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Thursday, November 11, 2004

明後日のその次の日

『インデイアン・カントリー・トゥディ(INDIAN COUNTRY TODAY)』の11月5日号が「ホピの予言が指摘していた気象異変」という記事を掲載している。著者はインデイアン・カントリー・トゥディ紙のコラムニストで、ニューヨーク州立大学バッファロー校で「先住民研究」の教鞭を執るジョン・モホーク(John C. Mohawk)という人。記事はこういう書き出しだ。

「今から70年ほど前、ホピの伝統派が世界中の人たちに向けてあるメッセージを公表した。声明は、スピリチュアルなものへの関心が欠落したために世界が大きな厄災に見舞われる危険度が高まっていることを告げるものだった。その災いは、たとえば荒れ狂う嵐の形をとるだけでなく、結果として世界の人びとを脅かすようなありとあらゆる分裂や混乱の様相を呈することになるだろうと。彼らは、同じことが遠い過去にも起きたのだと語った。そして太古から伝えられた予言をふくむ、ありとあらゆるしるしが、同じことがまた起きようとしていることを告げていると主張した。このメッセージを伝えるためのスポークスマン的な働きをした人物にトーマス・バンヤッカ(Thomas Banyacya)がいた。そして実に興味深いことに、彼らがあのときに世界に向かって発したメッセージがあやまちでなかったことを証明するような事実が、ここへきてアメリカ中の図書館や科学雑誌の記事の中に散見されるようになってきたのである」

結構長い文章で全部を翻訳する余裕はないから、ここからは拾い読みしながら抄訳していく。そうなると当然ながら文中に小生の考えも入って行かざるを得ないから、そう思って読んでください。さて世界がとんでもない災害に向かっていることは、政治家以外の誰の目にも明らかだ。日本国であれ例外ではない。確かに伝統派のホピの人たちが予言したとおり「同じことがまた」起きているようだ。しかも世界の政治の状況を見れば、この迫りくる異常気象による脅威に対して、主要各国の政治的指導者が効果的に対応しているとはおよそ言いがたい。ブッシュ政権が「人間の活動が地球温暖化の原因かもしれない」ということをしぶしぶ認めたのは、今年の8月のこと。小泉政権は、ロシアが京都議定書を批准したことをうけるかたちで二酸化炭素の排出権を他国から購入しようと、恥も外聞もなく的はずれであきれた成金的行動を考えている。過激なイスラムのテロをおそれることを口実にする戦争の親方たちは、起こりはじめている異常気象による被害程度では、とても地球温暖化が現実の脅威となったとは考えられないらしい。どのくらいの被害が出れば彼らは腰を上げると思うかね?

さて問題の記事に戻る。記事はホピの予言についてはこれ以上のスペースを割いていない。というよりホピの予言にあった壮絶な浄化の時の科学的裏付けのほうにスペースを多く割いている。とりわけ二酸化炭素のような温室効果をもたらすガスが、過去に地球規模で気候を一変させた歴史をもっていることをすでに科学者は認めているというところが、この記事の第一の論点だ。

それはある人に言わせればざっと9億年ほど前にさかのぼる。もっとドラマチックで広く認められている理論では6億年ほど前、母なる地球はまだ氷の玉で、すっぽりと全体を氷河に覆われていた。ここは時間の静止したかのような氷の惑星だったわけ。永遠に続くと思われていたこの氷の玉状態から地球が脱出できたのは、いくつもの火山が噴火して盛大に二酸化炭素を大気中に放出し、そのために温室効果が引き起こされて、地表の平均気温が摂氏50度ぐらいにセットされてしまったから。

今度は、何年も何年も、何百年も何千年も、雨が天から降り続き、大気中の二酸化炭素は雨の中に溶けこんで、地球に送り返された。このいつ止むともしれない雨(循環する水)のおかげで、地球の大気のバランスがやがて安定する。そう、まさしくそうなったとき、劇的に増殖する生命体、無数の細胞からなる動物たちもそのなかに含まれるいのちが、地球に出現したというわけ。

なかなかクールな理論じゃないか。十分に説得力はある。母なる地球を覆っていた氷の厚さは、1000メートルぐらいあったかもしれない。温室効果を持つ大気中のガスの増大が、すべての気候の変化のはじまりだった。

