コヨーテというなまえ (物語)
ヤキマ族につたわるおはなし
再話 北山耕平
※【ヤキマ族】大平洋岸北西部地域のワシントン州東部の高原森林地帯に最大の居留地をもつ部族。ロングハウスと呼ばれる大きな家を持ち、そこで儀式をとりおこないます。
とりたちにも どうぶつたちにも まだ なまえが なかったころの おはなしです。
「うーむ、なんとか しなくては いかんなあ。」
と、かみさまは かんがえました。
「そうだ。すべての どうぶつたちに なまえを あげよう。いいか、みんな。よく おきき。あしたの あさ、ひが のぼる じかんに なったら、みんなに なまえを つけることにする。はやく おきた ものから、よい なまえを じゅんばんに さずけてあげよう。」
それを きいて コヨーテは おもいっきり、こうふん しました。あまりに こうふんしたので あいてが とりであれ どうぶつであれ、かおを あわせれば、だれに むかっても ぺらぺらぺらぺら はなしかけます。
「だれよりも はやく おきて やるぞ。いちばん いい なまえを もらうんだ。あしたに なれば、きみは ぼくのことを おおわしとか くまとか そういういうなまえで よぶことに なる。」
もうコヨーテは すっかり つよそうな なまえを もらった つもりで、じまんばかり。
ひるから よるが ふけるまで のべつまくなしに、ぺらぺらぺらぺら はなし つづけていました。
ほかの ほとんどの どうぶつたちや とりたちが ねむりに ついてしまっても コヨーテだけは ひとりで めをらんらんと かがやかせていて、よぞらの つきや ほしたちに むかって えらそうな ことを いつまでも いつまでも はなしつづけていました。
あんまり いっしょうけんめい はなしたので、しまいには とても つかれて しまいました。
ひがしの ちへいせんから たいようが のぼる すこし まえ、コヨーテは やっと ねむりに つきました。とても とても つかれて いたので、たいようが そらたかく のぼっても ぐーぐーぐーぐー。
ほかの どうぶつたちや とりたちは みんな よが あけると、さっそく あたらしい なまえを もらいに でかけました。
ところが、コヨーテだけは こんこんと ねむりつづけたのです。
ようやく めを さました とき、あたりは もう くらく なりかけて いました。
「やったぜ。」と、コヨーテが おおごえを だしました。「どうだい うまく いった。たいようが のぼる まえに おきれたぞ、しめしめ。これなら いちばん さいしょに なまえが もらえるわい。」
コヨーテは おおいそぎで かみさまの ところに いきました。
「かみさま あたらしい なまえを わたしに ください。」
「そうかそうか。」
「しろわし という なまえが ほしいんです。」
「その なまえは もう とられている。」
「くま、くま という なまえは?」
「その なまえも もう ないな。」
「マウンテン・ライオンは? タカは? オオカミは? スカンクは? リスは?」
つぎから つぎへと、おもいつく なまえを あげましたが、どれもこれも みんな すでに とられてしまって います。
コヨーテは とうとう たずねました。
「いったい なんという なまえが のこって いるんです?」
「そうだな。のこって いるのは たった ひとつ。それは コヨーテだ。それが おまえの なまえだな。」
という わけで、コヨーテは いまも コヨーテという なまえで よばれて いるのです。
おしまい。
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