イヌがいるのはなんのためか? (物語)
ホピ族につたわるおはなし
再話 北山耕平(きたやまこうへい)
アメリカ・インディアンのくらすところには かならず イヌが います。インディアンのひとたちと イヌたちは とてもなかのよい ともだちなのです。でも このおはなしは まだ イヌたちが アメリカ・インディアンのひとたちと ともだちになっていなかったころの おはなしです。
ちきゅうが まだ わかかったころ、あるむらに ひとりの しょうねんが いました。
しょうねんの くらすむらでは むらびとたちが かおをあわせれば いつでも おたがいにわるぐちをいいあったり ののしりあったり けんかをしたり していたそうです。
みんなが もっと なかよく できればいいのに と しょうねんは むねを いためていました。
ぼくが かならず みんなの けんかを やめさせてやる と しょうねんは まいにち じぶんに いいきかせていました。
あるひ しょうねんが たびにでる けっしんをしました。
じぶんが うまれたむらをでて もっとむらびとどうしが へいわにくらしている ほかのむらを このめで みてこよう。どうすれば けんかや ののしりあいをしないで うまくやっていけるのかを ぼくが べんきょうして かえってくれば かならず むらのひとたちから かんしゃされるにちがいない。
それが すぐかえれるような かんたんなたびではないことを しょうねんは よく しっていました。
ながいながい たびに なるはずです。
でも しょうねんが そのたびのために よういしたものは すいとうと おかあさんが かれのためにやいてくれた ぱんのかたまりが ひとつだけでした。
しょうねんは むらをあとにして どんどんと あるいていきます。
てくてくてくてく。
てくてくてくてく。
どっちにいけば なにがあるのかも まったくしりません。
もちろん ちずなんか ありませんし みちあんないしてくれるひとが いるわけでも ありません。
しょうねんは ただ ひたすら あるきつづけました。
てくてくてくてく。
てくてくてくてく。
すたすたすたすた。
すたすたすたすた。
てくてくてくてく。
てくてくてくてく。
なんにちも なんにちも くるひも くるひも しょうねんは あるきました。
てくてくてくてく。
てくてくてくてく。
すたすたすたすた。
すたすたすたすた。
てくてくてくてく。
てくてくてくてく。
そうやって たくさんのひると よるとが がすぎました。
あるひのことです。
しょうねんは いままでに いちども みたことがないような むらの いりぐちに じぶんが たっていることに きがつきました。まだ とおくはなれていたので よくはみえなかったのですが そっとむらのなかを うかがってみたところでは どうやら このむらの ひとたちは みんな しあわせそうに くらしているようです。
ところが むらのなかに あしをふみいれて すすんでいくにつれて そこが にんげんのすむむらではないことが わかってきました。
そこは イヌたちの むらだったのです 。
しょうねんは あつまってきたイヌたちに こえをかけました。
「このむらの チーフに おあいしたいのですが」
そのむらのイヌたちは それまで にんげんを みたことなど ないようでした。
でも しょうねんが わるいこころを もっていないことは すぐに わかったのです。しょうねんは むらにはいることを ゆるされました。
しょうねんは かいぎや ぎしきのひらかれる キバとよばれる とくべつなばしょに つれていかれました。じめんにあながあけられて そこから はしごが つきだしています。
そのばしょは じめんのしたにありました。
はしごをおりると そこは かなりひろいへやになっています。
イヌたちが ぐるりと わをえがいて こしを おろしていました。
イヌのチーフと このむらをしきる だいひょうの イヌたちです。
しょうねんは そのかいぎのわに とくべつにくわわることを ゆるされました。
まず ピースパイプが まわされます。
かいぎのまえには ぜんいんが けむりを ふかすのが ならわしでした。かいぎに さんかしていたものは みんな 4かいづつ パイプをふかすと それを つぎのひとに まわします。そうやって パイプが 4かい みぎへ ひだりへと いったりきたり しました。
しょうねんも みんなにまじって だまったまま けむりを ふかしました。
ぎしきが おわると いよいよ はなしをする じかんです。
しょうねんが くちを ひらきました。
「ここに ぼくが やってきたのは みなさんの おちからを おかり するため です。ぼくの むらでは ひとびとが いつもいいあらそったり けんかをしたり しています。みんなの けんかを やめさせて むらに へいわを とりもどすには どうすれば よいのでしょうか? このむらの イヌのなんにんかが いっしょに ぼくのむらに きていただけると うれしいのですが。」
でも チーフは こういいました。
「それは むらの ものたちに きいて みなくては なんともいえん。わしには めいれいすることなど できんのだよ。」
というわけで あつまっていた イヌたちが はしごをつたって みんなで そとへでていき むらびとの いけんを きいて まわることに なりました。
しかし イヌたちは だれひとりとして へいわな じぶんの むらを はなれたがりません。
よるが きました。
しょうねんは むらのはずれで のじゅくを することにしました。
ほしを ながめ ながら ねようと しましたが なかなか ねつけません。
どうすれば イヌたちと いえにかえれるか そればかりを かんがえて ながいながい じかんが いつのまにか たちました。
そのときの ことです。
ほっきょくせいから スピリットが しょうねんの ところに おりてきました。
「のぞみは なんだ?」と スピリットが いいました。「おまえの のぞむものは ここに なんでも そろっているぞ。」
しょうねんは さいしょ なにを のぞめばよいのか どうか わかりませんでしたが しばらくして このむらの イヌたちが みんな やせこけて おなかを すかせていることを おもいだしました。
「たべものを すこし いただけると ありがたいのです。」
とたんに スピリットは たべものを どこからともなく とりだし それを さずけて くれました。
しょうねんが めをさますと すぐそばに たべものが やまとつまれて います。
イヌたちが なんにんか むらから はしってきて いきなり その やまのような たべものに とびついて むしゃむしゃと たべはじめました。
スピリットから さずけられた たべものを たべている イヌたちの すがたを みて すぐに しょうねんは じぶんが ただしいものを スピリットに のぞんだことが わかりました。
どうやら イヌたちを じぶんの むらに つれて かえる ほうほうが みつかった ようです。
しょうねんは また あの ちかの かいぎをする とくべつな ばしょに でかけて いきました。
そして また みんなで 4かいづつ パイプを ふかして つぎの ひとにまわし そうやって また パイプが 4かい みぎへ ひだりへと いったり きたり しました。
しょうねんは チーフに いいました。
「ここのイヌの なんにんかが ぼくの たべものを たべました。ぼくの たべものを たべた イヌたちは ぼくと ともに いきたがっています。ぼくの たべものを たべて しまったのですから そのものたちは ぼくに したがう ことでしょう。」
それは ほんとうでした。
スピリットから さずけられた たべものを たべたイヌたちは もはや しょうねんの そばを すこしも はなれたがらなかったのです。
れんちゅうは そうやって しょうねんの あとについて しょうねんの むらまで はるばる やってきました。
しょうねんは むらの ひとたちの いえの いっけん いっけんを まわって 1ぴきずつ イヌを あたえました。
むらびとたちは イヌを もらって みんな しあわせになり けんかを しなくなりました。
それから そのむらでは むらの ひとたちが いいあらそったり けんかを したりすることが うそのように なくなったそうです。
イヌたちも にんげんの むらで しごとを みつけました。
いえや ひとびとを まもったり るすばんを したり、 のはらに いっしょにいって ひつじたちの ばんをしたりなど そうしたことも することにはしますが、 ほんとうは にんげんたちに けんかや いいあらそいをしないことを おもいださせること それが イヌたちの いちばん たいせつなしごとなのです。
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