野生馬たちの最後の戦い
北米大陸に馬を持ち込んだのはスペインの探検隊で15世紀のことでした。
アメリカ・インディアンはそれまで馬を見たことがなく、したがつてそれを「魔法によって大きくされた犬」と理解し「メディスンドッグ」と名づけたほどです。スペイン人が連れてきた馬たちは、小柄ではありましたが頑丈な体を持つていて、耐久性と知性で、征服者にも被征服者にも賞賛され、乗馬馬として高い評価を受けるようになります。
現在平原インディアンとされている人たちのライフスタイルは、馬の到来によって行動範囲も拡大し劇的に変化しました。ネイティブ・ピープルにとって馬は最大の財産となっていきます。
馬たちの中には人間よりもはるかに賢いものたちもいて、逃げ出して野生化していったものもかなりの数に上ります。野生の馬は「ムスタング」と呼ばれて、敵対するインディアンやバッファローが姿を消した今、北米大陸のフロンティアの最後のシンボル、生きている伝説となっています。ムスタングたちは人間と同じように部族で生きていて、リーダーとなるチーフの下に集まっています。
19世紀にはメキシコから北米西部平原、そしてカナダ西部までを股にかけて500万頭ものムスタングが群れをなして北米大陸を駆け回っていました。アメリカの大牧場主やその利権を代表する政府は、放牧の邪魔であるとしてこれまでも野生馬を何とか絶滅させようとさまざまな手段を講じてきました。彼らの水飲み場となっている泉の中に毒を流し込んだり、群れのチーフである馬たちの目を銃で撃つことで群れを一網打尽にして皆殺しにしたり、断崖絶壁に群れを追い込んで全員を墜落死させたりして、ペットフードなどに加工してきました。それでも今なおアリゾナ、カリフォルニア、コロラド、アイダホ、モンタナ、ネバダ、ニューメキシコ、オレゴン、ユタおよびワイオミングの西部諸州には4万2000頭もの野生馬がかろうじて生き延びています。
さてそこで、ウエスタン・ショショーニのメディスンマンでネバダの地下核実験場における核実験の全面停止と核実験場の返還を求めるコービン・ハーネィさんの「核の鎖を断つことを目的とするシュンダハイ・ネットワーク(Shundahai Network)」から届いたメールを紹介します。
来週の月曜日(12月6日)にある法律の付帯条項がアメリカの議会を通過しようとしています。その条項ではBLM(合衆国土地管理局)に西部諸州の公用地にいる2万3000頭の野生の馬たちの畜殺をはじめることを認めるものだそうです。10歳以上の馬はその場で殺され、10歳以下の馬は捕らえられて競売にかけられ、三回の競売で買い手がつかない場合は畜殺するというものです。
野生の馬たちは、バッファローやプレイリードッグや絶滅危惧種に指定された白イタチと並んで、すでに西部の大地のエコシステムを構築するためになくてはならないものの一部となっています。そしてそれはまたこの大地に根を生やして生きてきたネイティブ・ピープルの精神的文化的な生存にとっても欠かせないものなのです。
政府は野生馬を殺戮する表向きの理由として「数が増えすぎた」ことをあげていますが、背後に巨大畜産会社の圧力があることはよく知られています。アメリカの大統領ですら彼らの支援を受けているのです。イエローストーン国立自然公園の中にいた遺伝的に限りなく野生に近いバッファローの群れを虐殺したモンタナ州畜産局の背後にも強力なロビー活動を進める彼らがいましたし、今回の法律を遠そうとしている上院議員もまたモンタナ州選出です。
最初にインディアンたちの食料になっているという理由でバッファローたちを皆殺しにし、次には東から西に向かってインディアンたちを皆殺しにし、こんどはインディアンの心のよりどころになっている野生の馬たちを皆殺しにしようとしているわけです。
野生の馬たちが賢く生き延びてくれることを祈りたい気持ちです。
このニュースの詳細は「野生馬の命を救う会(WILD HORSE RESCUE)」のホームページにあります。
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