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Tuesday, December 07, 2004

『輝く星』訳者後書き・再録

実際の事件に基づいた小説・あるホピの少年の冒険と成長の物語

▼今年の初夏に小生が翻訳して刊行した『輝く星』という小説本の後書きを再録します。ジョアン・プライスというアリゾナの大学で宗教と哲学の教授をしている女性が著したこの小説は、原題を「真理は輝く星」といいます。19世紀の初頭にスペイン軍に攻撃されたホピの村から拉致されて奴隷として売られた少年が、ふるさとのホピの村まで帰ってくるまでの冒険譚です。この本は何年も前にLAのボディトゥリーという書店で見つけました。その書店はサンタモニカとフェアファックスの交差点にほど近いところにあるシャーリー・マックレーンの本などにしばしば登場する精神世界専門の書店で、わたしとは1976年からのつきあいがあります。初めのうちは小さな街の書店だったものが、10年ほどの間に大きな書店へと変身するのを見守ってきたわけ。アメリカ南西部に暮らすプエブロ・インディアンやホピの人たちを題材にしたスピリチュアルな小説『輝く星』は、SFをのぞくとこのボディ・トゥリー書店で扱っていた数少ない小説の一冊でした。一読したときから、私はこの小説に惹かれました。この本には大切なことを次の世代に伝えようとする意志が感じられたからです。自分の子供が読めるぐらいの年齢になって、翻訳が出版されていなかったら、これを日本語にする作業を自分の手で行おうと心に決めていました。そしてこの本を昨年の後半に翻訳することにしたのです。それは私事ながら老いた父親が別の世界へと旅立つまでの本当に貴重な時間でした。翻訳をしながら私は父親のことをしばしば考えたものです。少年とメディスンマンとの会話はさながら自分と父親の会話のようにも思えました。この本には人が生きることとはなにか、また人が死ぬとはどういうことか、死に与えられた尊厳とはなにかを考えさせるヒントがちりばめられています。ひとりのホピの少年が試練の中で成長する物語なのですが、作者はアリゾナの大学で宗教哲学を教えホピやプエブロの精神世界にも造詣が深い女性であり、ホピの人たちの精神世界を美しくかつ克明に描くだけでなく、プエブロのメディスンマンと少年の交流や白人世界との折り合いの付け方などもわかりやすく表現されています。この本は、だからホピをはじめとする美しい沙漠に暮らす人たちの世界への入門書としてもとても役に立つし、読み終えたあとはさわやかな沙漠の風に吹かれたような気がすることでしょう。ほんとうのことを探し始めた無垢な精神にこの本を捧げます。


「自分の理解できないものを好きな人間などどこにもおらん」

 ジョアン・プライスの書いた『輝く星』という小説には、深く印象に残る言葉が、夜空の星のようにいくつも散りばめられている。とりわけわたしにとって忘れられない言葉は、ここに引用したメディスンマンの老人の言葉である。世界が憎しみと暴力にあふれているとき、いちばんたりないものが「理解」であるからだ。相手の存在にたいする理解、文化にたいする理解、生き方にたいする理解。そうしたものの欠如がひとびとを導く先は、想像するにおぞましい世界である。

 小説『輝く星』は、プエブロと呼ばれる北米大陸南西部の沙漠に暮らす農耕の民の世界と物理的精神的に深くかかわりを持つひとりのアメリカ人女性によって書かれた。彼女はアリゾナに生まれ、その赤い大地を愛して育ち、その土地で生きる人たちの精神を理解している。われわれはこの本をつうじて、次ぎの世代に、暴力に頼ることなく、世界を愛し、受けいれるための伝統的な知恵を学ぶことができるだろう。
 極端に水の少ない土地であるために「砂漠」ではなく「沙漠」と記されるコロラド高原はいまでも「インディアン・カントリー」と呼ばれている美しい土地である。一度でもその中を旅した者は、生涯その風景を忘れることはない。この小説の主人公であるロマは、そうした風景のなかで育つホピの少年である。ホピの暮らすホピの国は、コロラド高原の奥地、近くのどの都市からも等しく遠く離れたところにある。あるひとはそこを「地の果て」と呼んだ。ホピの人たちが極めて高度な精神性を数千年間維持してきている最大の理由も、おそらくはどこからも遠く離れた美しい大地にあるに違いない。ホピの人たちはそこを「宇宙の中心」と認識している。

 ホピという名は、もともと「平和の人」を意味する。極端に過酷な自然条件のなかで、トウモロコシを毎年育て、わずかな数の羊を飼い、祈りと感謝によって自然と向かい合い、祝福の雨の恵みを最大限に利用する高度な知恵と文化を、歴史のはじまりから今日まで語り継いできた。その純粋性と精神的な生き方で、欲望におどらされることもなく、徹底した非暴力を貫き、またそうした生き方を親から子へと、そして孫へと世代を越えて伝えてきた。ホピがホピでありつづけるためには、強靭な精神力にその存在を全面的に依存している。だがどのような風土や環境であれ、人間は安易で便利なもののあふれた暮らしに走りやすく、そのためにホピは、伝統的な生き方にあくまでもこだわるホピと、時代に適応した生き方を選ぶ進歩的なホピと、どっちつかずで塀のうえにいるホピの三つのホピに常に分裂してきた。とりわけ今や伝統的な生き方を是として、電気や水道に頼らない伝統派のホピは風前の灯である。地球を守るために最低必要な知恵----造物主から直接に伝えられた質素で精神的な暮らし方----を守りつづけてきたこの人たちの存続は、おそらく地球の未来、つまり私たちの未来とも、密接に関係しあっているのだろう。伝統的なホピが消えることは、ホピと彼らが守っている地球にとっては大きな曲がり角である。先ごろのアメリカの戦争で、最初に亡くなった女性兵士がホピの女性だったことは、極めて象徴的である。

 もし本書をお読みになられて、ホピの人たちとその生き方とに興味を抱かれたら、どうか専門の書物をひもとき、機会があれば彼らが「宇宙の中心」とよぶ土地を訪れてみていただきたい。


4885031788.09.MZZZZZZZ.jpg輝く星 -ホピ・インディアンの少年の物語
ジョアン・プライス (著), 北山 耕平 (翻訳)

価格: ¥1,680 (税込)

書籍データ
• 単行本: 283 p ; サイズ(cm): 19 x 13
• 出版社: 地湧社 ; ISBN: 4885031788 ; (2004/06/10)

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