ネイティブの戦士たちよ
ウエスタン・ショショーニ・ディフェンス・プロジェクト(ウエスタン・ショショーニの失地および権利の回復を目的とする非営利団体 Western Shoshone Defense Project)の女性代表のキャリー・ダンさん(推定70歳代)が、11月29日、アリゾナ州フェニックス市で「イラクでおこなわれている女性や子供たちの虐殺にアメリカ・インディアンは加わってはならない」という声明を出した。グランマのキャリー・ダンさんは「ブッシュ政権のようなアメリカやイラクを、企業利益のために強引におのがものにしようとする勢力に力を貸すのではなく、ネイティブの若者たちはネイティブの国々を守るために立ち上がるべきだ」と言う。三十年以上も前から姉のメアリー・ダンとふたりで、ネバダにある伝統的に部族のものとされる26万エーカーもの広大な土地(合衆国政府が所有権を主張)で牧場をやりながらショショーニの土地と権利を守るための戦いを続けてきたグランマザーのキャリー・ダンさんはフェニックス市にあるナフアカリ(NAHUACALLI 先住民のための大使館)において「合衆国政府はこれまで先住民族を敵として扱ってきたにもかかわらず、このたびの戦争はそのものたちのために戦うものでもあるなどとほざいている」と語気荒く語った。
「アメリカはインディアンの国々を相手に約束した民主主義を守ったことなどこれまでただの一度もなく、条約を尊重しようとしたことすらない」と語るダンおばあさんの主張をここでまとめておこう。「ことアメリカ・インディアンに関する限り、アメリカの民主主義が機能したことなど全くない」と彼女は怒りをあらわにする。1863年にショショーニの国と合衆国政府が最後に交わした条約(ルビー・バレーでウエスタン・ショショーニと合衆国政府の間で締結された平和と友好を目的とする条約)がまったく無視される形で今年ブッシュ大統領がウエスタン・ショショーニの土地への不適切な権力行使にたいする賠償金を一方的に支払うことを決めたが、おばさんに言わせれば「ウエスタン・ショショーニの土地は断じて売り物ではない」「問題は金ではないのだ」ということになる。ダンさんに言わせれば、アメリカ・インディアンの土地と鉱物資源を部族会議からことごとくとりあげたのと同じ目的で、今また、石油関連企業を設けさせることを目的として組織的にイラクの人々を腕力でねじ伏せようとしているという。「アメリカ・インディアンを支配するためにBIA(内務省インディアン局)を作ったように、BIA(内務省イラク局)でも作って、われわれにしたのと同じようにイラクの人たちを扱おうとしているのではないかな」と。
インディアンの若者たちが教育を受けることとひき換えにアメリカ合衆国の戦争に兵士として参加するようになったのは第二次世界大戦からで、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争とその出征兵士の数を増やしてきている。リザベーションにいたところで仕事らしい仕事もないところにつけこんで、兵役をすれば高等教育が受けられると耳元でささやかれて、インディアンの若者たちの多くがアメリカ軍の一員として戦場に赴いてきた。このたびのイラク戦争で最初に戦死したアメリカ陸軍兵士が、平和を守る人たちとして広く知られたホピ族の女性だったことは記憶に新しい。だがそれは間違っているとグランマ・キャリーは切り捨てる。「アメリカが石油資本にコントロールされているのは明らか。ブッシュがイラクでやっている戦争は、ネイティブの戦士たちが加わってともに闘うような戦(いくさ)ではないのよ」と。
「歓迎してあげた人たちによってわたしたちは抑圧され続けているの」北米大陸の植民地化について、彼女の語るところによれば、当初インディアンの人たちはみな新参者を歓迎したが、のちにその人たちによって虐殺されることになったということなのである。「女性や子供たちを傷つけることは先住民の信仰にはないもので、先住民の兵士たちがイラクで女性や子供たちの命を奪う勤めにつくことは間違っている。わたしたちにはそんなことをする権利なんてあるわけもない」
ブッシュ大統領やマスコミが「イラクを征服するのではなく民主化するのが目的」と戦争を正当化することに対しても、グランマはきっぱりと「ではインディアンの国々のどこに自由と民主主義があるというの?」とてきびしい。彼女はアメリカ合衆国政府による先住民族への人権や財産権の侵害は、そのまま心の中の最も大切なものへの侵害につながっていると主張する。
「わたしたちはこの大地としっかりと結びつけられているの。教養ある若者たちは何よりも自分たちの国を守るためにここで立ちあがるべきじゃないかな。未来の世代のために、土地と水と、先住民をつないでいる精神的文化的な生き方のためにわたしは闘うわ。わたしたち先住民の土地は聖なるものであり売り物などではないのだから」
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