地球規模で進む気温の上昇

さて、今のようになってしまった母なる地球に話を戻そう。このところ地球は温まり続けている。小泉純一郎はどうかしらんが、ジョージ・W・ブッシュだって、その程度のことはわかっている。これは間違いのない事実だ。アメリカ合衆国で「東部地域に暮らしているすべてのインディアンをミシシッピ河の西に移住させる」ことが決定した1830年、イギリス帝国で産業革命がはじまった年、このときから比べると地球の平均気温は華氏で1度、摂氏で2度近く上昇したという。これまでの20年間は、この1万2000年間で、もっとも暖かい20年間であり、この気温の上昇は、地球規模で進行中だ。(先の台風による大雨で被害を受けた皆さんにお見舞い申しあげます)

樹木の年輪を研究している人たちは、この20年間に、気候が過去に前例のない割合で変化していることを発見した。だが気候変化の影響が誰の目にもわかる形で顕著に現れているのが世界各地の氷河である。地球の至る所で氷河が劇的に後退したり消滅していっているのだ。たとえばアンデス山脈の奥深いところにある氷河をとりあげてみる。そんなところの氷河ですら、劇的に後退し続けてきている。一年間に30メートルずつ後退していっている氷河もあったりする。このままの速度で後退が続けば、あと50年足らずで氷河は完全に消滅してしまうという。氷の40パーセントがすでに消えた場所もある。アンデスだけではなく、すでに消えてしまった氷河は地球上に無数にある。過去何千年にわたって、地球にある氷河は、地球における幾世紀もの気象変化を記録し続けてきた。科学者は氷床(巨大な氷河)に穴をあけて採取したアイス・コアと呼ばれる氷のサンプルを、熱帯や極地から集めてきて蒐集している。そうしたアイス・コアには過去50万年分ぐらいの気候の変化がことこまかに記録されている。そのデータによれば、現在は、過去に未だかつてなかったほどに大気中の二酸化炭素の濃度が高まっているとされる。大気の成分をこれほど劇的なまでに変化させているのは、他ならぬ人間さまたちの活動であるだろう。二酸化炭素の濃度が臨界点を越えた瞬間、後戻りすることもできず、先を予測することもできないような、とてつもない気候の変化の引き金が引かれるのではないかと、科学者は危惧している。

異常気象の衝撃は地球各地で見られる。アラスカではそれはもう珍しくもなんともない。過去わずか30年間で、平均気温が5度も上昇して、氷河が溶けはじめているのだ。ある人の調査では、年間で3メートルから6メートルの速度で氷河が後退していて、後退の速度は年を重ねるごとに増してきているという。気象学者たちはすでに警告の声をあげた。あと50年ほどでグレイシャー・ナショナル・パーク(大氷河国立公園 / Glacier National Park)から氷河(グレイシャー)は姿を消してしまうだろうと。人間が母なる地球の肉体から取り出して自分の利便のために使っている化石燃料(石油や石炭)が、今も大気の化学構造を変え続けている。北の極北に近い地域から、まず温暖化がはじまっていく。アラスカではすでに永久凍土(数年以上にわたって夏季も零度以下で凍結している岩または土)が融解しはじめた。永久凍土は、もはや永久に凍っている大地ではなくなった。あと五年もすればアラスカの全土で霜がみな溶けて凍土はゆるんでしまう。すでに永久凍土のうえに建てられていた電柱が随所で大きく傾き、根元の土がむき出しになって、大地に無数の穴ぼこを残している。永久凍土のうえに建設されたアラスカ・パイブラインは、永久凍土が溶け出してパイブラインそのものが危険な状態になるなどということをまったく想定していない。永久凍土の融解は、道路やパイプラインを寸断し建物を崩壊させていくだろう。そして問題はそれにとどまらない。溶けていく永久凍土の有機物が急速に腐敗して大量の二酸化炭素とメタンを大気中に放出するのである。すでにアラスカの凍土はこの30年ほどで二酸化炭素を吸収する側から放出する側へ転換してしまっている。くわえて、夏期にはメタンが大量放出され、地球を取り巻く大気の温室効果をさらに高めて、気温を上昇させるのだ。悪いことがさらに悪いことを引き起こしていくわけ。

いったいなにが起きているのか?

