしているのも珍しくない。この風習は、日系のハワイ人たちがはじめたものなのか、ポリネシアの人たちが起源なのかよく分からない。日本国で生まれて育つと入り口で履き物を脱ぐことは当然のことで疑問も感じないのだが、メインランドで長く生活して家の中まで靴を履いてはいることにずっぽりなれている人たちには、それがおそろしく奇妙な風習に思えるらしい。
その昔LAでアパートを借りて暮らしていたとき、ぼくは入り口のところで必ず靴を脱ぐようにしていた。ドアを開けるといきなりカーペットになっていてそこに土間があるわけでもないのに脱いだ靴をそこに並べておく。ときおり管理人のホブなどが訪ねてくるとそのままごっついワークブーツでずかずかと入り込んできた。ヨーロッパからの渡来系アメリカ人の子孫たちの風習には、家にはいるとき靴を脱ぐということがもともとないから、たいてい入り口の前にウェルカムマットが敷かれていて、靴裏の土を落としてから家の中に入るようになっている。めりけんじやっぷ(アメリカに暮らしている日本人)でも家族持ちはたいてい家の入り口のところで履き物を脱ぐようになっていたが、独身男性にはアメリカンスタイルのものもかなりいた。まあ風習の違いといってはそれまでのことなのだが、ハワイにいてなにが心地よいといって、家の中で靴を履いている人をほとんど見ないことほど、こころなごむことはない。気候が気候だから、靴を履いているより家の中では裸足がよいのに決まっている。
こうした家の入り口で靴を脱ぐ風習が、21世紀になってメインランドでどのくらい広まっているのか興味あるところだ。(ニューヨークで誰もが知っている超有名な人を高級アパートに訪ねたことがあるけれど、彼女の家は入り口で靴を脱ぐようになっていたぞ。なにしろふかふかの絨毯が家中に敷き詰められていたっけ)いずれにせよ、ハワイを訪れるときには脱ぎやすい履き物を履いていくこと。
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