だが、まるで予測もできなかったことが原因で、おそらくじきに想像を絶する衝撃がもたらされることは間違いない。1億2千万エーカーもあるアラスカの森林が、あろうことか数百万エーカーの単位で、おそろしい勢いで今死につつあるのだ。森林の崩壊は急速かつ破壊的な勢いで進行し、3百万エーカーの森林の木々が、温暖化によってもたらされた害虫の大量発生ですでに失われてしまった。エゾマツやトウヒなどの生えるもう少し暖かい気候の土地の森で生息していた「キクイムシ(spruce bark beetle)」のような樹木の樹皮を食べるムシたちが、いっせいにアラスカの森林を脅かしている。こうした森林を食べ尽くしてしまうムシたちは温暖化とセットでもたらされ、あまりにもムシの発生数が増えたために、そこに暮らしていた人間たちが家や小屋を捨てて避難しはじめた土地もある。アラスカの南部では、それ以前の70年間よりも、ここ数年で枯れて死んだ樹の数のほうが圧倒的に多い。

次は東アフリカに視点を移す。その不毛の大地は昔からときどき大量の雨が降ることはあったが、温暖化によって水の管理システムの限界を遙かに超えて広範囲な洪水が引き起こされるようになった。で、問題は汚染された水によるコレラの感染である。それに蚊の数も爆発的に増えている。ケニヤのように、これまで蚊とあまりというかまったく縁のなかった地域ですらも、蚊が媒介するマラリアが流行するようになっている。

温暖化というとよく人びとはエルニーニョを非難する。この大雨はあのエルニーニョのせいだなどと。だが、異常気象によって引き起こされる大災害の本当の原因は、おそらく地球の温暖化にあるのである。しかし問題はそれにとどまらない。地球がどんどん熱せられて温まると、大地はからからに干上がる。熱せられた水分は蒸発して大気に放出される。そうやって水蒸気を大量にふくんだ大気は、いつでも次の気象現象を引き起こすことができるのだ。洪水、記録的な大雨、未だかつて誰も経験したことがないような暴風雨。地球のある地域が洪水の被害を受けているとき、別の地域では干ばつを経験していたりする。カリフォルニアが洪水の時、インドネシアでは日照りが続いていた。

これこそ、伝統派ホピの人たちが警告したことではないのか。

気象を司る自然界のシステムは急激に変化しうる。過去にもそれは起きたことであるし、当然未来にも起こる。これまでで最高の気温が出続けている。おそらくやがて、それもそう遠くない将来に、われわれをとりまいている大気に含まれる二酸化炭素(CO2)の量は、およそ一世紀前の4倍に達するだろう。現在放出されている二酸化炭素の量の半分以上が、今後100年間は大気にとどまり続ける。地球の温暖化を引き起こしている要因がまぎれもなく人間の活動にあるということが証明されたときには、事態はもうすでに手遅れになっていることだろう。政治家たちは、経済やテロの問題を解決すればすべての問題が解決するかのよう自分たちだけで思いこんでいて、およそこの脅威と正面から正直に向かい合おうとはしていない。今年2004年の初めに『デイ・アフター・トモロー(明後日)』という温暖化のあとにくる突然の地球規模の氷河期をドラマ仕立ての冒険活劇にした映画が公開されたとき、ひとつの疑問が頭に浮かんだ。それは、デイ・アフター・トモローのその次の日はどうなるのだろうかというものだった。なるほどアメリカ政府も天候の異常が国家安全に対する脅威となるだろうことは理解しているらしいが、しかし事はその程度ではすまないくらいはるかに重大なのである。それは明らかに「種の生存」そのものへの脅威なのだ。それにはわれわれの、そしてほかのたくさんのみんなの「生存」がかかっている。

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Comments

初めて書き込みします。北山耕平さん、いつも貴重な情報をありがとうございます。ここ最近の気象情報や国内外のニュースを見てても、事態はどんどん悪くなる一方で、なのに自分は会社へ通い、大量生産に手を貸す仕事をしながらいわゆる普通の生活を送っていることに、大きな矛盾を感じる毎日です。本当に私たちに残された時間はあとわずかしかないと実感しているのに。。。出来ることは節約節制、無駄にエネルギーを使わない。欲しがらない。日々の糧に感謝すること。あと、何かしらの形で、家族や友人にこのことを伝えてゆけたらと考えています。ありがとうございます。
私も頑張ります。

Posted by: turtle dove | Friday, January 20, 2006 10:11 PM

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